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『勇者』

何かの間違いじゃなく続き物だよ!

「で、感想は?」


 目の前に座る美女が振り返る。なるほど確かに、美女は振り返るだけで画になるっていうのは本当だな。たしか身長は高めで170後半くらい、その長身を極彩色の斑模様のフード付きローブが包んでいる。実に個性的なセンスである。

 僕はというと、ホテル備え付けの椅子に縛り付けられ、手には非妖精銀製の手錠がはめられている。そのせいで魔力も使えないし、流石に素の腕力だけでは壊せない。


 その美女の後ろにあるデカいテレビでは、さっきまで流されていた謎のアクション映画のエンドロールが続けて流されたている。僕はエンドロール中に目を離す人とは仲良くなれないタチだ。それ以前に、人を拉致って拘束して映画観賞させるような相手とは仲良くしちゃいけないと思うけど。


「そもそも、この状況はなに?」

「ボクの嫌いなヤツはね、質問に質問で返すヤツだ」


 めきめき、と下から妙な音が聞こえてくる。同時に足から激痛が走る。足だけにな、ってそんな場合じゃないコイツ杖で足の甲貫いてきやがった!!!


「で、さっきの映画の感想は?」


 ずい、とこちらの目を覗き込んでくる。人の足を杖で貫いた直後のわりに、あまりにも平然としている。まるでレジで「ポイントカードはお持ちですか?」って聞いても返事がなくてこちらを覗き込んできた店員くらい平然としている。


「まっ、待って、いたくてそれどころじゃないから......」


 ぐちゅ、と湿り気を帯びた音と共に杖の先端が抜かれる。意外と話は通じそうだった。

 見てみるとそれは、腰くらいまでの長さの質素な魔術杖だった。詳しくないので材質まではわからないが何かの木でできている。一番わからないのはその杖がどこから出てきたのかだが、「ポイントカードはお持ちですか?」の表情が微動だにしていないのでそんな場合じゃない。

 というか映画の感想を聞かれてたのか。


「もうほんとに素晴らしいですマジに最高特にラストの感動的なシーンが」

「あんなB級映画が?」


 あからさまに遮られる。「ポイントカードはお持ちですか?」「いいです」っていう会話の後って感じの表情になる。なるほど、どうやらやらかしたようだ。


「はぁ~......」


 彼女は大きくため息を吐きながら立ち上がり、ついでとばかりに反対の足が貫かれる。いってぇ!!!


「うん、うん、うん、そうだね、準備と説明が足りなかったことを認めよう。確かに、こんな状況では御追従の言葉しか吐けなくなるのも仕方ないか。そういえばまだやってなかったし、じゃあまずは自己紹介からいってみようか」


 言いながらそいつはすっ、屈み込んで目線を合わせてくる。屈んではみても、元がデカイせいで威圧感がある。


「ボクの名前はリギラ。気軽にリギラ、とかリギラちゃん、とでも呼んでくれ。

 魔王軍最高幹部の一人で、諜報、分析、まぁ情報を扱うこと全般が役目だね。血液型はn型、魔力性質は「異質」。

 で、種族は秘密、年齢も秘密で、故郷も秘密。ついでにスリーサイズも秘密だ。そこは乙女ってことで許してくれたまえよ」


 なんかごちゃごちゃ言ってるけど、両足貫かれたせいで頭がチカチカして殆ど聞こえない。


「そしてキミの名前はレガド」


 なにげなく僕の名前が聞こえてくる。こっちはまだ一度も名乗ってないのに


「西の果てのカーポ村で『勇者』として産まれて、この歳...16だったかな?まで魔王討伐のための各種訓練を受けてきた。

 そして昨日...」

「オイ、オマエ......」


 別の理由で目がチカチカしてくる。これ以上踏み込むな、こじ開けるな、口を閉じろ、化け物が。


「村人総出で殺しにかかられたから全員返り討ちにしちゃって、ぼんやりしていたところをボクに拉致られて、今に至る......そんなとこかな?」

「オ゛マエ゛ェェェ!!!!!!」


 我知らず、絶叫しながら立ち上がろうとして椅子ごとスッ転ぶ。いつの間にか、顔中が涙や鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。


「おっとすまない、自己紹介とは自分でやるものだったな。すまないね、人間と話すのは久しぶりなんだ」


 見当違いな気遣いを無視して、床に頭を打ち付ける。何度も、何度も。いっそ死んでしまえばよかった。あのとき、あのまま殺されておけばよかった。そうすればおとうさんもおかあさんも死なずにすんだ。まだいきていられたはずだった


「死ね!!死ね!!死ね死んでしまえ!!オマエが死ね!!!!オマエなんか!!オマエが死んでしまえ!!!!」


 いいや、こいつだ。こいつのせいだ。そうだ、きっとそうだ。こいつさえこなければ。


 衝撃、鈍痛、激痛。頭を蹴られた、と理解するのに少しかかる。


 「いやはや、完全にタイミングばっちり!!準備も完璧!!のつもりで来たけど、やっぱり人間はどうも理解できない。ちょっと自己紹介を横取りされただけなのに、それなのにこんなに癇癪を起こすなんて。もっと余裕をもっていこうぜ少年

 ......いや、ちょっと癇癪起こされたくらいで人の頭を蹴り飛ばすボクも、たいして変わらないか。イヤ反省反省、だね」

 ぐわんぐわん揺れる視界にそいつが映り込む。悪魔のように、嗤っているようなきがした。

意 識が 途  切れ る   。

そして説明を終われなかったよ!!

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