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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第二話

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第二話ーー曇りのち晴れーー08

 康二たちは、休日の昼下がりと言うこともあり、渋滞に捕まる事もなく、順調に走ることが出来ていた。この幹線道路は、平日ともなると渋滞が多く、道幅も狭い為、すり抜けもそれなりに気を使うし、気持ち良く走ることが出来ない。


 やっぱ、休日のこの時間は車が少なくて良い。


 康二は機嫌良く、裕介のCBを運転していた。


 流石、裕介さんのCBだね。めちゃくちゃ調子良い。


 康二は、裕介のCBの状態の良さに感心していた。


 このCBは生産が終わってから40年も経っているのだ。これは、いわゆる旧車に乗っているオーナー共通の悩みではあるが、パーツの入手もなかなか難しくなってきている。そんな旧車乗りには厳しい状況でも、ここまで良いコンディションを保っている裕介には素直に尊敬するしかない。性格は別にしても……


 あの人、バイクにだけは真面目なんだよなぁ……


 気持ち良く、裕介のCBを走らせている康二の後ろで、希は改めて康二の運転テクニックに驚いていた。何よりも運転がスムースなのだ。後ろに乗っている人間に不安を感じさせない安心感のある運転。これは、あまりバイクの経験が無い希でも、康二の運転が上手いというのが分かった。希自身、他の人のタンデムシートに乗った事はある。しかし、どこか、ぎこちなさを感じたり、ブレーキの度に、ショックを感じたりして、あまり快適と言える物ではなかった。しかし、康二の運転は明らかに違ったのだ。正に、タンデムシートに乗っていてもバイクの気持ち良さを味わえる。このまま海にでも行きたいとさえ思えた。


 信号が赤に変わり、康二は希に声をかけた。


 「大丈夫?」


 「大丈夫です。すっごく気持ち良いです」


 「そっか。もうちょっとだからね」


 「はい」


 希が楽しそうで、康二は内心ほっとしていた。それというのも裕介の悪ノリとも言える強引さに慣れていない希が嫌な思いをしていないか心配だったのだ。


 これ一歩間違えるとパワハラだもんな。


 一応、会社員である康二は、正直そう思っていたのだ。しかし、実は、裕介の悪巧みはこれだけでは無いのだが、二人は知る由も無かった。


 信号が青に変わり、康二は、またスムースにCBを発進させた。


 しばらく走ると、目的のバイク用品量販店の看板が見えてきた。康二は、シフトダウンをしながら、ゆっくりと減速をしてCBを駐輪場に入れた。休日という事もあって、駐輪場には色とりどりのバイクが並んでいた。皆、思い思いにバイク仲間同士談笑をしている。その中を康二は、空きスペースを探すために徐行していた。談笑していたバイク乗り達は、皆CBを目で追っていた。


 いつもの事だが、旧車に乗っていると目立つ。特に、裕介のCBは赤と白のカラーリングもそうだが、750でも900でもなく、1年しか生産されていない1100だ。希少性もあって、バイク好きは、どうしても注目してしまう。但し、康二はそう言うのは苦手だった。


 空きスペースを見つけ、康二はCBをそこに止めると、一ふかししてエンジンを切った。このエンジンを切る前の一ふかしは、康二の癖みたいなもので、雄介も遥子もエンジンを切る時にやる。本来はキャブレターのバイク時代の名残でプラグが被らない為などとは言われていたが、インジェクションである現行車では意味が無い。これは、キャブレター車に乗っている旧車乗りの癖なのだ。


 「お疲れ様」


 バイクを降りた康二はヘルメットを脱ぎながら希に言った。


 「全然疲れて無いですよ。康二さんの運転がすごく上手だったから、もっと乗っていたかったです」


 ヘルメットを脱いだ希は笑顔で答えた。


 「そんな上手くないよ。長く乗っていればみんなこうなるって」


 康二は、少し照れて答えた。


 「それに、さっきエンジン切る時もフォンッ!てふかしたじゃないですか!あれもめちゃかっこいいです!」


 「いやいやいや、あれも癖みたいな物だから……」


 希にしたら、全てが新鮮だったのだろう。すごく楽しそうだ。


 「それにしても、凄いですね」


 希は感心したように言った。


 「何が?」


 「みんな雄介さんのバイクが気になるみたい」


 「旧いバイクだからね。珍しいんじゃない?」


 康二は自慢するでもなく、そっけなく答えた。


 実際、康二にしても雄介にしても遥子にしても、自分達が旧車と言われるバイクに乗っている意識は全く無かった。旧いバイクとはいえ、コレクションのように扱うわけでもなく、普段使いに使っている。もちろん、旧い分、気を使う所は多々あるし、メンテナンスも楽では無い。ただ自分達が好きで乗っているバイクなだけなのだ。

 よく、バイク乗りに「凄いですね」とか「メンテナンス大変でしょう?」と聞かれる事はあるが、3人は揃えて「全然」と答える。3人にとっては、当たり前の事をしているだけで、感覚的には最新の現行車に乗っているのと変わらないのだ。


 「そうなんですか?」


 確かにバイクに乗っているとはいえ、あまり詳しくはない希には、このCBの価値なんかはわからないのだろう。それが、康二には心地良かったのかもしれない。実際、毎回、バイク乗りに注目されるのにうんざりしていたのだ。3人にとってどんなバイクだってバイクには変わらないのだ。だから特別扱いはしてもらいたくは無いし、特別扱いもしない。希のこのナチュラルな反応が新鮮で嬉しいのだ。

次回の更新は、24日になります。

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