第二話ーー曇りのち晴れーー02
「いらっしゃいませ!あれ?希ちゃん」
遥子が明るく言った。
「こんにちわ!」
希も明るく答えた。
「さ、入って入って」
遥子は、希を店に招き入れ、
「さ、ここに座って」
カウンターの席に案内した。
「コーヒーで良い?」
遥子は希に聞いた。
「はい……それと……チーズケーキをお願いします。昨日頂いたの、すごく美味しくって」
「本当?嬉しいな。ちょっと待っててね」
希は、遥子が準備をしている間、店の中をゆっくりと見回した。こじんまりとしてはいるが、調度品も内装も落ち着いていて、遥子のセンスの良さが感じられた。店内もそこそこ若い女の子で混み合っている。
希は、暖かい居心地の良さを感じていた。
これも遥子さんの人柄かな……
希はそう感じていた。
「はい、お待たせしました」
希の前に、コーヒーとチーズケーキが置かれた。
「美味しそう!」
希は思わず声を上げると、早速一口チーズケーキを口に入れた。
「うーん、美味しい!」
遥子は、そんな希の姿を見て微笑んで言った。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、お姉さん嬉しくなっちゃうよ」
「いや、お世辞でも何でもなくって、本当にめちゃくちゃ美味しいですよ」
「ほんと?嬉しいな。アイツもこれだけは美味しいって言ってくれてたな……」
遥子は呟いた。希は、遥子が一瞬見せた淋しげな顔が気になった。
「アイツ?」
「あれ?私何か変なこと言った?」
遥子は慌てて誤魔化した。希もそれ以上聞いてはいけない気がして、何も聞かなかった。
「このチーズケーキね、結構評判が良くってさ。ネットなんかでも評価してくれてるんだけどね」
「すごいじゃないですか!」
「だけどさ、隣のイカつい客が来るわけ。この店に全然につかわしくない奴らがさ。そいつらが、女の子のお客に混じってここでケーキ食べてんの。それも、恥ずかしいのか小さくなって……想像できる?」
希は思わず吹き出してしまった。
イカつい、バイク乗りの人たちが、こんな可愛いお店でチーズケーキ?想像できない……
「ねぇ。営業妨害だよねえ。どう思う?」
「確かにあんまり似合わないですよね」
「でしょ?だけどね、ネットには、バイク乗りのおじさん達が美味しそうにケーキ食べてるのが可愛いとか書かれてんの」
遥子は、そう言うと笑った。
「確かに、それわかるかも……さっき、隣に昨日のお礼と思って、缶コーヒー差し入れに持って行ったら、UCCじゃないっておじさんが落ち込んで、それ見たら、なんか可愛いなって思いました」
遥子はびっくりした顔で
「マジで!?」
「はい」
遥子は呆れた顔で言った。
「今の若い子の感覚はわからんわ。まあ、あいつらが来ても別に迷惑をかけるわけじゃないし、売上に貢献してくれるからね。あいつらバイク降りたら意外と紳士だからさ」
「紳士?」
「そう、大きい会社の偉い人とか、医者とか、弁護士もいたかな」
希は遥子の話を感心して聞いていた。
「へえ、そんな人達も来るんですか?」
「うちにって言うより、隣にね。隣の親父、ああ見えて凄腕だから」
希は驚いて聞いた。
「そうなんですか?」
「うん、みんな、あの親父を頼って来るんだよね。だけど、あの親父はあんなんだから、気に入らない客は追い出してるけど」
希は苦笑いをしながら、
「私も追い出されそうになりました」
遥子は、笑いながら言った。
「うん、知ってるよ。あの親父ぶつくさ言いながら、うちに来たもん」
「すいません」
希は小さく頭を下げて言った。
「だけど、怒ってもらえて、色々考えさせられました。今までそんな事言ってくれる人いなかったし」
遥子は、そういった希を見て、笑顔で言った。
「なら良かったじゃない。あの親父も、そんなにぐだぐだ言うような奴じゃないからさ。まぁそれが無かったら、どうしようも無い親父だけどさ」
「そんな……、でも……さっきも優しかったです」
「基本、あいつら若い女の子好きだからね」
遥子は笑った。
「で、今日はどうしたの?」
遥子は希に聞いた。勘が良い遥子は、勘付いているのだが……そこは悪ノリ3人組、希の口から言わせたかったのだ。
「いえ、康二さんの免許証を返しに……」
希は照れながら言った。まだ、隣で裕介とオヤジさんにからかわれたのを引きずっていた。何でもない事でも康二絡みとなると意識してしまう。
遥子は笑いながら言った。
「ああ、昨日聞いた、聞いた。康二クンらしいよね。どっか抜けてるんだ、アイツ……だけど良いやつでしょ?」
「はい!」
希は笑顔で答えた。遥子はそんな希を見て笑顔で言った。
「アイツはさ、私たちのかわいい弟なんだ……と言っても、みんな結構、歳いっちゃってるけどね……だけど、アイツ本当にいい奴だからさ、これからも頼むね」
希は笑って言った。
「裕介さんも同じ事言ってましたよ」
「アイツも?やばい、被った……」
希は、本気で悔しがっている遥子を見て笑った。
「本当に3人仲が良いんですね」
遥子は急に少し顔を曇らせて、間を開けて言った。
「……本当は4人だったんだ……」
遥子は、昨日、車の中で康二が呟いた事と同じ言葉を呟いた。
遥子は、棚に飾ってあった額に入った写真を手に取って、希に見せた。
次回の更新は、11月3日になります。




