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憧れの天才ウィルク様と、魔法創造 生活を始めます!

作者: 上野 ハル

「私はリナ。成人したての15歳だよ。

成人してから、驚くことがたくさん連続して起こったんだ。


1つ目は、記念受験として、国家入社(こっかにゅうしゃ)選抜(せんばつ)テストを受けたら、

なんと、受かったこと。

記念受験だし、全く対策をしていなかったのに、なぜだろう。

筆記試験なんて特に、ほとんど全滅だったと思うんだけどなぁ。


2つ目は、これから行く予定の職場が、「魔法創造部門」という部門だったこと。

「魔法創造部門」なんて、聞いたことがない人はいないと思う。

だって、あの、世界で初めて魔法を創造した人がいる部門だよ。

あの、天才魔法学者、ウィルク様が。

私、ウィルク様のことを心より尊敬し、心より信仰しているの。


ああ、ウィルク様は、とても美男子で清潔な部屋にいて、さっと簡単に魔法を創造するのよ。

全世界の乙女を魅惑する、ああ、なんて罪な人、ウィルク様ったら。


そして、3つ目は、記念すべき初めての出社――つまり今、

その魔法創造部門の扉を開けて、挨拶でもしようと思ったら、

急に乱暴に腕をつかまれて、

「ちょっと実験台になってくれ」

なんて言われて、驚く暇もないままに、変な白っぽいコインを投げつけられたことですが?」


「って、え?えーーーー!?」

私の思考、完全に口に出ていたよね。しかも、かなりの大声で。

もちろん、「考え事が思わず声に出た」ということではなくて、口が勝手に動いたんだよね。

って、口が勝手に動くことなんて、ある?

しかも、私のウィルク様に対する思いが、聞かれたーー!



「なるほど。これは、当てたものの思いを知る魔法か」

この人、何言っているんだろう。まあいいや。聞いたのは、この人だけだよね。

それなら、口止めをしておくかな……。


ごちゃごちゃしていて換気が悪く、薄汚れている、

テレビに出ていたウィルク様の部屋とは真逆のような部屋。

きっと、ウィルク様はご不在なのね……。

どこに行っているのかしら。

「ちょっと地球をまわってくるよ」

とか言って、私たちのために、地球上のすべてを花畑にしてくれているのかもしれないわ。


いてっ!またあの人に、コインを当てられた。

まったく、あんなやつを雇うなんて、ウィルク様、血迷ってしまったの?

ああ、はやく、口止めをしないと。

「あの――」


「新入社員のリナさんですよね。とりあえず、少し冷静に。すべて、説明しますから。

あと、私に対する、そのうっとうしい熱を、どうにかしてください」

私にコインを当てたやつが言ったこの言葉に、引っ掛かりを感じた。

わたしにたいするうっとうしいねつ……わたしにたいする……?

ま、ま、まさか、ウィルク様って、この人ーー!?



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「・・・さん、リナさん、大丈夫ですか?」

誰かの声で目を覚ますと、そこは、長椅子の上だった。

「よいしょっ、と」

私は、体を起こす。

すると目に映るのは、よく知った私の部屋ではなく、ごちゃごちゃして薄汚れた部屋だった。

寝ぼけて何があったのか思い出せずにいる私に、その誰かが声をかける。

「あらためて、こんにちは。私はウィルクです。

私が話しかけたとたんに気絶をしてしまったようですが、もう大丈夫ですか?」


すべてを思い出した。まあ、記憶喪失でもないのだから当たり前か。

ウィルク様が、こんな人だったなんて……。

部屋はごちゃごちゃだし、初対面なのに、2回もコインを当ててくるし、テレビと全然違う。

「天才魔法学者の実態」という題名で本を出せば、1000万部は軽く超えるね。

天才だなんて思っていて、馬鹿だったかもしれない。

こんな、人1人しかいない職場にいるなんて、全然国家に重宝されてそうにないしね。


ま、ちゃんと魔法を創造することはできるようだけど。

その証拠に、人を無理やり話させる魔法なんて、私は聞いたこともないもの。

ずいぶん悪趣味な魔法だから、誰も使わないだけ、なのかもね。


「悪趣味なんて、まあ、確かにこの魔法は悪趣味かもしれませんけれど、

それは、私のせいではありませんよ。そして、そんな本出さないでくださいよ。

それに、あなた方が勝手に、私を天才だと言っているだけです。私は一度も言っていません」

……すべてにつっこまれた。

って、また私に話させただろーー!


え、口から漏れていただけ?コインをぶつけられた衝撃がなかっただろうって?

あ、確かに。すみません。






ちょっと色々あったから、いったん仕切り直すとする。

ウィルクさんもお茶を入れてくれた。

歓迎する気持ちはあるらしい。そういえば、最初から、話そうとはしてくれていたな。


「とりあえず、自己紹介は終わったということにしましょう。

私からは、あなたにしてほしい仕事を言っていきます。

まず、そこにまとめてある、国家からきた面倒くさそうな書類の処理をお願いします。

次に、私の研究をまとめてください」

なんか、完全に、秘書というか、なんというか……事務仕事専用というか?

魔法の研究でもするのかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。


「わかりました。最初から、魔法については全然知らないので、それで構いません」

私は、テストに偶然受かっただけだから、魔法が好きなわけでもない。

一から覚えるなら、事務仕事でもしていたほうが都合がよい。

他の職場に行けばよかったと思うけど、国家試験以外受からなかったのだから、仕方がない。


「魔法を知らずにここに来たのですか。しかも、知ろうともしないと。

それはいけない。魔法を知ると、人生を得しますよ。

ちょっとした家事でも、魔法を使うと楽になる。敵に襲われたときに、逃げられる確率が上がる。

わかった。私が教えましょう。そうですね、あなたはここに泊まってください。

そうすれば、夜の時間を使って、魔法を教えることができますよ。

私もここで寝泊まりしていますから」


え?今、話、うまくまとまっていたよね。次に、細かい話に移ろうとしていたよね。

急に、魔法を教えてくれると言われても……。


「自立するからもう家から出ると、大口たたいて実家を離れたと聞きましたよ。

寝る場所もないのに、これからどうするのですか」

あー、もう!どうしてそんなことを知っているのかな。こんなの、承諾するしかないじゃないか。


「わかりました。でも、脅しなんてしないでください」

私が仕方がなく答えると、ウィルクさんはにんまり。

「ありがとうございます。では、朝と夜のご飯は、勝手に作ってください。

ついでに、私の分もお願いします。一人分も二人分も変わらないでしょう」

やられた。この人、詐欺とか向いているね、絶対。


私、これからこんな意味の分からない人と一緒に暮らすということだよね。

この人もここに泊まっているらしいし。

嫌な予感しかしないのは気のせいかな?気のせいだよね、きっと……。


ウィルクさんは、寝泊まりする部屋に案内してくれた。紙の束で埋もれた階段をのぼったら、小さな個室が

3つある。ウィルクさんは、階段に一番近い、左端を使っているみたいだから、私は、右端かな。

この人、本当にうるさいんだよね。さっきも、案内するという、わずかな時間のうちに、本一冊だせるくらいはしゃべっていたと思う。主観じゃなくて、本当に。ずいぶんと人に会っていなくて、話足りなかったらしい。っていうのも、さっきウィルクさんが言っていた。そういうことだから、あの人からは、仕事以外で、できるだけ距離を取りたいな……。

「私は右端を使いますね」


「いえ、あなたは、真ん中を使ってください」

私の思いを、ぶち壊してきたよ。わかっていた。1ヶ月に1度くらいしか、人と会っていなかったと言っていたし、空気読めないよね。しょうがないか。もめるほどのことでもない。まさか、隣から、壁を挟んで話しかけてくるとは思えないし、大丈夫でしょ。

「わかりました」


私は、個室に最低限の荷物だけを置くと、下に戻った。ちなみに個室は、結構、ほこりが積もっていた。長年使っていないそう。ベッドは、運び込まれたばかりのようで、それだけが救いだ。




生活が始まったよ……。いや、人生で一番濃い、3日間だったかもしれない。

初日から、朝夜ごはんを作って、研究成果をまとめて、掃除もして、大変だった。


でも、まだ、ウィルクさんは、魔法を創造しない。

見たいなー、せっかくなら。もう、後戻りできないなら。


「ウィルクさん、いつから、魔法の創造をするんですか」

私が聞くと、ウィルクさんは、目をパチクリ。

「ずっとしていますよ。最近は、なかなか合成に成功しないんです」

困ったものですと笑うウィルクさん。


「え、魔法って、ウィルクさんが思えば作れるものじゃ、ないんですか?」

私は、ちょっと思った疑問を、そのまま口にする。

「いえ、そうではありません。まず、魔法を発動します」


そう言って、ウィルクさんが風魔法を発動すると、あら不思議。

緑っぽいコインが現れた。

「風魔法で、コインを作ろうと思えば、簡単に作れます」


私は、半信半疑、やってみる。

カンッ。

あれ、できた。落ちちゃったけど。

ウィルクさんが手を差し出してきたので、その手にコインを置く。


三日間の努力を、バカにしないでほしい。

このウィルクさん、無言で私にものを頼んでくるから、何をしてほしいのか、分かりにくすぎたんだから!


「さて、では、この二つのコインを、重ね合わせます」

すると、コインから、まばゆい光が発せられて。

次の瞬間、ウィルクさんの手にあったのは、一つの、深い緑色のコイン。

「これに、ちょっとの魔力をこめてから、投げれば――」

コインが壁に当たると。

ボォオーー!

大風が発生した。


私が頑張ってまとめた書類が、無残にも、バラバラに空を舞う。

「ウィルクさん!書類をバラバラにして、どうするつもりですか!!」

この書類、全部まとめるのに、何日かかったと思っている!

「とにかく、これで分かりましたか、魔法の創造の仕方を」

「ねえ、無視しないでください!」


「ただ、合成しようとしても、合成できないコインの組み合わせがあります。そっちの方がとても多い。新たに魔法を作るのも、難しいんですよ」

ウィルクさん、いい感じに締めくくらないでくれませんかね。

「あ、この書類の片づけ、お願いします。夕食は私が作りますので」

はっ?


「ウィルクさん?一緒に片付けましょうね」

にっこり微笑んで言ったら、

「わ、分かりました……」

って、理解してくれた。良かった。



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