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#34-2 「私が偽りを語ればその責任を取らねばならないし、真実を語れば真実がそれに応えてくれる」 — トーマス・フラー

 伯爵の声が、静まり返った広間に響き渡った。


「では、グスタフ殿。貴殿が提出した文書に基づき、主張を述べよ」


 グスタフは、自信に満ちた足取りで前に進み出た。顔には、すでに勝利を確信したかのような余裕が浮かんでいる。


 執事が差し出したファイルから、古びた数枚の文書を一枚一枚、丁寧に取り出し、テーブルの上に広げていく。


「はい、伯爵様。これが、今より六十八年前に王家がローデンブルグの土地を湯治療養院計画地として指定した際の、公式文書でございます!」


 その声は堂々としており、場を圧倒しようとする威圧感すら漂わせていた。


「そして、これはその際に行われた地番の変更、区画の再指定に関する記録。これらの文書には、当時の王国の『印』が確かに押されております。これらは王都文書館に保管されていた正規の書類でございます!」


 グスタフは、偽造された文書と改ざんした「地番変更証明書」を提示する。


「王国の印、当時の担当者の署名、そして当時の地番体系に基づく正確な記載。これらが示すのはただ一つ。あの土地は、当時から王家の管理計画地であり、白樫亭が現在行っているような私的な利用は一切許されていなかった、ということです!」


 彼の声は、淀みなく響いた。周到に準備された言葉は、まるで真実そのもののように場を支配する。


「これらの文書は、王都文書館に保存されている『地方計画関連文書』とも完全に整合しており、その正当性は疑いようがありません!」


 そう言い切ると、グスタフは挑戦的な視線をこちらに向けた。その目には、勝利と嘲笑の光が宿っていた。


 すかさず、ヴィクトールが畳み掛ける。


「王家の正式な計画を示す文書だ。これに抗える証拠などあるまい、ソーマよ! 白樫亭の登記記録など、王家の決定の前には無に等しい。王家の威光を汚すなど、許されるはずがないぞ!」

 腕を組み、見下ろすように言い放った。


 彼らは、形式の正しさと王家の権威という二重の盾を掲げ、俺たちを叩き潰そうとしている。

 伯爵、シルヴィア、エベラールも、示された文書とグスタフの淀みない説明に真剣な面持ちを見せていた。


場の空気は明らかにグスタフの側に傾いていく。敵の先制攻撃は、見事に強力だった。


 ——だが、ここで怯むわけにはいかない。


 一歩、前に踏み出した。

 かつての不動産会社で、幾度となく契約の場で、あるいは社内会議で、重役や顧客を前にしてプレゼンした時のように。


 喉が渇き、声が少し震えそうになるのを感じる。しかし、その緊張すらも力に変えるかのように、息を吸い込んだ。


「グスタフ氏の提示された文書について、いくつか疑問点を提示させていただきます」


 俺の声は、微かに上ずったかもしれない。しかし、口にした言葉に迷いはなかった。

 テーブルの上の文書に視線を注ぐ。それは、あの会社で、契約書や登記簿の些細な記述も見逃さなかった、あの頃の俺そのものだった。


「まず、この文書に記載された地番です。私たちの仲間が王都文書館で調査した限り、七十年前のローデンブルグにおける公式地番体系は非常に単純な連番制であったと確認しております」


 淡々と事実を述べる。揺るぎない証拠だ。


「グスタフ氏の文書にある複雑な区画コードは、当時この地域には存在しませんでした。導入はずっと後の都市計画の時期です。これは、文書が当時の正規の体系に従っていないという明白な矛盾です」


 グスタフの顔に、わずかな動揺が見えた。ヴィクトールも眉をひそめる。形式論だけでは覆せない具体的な指摘だ。


「さらに、湯治療養院計画について。当時の王家文書管理の慣例、法印局・会計局の記録を照合しましたが、計画に伴う予算計上や建築指示、担当者の人事記録など、一切確認できませんでした」


 一気に畳み掛ける。反撃の狼煙だ。


「そして何より。白樫亭には、当時のシュトラウス伯爵から五十年前に土地の所有権を与えられる以前、七十年前から、代々この場所で宿として営業してきた揺るぎない記録があります! アメリアさんたちが集めた当時の帳簿、税の納付記録がそれを証明します!」


 アメリアが、抱きしめていた分厚い帳簿の山をテーブルに並べる。


「ご覧ください! 白樫亭は、王家が管理していたとあなた方が主張する土地で、七十年もの間、宿として公然と営業し、きちんと土地税を納めてまいりました! この事実は、グスタフ様の主張と、あまりにも矛盾するのではないでしょうか!」


 伯爵たちの表情に再び迷いの色が走る。


「そして、グスタフ氏が提示したこの文書。それがなぜ俺たちの情報と真っ向から食い違うのか。今から、それをお見せします」


 そういうと、俺はゾルタンに目配せをした。


 ゾルタンは、これまでグスタフが提示した文書を検分していた瓶底眼鏡の奥の目を、ゆっくりと上げた。まるで、数十年ぶりに価値ある骨董品に出会ったかのような、あるいは獲物の正体を確信したかのような、奇妙な輝きを宿している。


「ふむ、この文書の封印ですな」

 ゾルタンは、誰に問われたわけでもなく、独り言のように呟いた。


「形式は実によく模倣されている。見事な手際と言えましょう」


 彼は一瞬、感心したような素振りを見せたが、すぐに眼鏡をくいっと押し上げた。


「ふむ…形式は確かに見事。だが、決定的に惜しい」

 ゾルタンの声が、わずかに興奮を帯びる。


「王家の公式封印、特にこの時代に使われていたものは、その形式だけでなく、特定の魔力定式を刻み込むことで文書に権威と…そう、言うなれば『生命』を与える。さらに、その定式を起動させるための触媒として、微細な『星屑石』の粉末を用いるのが習わしだ」


 彼は文書の封印を指先でそっと撫でた。


「この封印には、その必須であるはずの特定の魔力定式の一部が、まるっと欠落している。どれだけ注意深く検知しても、使用されるべき触媒である星屑石の魔力残滓も、一切検出されない」


 ゾルタンは、肩をすくめた。


「これは、まるで魂の抜けた抜け殻のような封印ですな。見かけは整っていますが、本質が伴っていない。これは、一度開封され再封印された文章。偽造の、決定的な証拠と言えるでしょう」


 彼の言葉は、専門的でありながら、詩的で異様だ。しかし、その言葉が持つ説得力は絶大だった。

 文書鑑定という、この世界では決して広く知られたわけではない分野の専門家が、絶対的な自信を持って断言したのだ。


 グスタフとヴィクトールの顔から、余裕が完全に失せ、凍りついたように見えた——俺は確信した。


 よし!この瞬間、この場の勝利は俺たちのものだ。


ご覧いただきありがとうございました。

本話の引用は、トーマス・フラーの言葉で、偽りには責任が伴い、真実にはそれ自体を証明する力があることを示唆しています。


本話では、まさにこの言葉が物語を動かす鍵となりました。グスタフの偽りの主張に対し、相馬たちが提示した「真実」が窮地を打開し、ゾルタンの鑑定がその力を証明する展開となりました。


しかし、今回の審問はあくまで序章に過ぎません。グスタフたちの反撃が、今後どのように展開されるのか、どうぞご期待ください。


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ブックマークを是非宜しくお願いします。また、感想をいただけると嬉しいです。

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