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ハロー、『勇者』!!

「......というわけなんだけど、感想は?」

「いかれてるのか?」

「素直でよろしい」


 それはそれとしてレガドの指をへし折る。苦痛に歪んだ顔が実に良い。前回は後ろで手を拘束したから足をつついたけど、人はどうしても痛みの源に顔が向く...足の場合だと俯いてしまうので、苦悶の顔を十分には拝めなかったのだ。痛みのせいで垂れる涎もそれはそれで趣があるが、やはり別腹。人の苦痛は蜜の味。

 とはいえ今時の人間は実に頑丈で、手指の骨折くらいは半日もあれば全快するし、結構な量の筋肉が千切れても大体回復する。回復魔術の類いも発展しているし、個人的に実に良い時代である。


「......つまり、あの、桃太郎が暴れまわる映画は遠い昔、別の星でほんとにあったことで、プロジェクト桃太郎は人類史上初の魔術で、僕が桃太郎で、魔王が魔王?」


 レガドは歯を食いしばりながら必死に言う。


「ごちゃついてはいるけど、だいたいそんな感じ」


 全部で約三回は説明したと思うが、ようやく理解してくれたようだった。というか、この境遇でよくここまで理解してくれたものだ、とも思う。

 二十歳にもならず身近な人を自分で殺してしまい天涯孤独、あげくの果てには魔王軍幹部を自称しながら映画を見せてくるバイオレンス電波女に拉致られる。

 一度取り乱したくらいで、逆によくここまで気丈に振る舞えるものだと感心する。


「そんなわけで、明日から人皇国バシラスに行くよ」

「......ちょっと、流石に説明してもらいたい」

「......そうだね、そもそもなんであの映画をみせたのか、何をしようとしてるのか、なんにも説明してなかったか。じゃあ、もうちょっとだけ説明しようか」


 なんとか話を進めてきたが、四周目に突入することになった。仕方ない、気長に行こう。


「改めて、さっきの映画は大昔、別の星で、今の人類先祖が実際にやっていたことだ。別に記録が残ってる、ってわけじゃなくて、ボクみたいに前世の記憶を思い出すヤツがいるのさ」

「なぁ、あの映画だと人類は絶滅してなかったか?」

「まあね。多分彼の覚えてる範囲では、ってだけで、彼の預かり知らぬところで、人類は太陽系外での種の延命に成功したんだろう」


 説明しながらレガドの左手の指を二本、ゆっくりと逆方向に畳んでいく。


「次、口を挟んだら手首からいく」


 痛みにうめきながら首をぶんぶんと上下に振っている。額に滲む脂汗に少しときめく。


「さて、『思いだし』はそもそも珍しくて、もしそれが起こったとしても「妄想」「狂人」で片付けられがちなんだ。それを乗り越えた極一部のヤツだけがそれを「アイデア」として受け止めて作品だの物語だのを作るわけだが......ここまで核心をついた内容を、ここまで具体的に作品にしているのは初めてだね。

 突然だが、そもそもなぜ前世のことを思い出せると思う?」


 一旦言葉を切って、さりげなく視線をやる。返事をするべきかしないべきか、恐怖と困惑に徐々に見開かれる目を暫し堪能して、話を続ける。


「それはね、プロジェクト『桃太郎』が――偶然だろうが――魂に因果を書きこむ魔術だったからだ。体が何度死んでも、壊れても、同じ目的を繰り返すシステムを作るには、それしか方法がなかったんだろう。

 地球の崩壊と共に『桃太郎』の術式も崩壊したが、彼らの魂の呪縛は解かれず、希薄化し、その呪いは人類全体にも影響を及ぼすことになった。そのせいで無関係な一般人にも思いだしが発生するわけだね。

 ......ここまででわからないことは?」


 今度はしっかり返事を促す。


「僕が『桃太郎』、魔王が『鬼』の魂だとして、じゃあおま...リギラさんは『犬』『雉』『猿』のどれなんだ?」

「『村人A』といったところかな」

「?」

「まあ説明が十分なら、次は人皇国に行く理由だね」


 椅子を引いて机の上に足を組んで乗せる。飲み物を用意しておけばよかったかもしれない。

「ここまで話しても大半は妄言か狂言の類いに受け取られるだろうから、人皇国中央図書館の全界検索器(アカシックレコード)で、この星ではない地球の存在と、そこにあった《桃太郎システム》の存在を確認しにいく。それだけだね」

「......」

「......」

「......ほんとにそれだけ?」

「そうだけど」

「その後は?」

「状況次第だけど、最終的には魔王を封印して貰う」

「なんで......」

「魔王軍幹部なのに、って?面白半分、て言って、それで納得してくれるかな?」

 恐怖よりは困惑の勝る表情が視界の端に写る。

「今は昼か。夜中歩き回るのもなんだから、明日の朝まで待って出ることにするか。おやすみ」

 投げ出すように言って目を瞑る。いつもなら一週間は眠れないはずなのに、人属領に来てからは、空気の魔力量が低いせいか三日おきに眠くなるようになってしまった。

 あくびを遠慮せずにひとつ放り出し、意識を手放した。

一旦完結ですけど、世界が地続きの別作品に飛びます

よろしく!!

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