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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第二話

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第二話ーー曇りのち晴れーー10

 「どうしようか?」


 康二は恐る恐る希に聞いた。


 こんな事を女性に聞く方も聞く方だが、実際、普通の女の子は、こんな事をされたら、怒っていても仕方が無い。いや、普通は怒るだろう。

 実際、裕介のお使いという目的が無くなってしまった康二には、こう言った場合の対処を、どうしたら良いのか、正直わからなかったのだ。


 もちろん、希も、そんな事を言われてもどうしたら良いのかわからない。希の中では、こんな事で怒るつもりは毛頭無かったが、それよりも、康二を意識させられてしまった事に戸惑っていたのだ。


 二人の間に、また微妙な空気が流れた……


 「とりあえず」


 「とりあえず」


 二人が同時に口を開いた。


 「あっごめん。どうぞ」


 康二が慌てて言った。


 「いえいえ、康二さんから」


 希が笑いながら言った。


 「いや。やっぱりここは希ちゃんから。裕介さんの悪ノリに巻き込まれたんだから」


 「そうですか?じゃ…………」


 希は、少し溜めてから、


 「せっかくだから、お店見て回りません?」


 希が明るく笑って言った。


 「良いの?」


 康二は思わず聞き返した。こんな騙し討ちみたいな事、希が怒りだしても仕方がないと思っていたからだ。何よりも、希が怒っていない事に安堵した。


 「もちろんですよ」


 希が笑顔で返した。


 「良かった。希ちゃんが怒ったらどうしようかと思ってた」


 「そんな、怒るわけないですよ。それに康二さんに色々教えてもらいながら見て回ったら、面白いし」


 希が言った。希自身、今日は、色々新鮮な事ばかりで楽しかった。もっと、康二と話したい、康二の事を知りたいと思った。


 「そっか、安心したぁ」


 康二は、安堵した表情を見せた。


 「怒って、帰るって言ったらどうしようかと思ってた」


 「そんなこと言うわけないじゃ無いですか」


 希は、笑って答えた。


 「いや、マジで……あの人、こう言う事あるからさ、慣れないと怒ってもしょうがないなって」


 康二は、希が怒っていない事が、本当に嬉しかった。

 それは、自分の仲間がしでかした事を、受け入れてくれていると思えたからだ。自分はどう思われてもいいが、仲間の事を悪く思われるのが嫌だった。

 康二は、希の優しさが嬉しかったのだ。康二も希の事をもっと知りたいと思った。


 「それで、康二さんは何を言おうとしたんですか?」


 希は康二に聞いた。希としても、康二がどうしたいのかを聞きたかったのだろう。


 「僕?」


 「はい」


 希は期待した顔を康二に向けている。


 「僕は……」


 「はい」


 「僕はね……」


 「はい……」


 康二もたっぷりと溜めて、


 「僕も……希ちゃんと同じ事を言おうとした。もちろん嫌じゃ無かったらだったけど……」


 「やっぱり!」


 希の顔が一際明るくなった。


 「え!」


 康二は希の反応に驚いた。


 「そんな気がしたんですよねぇ」


 希は、無邪気に言った。しかし急に真顔になって言った。


 「だけど、さっきのは溜めすぎですよ。あんまりやり過ぎると面白くないです」


 「あっ!」


 「あそこまで溜めちゃうと、期待値上がりすぎちゃいますからね。私も、いろいろと期待しちゃいますよ……あっ!すいません」


 希は、慌てて言いかけていた事を止めた。しかし、鈍感な康二は全くそんな事には気が付いてなく、


 「そっかぁ、溜めすぎかぁ。なかなか難しいもんだね」


 的外れな所に感心していた。こういう所が康二らしいと言えば、らしいのだが……


 何だろうな……この人と話していると、ホッとする……


 希はそんな康二を見て、心地良い安心感を覚えていた。気取るわけでもなく、自然体で接してくれる康二といる事が心地良く感じていた。


 「行きましょ!いろいろ教えて下さい」


 希は、康二に言った。


 「うん、行こうか」


 康二と希は、二人並んで店に入って行った。


 「やっぱり凄いですねぇ。色んな物売ってますね。私、ここに来たの二度目なんですよ」


 店内は、バイク用品が綺麗にディスプレイされている。バイク乗り達が思い思いに商品を手に取り選んでいた。


 「そうなの?あんまり来ないの?」


 康二は聞いた。


 「そうなんですよ。バイクの免許を取る前に、ヘルメットとグローブと靴を買いに友達に連れてきてもらいました」


 「そっか。必要最低限の3点セットだね。それ以外では来なかったの?」


 「はい。どうしても私一人だと何にもわからないし、入りずらくて……」


 希は、申し訳なさそうに言った。


 「なるほどね」


 確かに初心者で、ましてや女の子一人だと入りずらいだろうな……


 「一緒に来てくれる人はいなかったの?」


 康二は聞いた。希がバイクに乗るきっかけを与えた人がいるだろうと思ったのだ。


 「先輩とか、4年生だったから結構忙しくて……同級生には、私の周りにはバイクに乗っている人がいなかったから……」


 「ふーん。そっか」


 康二はそう思った。


 そう考えると、僕は恵まれているな……


 康二は、兄の康一にバイクの楽しい事も辛い事も教わった。

 康一以外にも色々と気に掛けてくれるバイク乗りが沢山いから、康一や裕介の側にいれば、自然とバイクの知識が増えて行き、話を聞いているだけで、バイクが大好きになっていった。


 逆に希は、別にバイクに興味があるわけではなく、普通の女の子だったのだろう。

 ただ、憧れの先輩がバイクに乗っていただけ、先輩に近づきたいという、至極、年頃の女の子らしい理由だけで、バイクに乗り始めただけだ。


 バイクが好きで乗っていると言うわけでは無いのが、あの半年放置されていたバイクを見れば容易に想像が出来る。

 それに、バイクが好きならば、最近は女性向けのバイク雑誌もあるし、雑誌でも、ネットでも容易に情報を得る事ができたはずだ。だが、残念な事に、せっかくバイクに乗り始めても、バイクの事を教えてくれる人も身近にいないし、自ら情報を得ようともしない普通の女の子だったのだ。


 本当に何にも教えてもらわなかったんだ……バイクが、ああなるのもわかるな……


 言い方は悪いが、憧れの先輩に近づけるのならば、別にバイクでは無くても良かったわけだ。


 せっかくバイクに乗り始めたのに勿体無い……


 バイクが大好きな康二としては、せっかくバイクを知る事が出来た希には、バイクの楽しさを知ってもらいたいと思った。

 その上で、もう一度自分が乗るか降りるかを考えれば良い。

 だけど、何にも知らないまま、バイクに対する印象が良く無いままで、バイクを降りるのは勿体無いし寂しいと思っていた。


 それじゃ、悲しいよ……


次回の更新は、12月01日になります。

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