第二話ーー曇りのち晴れーー06
「ほんと可愛かったなぁ。康二クン」
遥子は、当時を懐かしみながら、しみじみと言った。
「それから、ちょいちょい塾帰りに遊びに来るようになってね。私も裕介も兄弟がいないからさ、弟が出来たみたいで嬉しかったんだよね」
希は、楽しそうに話していながらも、時折、遥子が寂しそうな顔をしていることに気が付いた。
だから、3人はあんなに仲が良いんだ……大切な人を失ったって言う、同じ悲しみを持ってるから……
希は、昨日の康二の寂しそうな顔を思い出していた。
康二さんもこんな顔をしてた……
ピロン
突然、遥子のスマホが鳴った。遥子はスマホを見ると、
「おっ裕介からだ。何々?希ちゃん!」
「はい!?」
「康二が来たってさ。あっちに行こ!灯ちゃん、あとよろしく!」
「はーい!」
遥子はアルバイトの灯に声をかけると、エプロンを脱いで、カウンターから出ると、希を促した。
「さ、行こ行こ」
そう言うと二人は店を出て行った。
「来たよー。あれ?康二クンは?」
明るく声をかけて遥子が入って来た。
「康二は奥にいるよ。親父と話してる」
裕介は店の奥を指差しながら言った。
「ところで、肝心の希ちゃんは?」
「えっ?」
遥子は慌てて店の外を見ると、希が店に入るのを戸惑っている様子だった。
「どうしたの?早く入りなよ」
遥子は、希に声をかけた。すると
「なんか、ちょっと、改めてだと……なんか入りずらいっていうか……」
希は、ちょっと顔を赤くして、照れながら言った。思い切って、ここまでは来たのは良いが、改めてとなると、ちょっと気まずい思いが強くなってしまっていた。ましてや、ここの人達は、康二を意識させるような事ばかりを言うから、希も過剰に意識してしまっていた。
遥子は、そんな希を見てニヤリと笑って、
「何を今更言ってんの。入りなよ」
と背中を押して、店内に入った。
希は、遥子に背中を押されておずおずと店に入って来ると、裕介が笑いながら声をかけた。
「お待ちかねの康二が来たよ」
「は、はい……」
そう言うと、希は俯いてしまった。それを見た裕介は、ニヤリと笑い、奥にいた康二に声をかけた。
「康二!希ちゃんが来たよ!」
呼ばれた康二が、奥からオヤジさんと一緒に出てくると、希に優しく声をかけた。
「こんにちわ!」
そう言われた希は、ますます顔を赤くして、ぺこりと頭を下げると、
「あ、あの……昨日、お返しするのを忘れてしまった免許証……お返ししなきゃと思って……」
「ありがとう!僕が昨日言うの忘れちゃってたから、ごめんね」
「いえ、そんな……」
この二人のやり取りを見ていた裕介と遥子は、ますますニヤニヤしている。
「お前ら、悪人の顔してるぞ」
オヤジさんが二人を見て、呆れて呟いた。
「わざわざ、この為だけに来てくれたんだぞ、康二」
裕介が殊更大袈裟に康二に言った。
「本当に?いつでも良かったのに……わざわざ来てくれたんだ?本当にごめんね」
「いえ、免許なかったら困るだろうなって思って……」
そう言うと、希は、康二に免許を差し出した。
「ありがとう」
康二は、免許を受け取ると、希にお礼を言った。すると、ここぞとばかりに裕介が二人に割り込み、
「さて、無事、免許も戻って来た事だし、康二にはお使いに行ってもらおうかな」
「おつかい?」
「そう、ちょっと注文し忘れたものあってさ。納車に間に合わねぇんだわ。だから、ちらっと量販店で買って来て欲しいんだ」
オヤジさんと遥子は、かなり無理のある言い訳を言った裕介を見て、呆れた顔をしていたが、当の康二は全く気が付かずにいた。
やっぱり、こう言うところは、抜けてるのよねぇ……普通、不自然だってわかるでしょうに……それにしても裕介の奴、何企んでるんだか……
遥子は、抜けている康二と悪巧みをしている裕介に呆れていた。
「しょうがねぇな。いいよ。軽トラで行ってくるよ」
裕介は無言で首を振り、康二にヘルメットとバイクのキーを渡した。
「俺のCB子ちゃんで言ってくんねぇかな。最近乗ってやれてないから」
「えー。軽トラの方が楽じゃん」
康二が文句を言った。
「良いじゃん、せっかく雨も降ってないんだし、二人でドライブがてら、な」
と言いながら、裕介は、希にもヘルメットとリュックを渡した。
「え?私もですか?」
希は驚いて言った。それもそうだろう、突然話を振られたんだから。
「うん。もちろん」
裕介はニコニコとしながら答えた。
なんか、変だなと思ったんだよな……店の前にCB出てたし……
いくら抜けている康二でも、何か気が付いてはいたようだ。それにしても、まさかこう来るとは思ってもいなかったようだ。
それにしても、何企んでるんだ?
康二は、とりあえず、裕介の悪だくみを警戒していた。こう言う時の裕介は油断がならない事を経験で知っていたからだ。
そんな康二の事なぞお構い無しに裕介は言った。
「さ、頼むよ。リュックの中にお金と、買って来てもらいたい物のメモが入ってるから」
裕介は、希の事もお構い無しに話を勝手に進めている。
康二は、観念して、
「しょうがないな……良いかな?希ちゃん」
康二は希に聞くと、希は顔を赤くしながら
「はい」
と小さく頷いた。
次回の更新は、17日になります。




