第二話ーー曇りのち晴れーー01
希は、少し緊張していた。
裕介や遥子とは、昨日、多少なりとも打ち解ける事が出来たが、オヤジさんとは、怒鳴られた後、結局、会わないまま帰ってしまったので、気まずさを感じていたのだ。
だけど……免許証を返さないと、康二さん、困ってるよね……それに、好きな缶コーヒーも持ってきたから、きっと大丈夫!
希はそう思うと、思い切って、後藤オートに入った。
「こんにちわ!」
「あれ?希ちゃん!どうしたの?」
裕介が明るく答えた。店の奥には、オヤジさんが老眼鏡をかけて、新聞を読んでいた。
「あの、これ……昨日康二さんが缶コーヒーを買ってたんで、お好きだと思い、私も買ってきました」
希は、コンビニ袋を裕介に渡した。
「おお、ありがとう!親父、希ちゃんから差し入れ!」
「おお!」
オヤジさんは、新聞を読むのを止め、奥から出てきて、希が買ってきたコンビニ袋の中を覗き込んだ。
「UCCが無ぇ」
オヤジさんは大きく落ち込んでいた。
「えっ?UCC?」
裕介が小さい声で希に言った。
「親父はね、缶コーヒーはUCCが好きなんだよ。因みに俺はジョージアね」
裕介は、コンビニ袋を覗き込むと、
「ああ、ポッカか……これは、康二が好きな奴だ」
と言うと、ニヤリと笑った。
「すみません。気が付かなくて……」
希は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「何謝ってんの。全然気にしてないよ。希ちゃんが買ってきてくれたんだもん。な、親父!」
裕介は、落ち込んでいるオヤジさんに声をかけた。
「ああ……だけどよ……」
「はい!」
希は、まだ緊張している。また、怒られるかもしれないと思っていたのだ。
「今度、来る時は、UCCで頼むよ、な」
と言うと、希に笑顔を見せて、袋から缶コーヒーを一本取り出して、缶を開けた。
「はい!!」
希は元気良く答えた。オヤジさんから笑顔を返して貰ったので嬉しかったのだ。
「それで?今日はどうしたの?まだ、バイク出来てないけど」
と裕介が聞くと
「あの……実は……免許証を康二さんに返したくて……」
「ああ、それか!」
オヤジさんと裕介は大きな声で笑った。
「昨日聞いたよ。マヌケでしょ?康二って」
「アイツらしいけどな」
オヤジさんが、缶コーヒーを飲みながら言った。
「希ちゃんも困ったでしょ?いきなり免許渡されてさ」
裕介が希に聞いた。
「はい……いえ……あの……」
「アイツは、昔っから抜けてる所あるからな」
裕介とオヤジさんは笑い合っている。
「でも!」
希は、二人の笑いを遮るように言った。
「でも、でも、私は誠実で良い人だって信用できましたよ!」
「!?」
「ほう!?」
裕介とオヤジさんは、希の反応に少し驚きもしたが嬉しかった。自分の身内が良く言われるのは、誰もが嬉しいものだ。康二は、この二人の大切な身内なのだから……だからこそ、時には、なかなかキツイ悪ふざけもしかけたりするのだが……
裕介は、笑って言った。
「希ちゃんが、康二の事をそう言ってくれて嬉しいよ」
「えっ」
希の顔が赤くなった。
「あいつ、俺たちの大事な弟だからさ、これからも頼むよ」
「えっ!?えっ!?」
希は戸惑っていた。
そんな……私、康二さんの事、意識してる?昨日会ったばかりなのに……?
裕介は戸惑っている希を微笑ましく見ながら言った。
「康二は、もう少ししたら来ると思うからさ。免許は、その時に直接返せば良いじゃん。それまで、遥子の所で待ってれば良いよ」
「そうしな。そうしな。そしたら、その赤い顔も収まるだろうしな」
オヤジさんがいやらしい笑い顔を浮かべて言った。
「若い子をからかわねぇの!全く……ごめんね。デリカシーのない親父で」
「いえ、大丈夫です……」
と言いながら、
そんなに顔に出ちゃったかな……
と、思っていた。
「遥子さんのところに行ってきます」
そう言って、頭を下げると、そそくさと逃げるように店を出た。裕介達のイジリに、まだ免疫が出来ていない希は、どう言う反応を返して良いのかわからなかったのだ。
「良い子じゃねぇか。初々しくてよ」
親父さんが、何だか嬉しそうに言った。
「何だよ。昨日とは全然違うじゃねぇか」
裕介が親父さんをからかうように言った。
「昨日は、昨日。今日は今日だよ。それに昨日は、お前らに花を持たせたんだよ!」
「はいはい、わかってるよ」
と裕介は親父さんをいなしながら、
「良い事考えたっと」
そう言いながら、イタズラをするときの笑みを浮かべて、店の裏に向かった。
「おい、何するんだよ」
オヤジさんは、心配そうに裕介に聞いた。
「作戦、作戦っと」
裕介は、それだけを言うと、オヤジさんに肝心な事は何も言わずに、ウキウキとした表情で、店の裏に向かった。
「おい、あんまりやりすぎんなよ。遥子に怒られんぞ」
次回の更新は、31日になります。




