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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第一話

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第一話ーーある雨の日ーー11

 「さて、行こうか」


 康二は、シートベルトを締めながら言った。雨が上がったとは言え、まだ路面は濡れていた。


 これで、タンデムで送っていけなんて、裕介さんは何考えてるんだ?


 「本当にすみません……」


 希もシートベルトを締めながら、康二に頭を下げた。


 「ここからだと……甲州街道出て、環八上がれば良いかな」


 「はい。それで大丈夫です」


 「了解」


 康二と希を載せた後藤オートの軽トラックが、まだ雨に濡れた道路を走り始めた。


 「軽トラックだから、乗りごごち悪いけど……」


 康二は申し訳なさそうに言った。


 「いえいえ、そんな……何から何までお世話になっちゃって、本当にすいません」


 「いやいや、こちらこそだよ。逆に嫌な思いをさせちゃってごめんね。あのオヤジ、普段は優しいんだけどさ。クセがあるっていうか……昭和のオヤジっていうか……」


 康二は申し訳なさそうに希に言った。女性との会話に慣れていないせいか、どこか、ぎこちない言い方になっていた。


 遥子さんとは上手く話せるんだけどなぁ。


 「ごめん。情けないけど女の子と話すの得意じゃ無いんだ。裕介さんならもっと上手く話せるんだろうけど……あ、バイクはちゃんと見るから安心してね」


 希は、そんな康二を見て、自然と笑みが溢れた。康二の人柄の良さが安心感を与えてくれた。


 「お願いします。私ができなかった分、面倒を見てあげて下さい」


 「それだけは任せて。あんな店に連れてったお詫び」


 「あんなお店だなんて酷いですよ」


 希は笑いながら言った。


 康二は希の反応に少し驚いていた。


 いきなりオヤジさんに怒鳴られて泣かされたのに……


 正直、もう行きたくないと言ってもおかしく無いと思っていた。


 「私、オヤジさんが怒った理由、裕介さんに言われて少しわかった気がします。自分の命を預けるからこそ大事にするって、凄く大切な事を今日は教えて貰いました。初めは怖かったけど、今は感謝してます」


 康二は希の話を聞いて少しほっとして嬉しかった。


 ちゃんと伝わったみたいで良かった……


 「そっか、良かった……本当に良かった。オヤジさんに聞かせたいよ」


 「やめて下さい。恥ずかしいですよ」


 和やかな空気が車内に流れた。女性と話すのが苦手な康二だが、不思議と希とは素直に話せる。実は希も同じように感じていた。あの3人の兄弟のような関係が、兄弟がいない希には羨ましく感じていた。


 「でも、皆さん仲良いですよね。3人で仲良し兄弟みたいでしたよ」


 「本当は4人だったんだけどね……」


 康二がぼそりと呟いた。


 「えっ?」


 今まで明るかった康二の印象が変わったので、希は少し驚いた顔をした。

 康二は、希の反応が変わってしまったので、釈明とも言える補足の説明をした。


 「いや、あの……大した話じゃないよ。僕には兄貴がいたって話なだけ……」


 「それでお兄さんは今どこに?」


 希は、屈託なく聞いた。


 「うん?……兄貴は……バイクで事故って死んじゃった……」


 康二は、少し言い淀みながらも希に答えた。


 「ごめんなさい!」


 希は慌てて頭を下げた。康二の雰囲気から、何か触れてはいけない事に触れてしまった気がしたからだ。

 康二は、そんな希の気遣いに気が付いて、笑って言った。


 「いや、そんな、気にしないで」


 「でも……」


 「うん、ほんと、全然大丈夫。もう何十年も前の話だし……」


 やっぱり、こんな事言わない方が良かったかな……


 康二は、希に変な気を使って貰いたくなかった。


 「本当にごめんなさい……」


 希は康二に対して本当に申し訳なく思っていた。

 聞いてはいけない事を聞いてしまった。康二の傷に触れてしまったかもしれない。そう思っていた。

 康二も、希にそんな思いをさせてしまった事を少し後悔していた。康二は話題を変える事にした。

 

 「話は変わるけど、バイクの事だけどさ……」


 「はい……」


 「どうするの?」


 希は少し考えて答えた。


 「まだ、はっきり決めて無いです。裕介さんの言う事ももっともだし、そもそも、私、ある人に憧れてバイクに乗り始めたんです」


 「そうなんだ……」


 まあ、大学生だから好きな人の一人や二人はいるよな……


 康二は、何かモヤッとしたものを感じた。


 「はい。大学の先輩だった人だったんですけど、その人もバイクが大好きで、その人に近づきたくて……だけど卒業してから全然会えなくて、久しぶりにツーリングに行こうって誘われて……」


 「それが今日だったわけだ」


 「はい……」


 好きな人と久しぶりのツーリングか……トラブルが無ければ楽しい1日になっただろうに……好きな人と一緒だったら、たとえ雨が降っていてもそれなりに楽しめるもんな……


 「あのコンビニで、みんなレインウエアを着込んで、さぁ出発となった時に私だけエンジンが掛からなくなって……それで……」


 「置いて行かれた?」


 康二は少し意地悪く言った。康二には、トラブルにあった仲間を置いていくと言う事が信じられなかったのだ、それと同時に多少のモヤッとした気持ちもあったのだが……


 「いえ、そんな、置いていかれたなんて、違いますよ……自分から遠慮したんです。みんなに迷惑をかけたくなくて……」


 「なるほどね……」


 実際は、希の判断は正しかったと言える。


 希のバイクは、半年間放置されていただけあって、とても褒められた状態では無かった。タイヤの空気は抜けているし、チェーンも緩んでいる。バッテリーがあんな状態では、電子制御が主流の今のバイクでは、いつどんなトラブルが起こるかわかったものじゃない。

 トラブルを抱えたまま走った所で、それが原因で大きな事故に繋がったかもしれないし、ましてや雨の中トラブルを抱えて走り続けた所で良い事は一つも無い。一緒に行った仲間にも迷惑をかけてしまう。楽しかったツーリングが、忘れられない悲しい日に変わってしまう事もあり得たのだ


 だから、仲間の事を思うなら諦めて正解なのだ。


 だけど……


 希の気持ちもわかる。憧れの人との久しぶりのツーリング。


 行きたかっただろうな……


 康二には希の気持ちが痛いほどわかる。もう康二には叶わない事だから……


次回の更新は、20日になります。

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