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広範自動殲滅機械「桃太郎」実験記録

「プロジェクト『桃太郎』No.1427の実験記録を開始する」

 機械の様な声が、右手に持ったワイヤレスマイクに吸い込まれる。音声認証により自動でファイリングされる仕組みだった。左手には半透明で銀色の人型の頭部が握られている。


「今回の『桃太郎』の素体は過冷氷銀製、吉備団子はVer.0.4。今回も合成疑似人型キメラ『豪鬼』、つまり僕を撃破するには至らなかった」


 5メートルを越す巨躯に片手で釣り上げられると普通は地に足が付かなくなるものだが、首から下が人の形を失い、スライムのように引き延ばされることで、なんとか地に足が付ついている状態だった。頭部もそろそろ形を保てなくなるだろう。

 豪鬼は左手のマイクを放り出し、桃太郎の首を器用につまんで捻る。すると小気味良い金属音と共に首がもげ、同時に体だった部分は完全に液状化し、床に投げ出された。もがれた頭部が壁面に埋め込まれた分解槽にひょいと放り込まれる。『桃太郎』の戦闘記録は頭部にのみ保管される仕様のため、頭部は分解槽のナノマシンに分解されながら、これまでの戦闘記録を吐き出していくだろう。体は自動清掃機で回収されるようになっていた。


 施設の広大なエントランスを抜けて、居住区に戻る。通路でいつもすれ違っていた最後のメンテナンスボットは随分前に故障し、バイオ処理槽で電気変換された。その直前に最後の人形が故障したため、後を追って自壊プログラムを選択したのかもしれない。施設保全AIの意思決定はすべて記録が残っているはずだが、豪鬼は確認していなかった。

 居住区の自室前に到着したがスルーして、施設の中庭に足を向ける。自室から最短で中庭に出るには人間用居住区を通らねばならないが、拡張性の高い、頑丈なキメラ用居住区と違い、人間用のそれは豪鬼には小さく、脆い。それを崩さないように体を運ぶことで最初は幾分気が紛れていたが、100回も繰り返せばなんの感情も湧かなくなる。


 中庭に続く扉を開ける仕草をしながら(実際の扉は随分前に壊れたままだ)外へ踏み出す。最初の頃の習慣をなぞり大きく伸びをして、息を吐く。中庭を抜けながら、所狭しと並ぶ培養槽の表面を指でなぞる。随分長い間放置された結果、槽はひび割れ、雨水が溜まり、あらゆる生き物が住み着いていた。

 たっぷりと時間をかけて全ての槽の表面にをなで終わり、中庭の裏手、社用ラウンジに到着する。そこには人間用のソファやベッドから剥ぎ取ったマットレスを積み重ねて、お手製のソファを拵えてある。『桃太郎』を破壊した日にはそこに座って研究員の密造酒を飲むのが習慣になっていた。それを作った人間は「熟成するほど旨いんだこれが」と言っていた気もするが、そもそも豪鬼には味覚が無かった。豪鬼にその自覚はないが、自我が摩り切れてしまわない為の、祈りに似た習慣だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 むかしむかしあるところで、戦争が始まりました。そうなると、当然いろんな兵器が必要になります。でも戦争をしながらの研究開発は、とてもたいへんです。困った大人達は考えました。

「そうだ、ぜんぶ自動化してしまおう」

 研究、開発、性能試験、実装までの全自動化。実に単純明快で、しかし、もしかすると、通常の研究開発より困難だったかもしれません。

 しかし、成し遂げられました。(豪鬼)は、その性能評価の最終試験のために産み出されたバイオ兵器なのです。


 時を同じくして、彼の製造元であるウルトラバイオ研究所で事故が起きてしまいます。人工飢饉器《赤鬼》を皮切りに、あらゆるバイオ兵器が解き放たれてしまいました。


 こうして、人類は滅びました。人類の培養による種の延命も失敗に終わりました。

 しかし、完全自動化に成功したプロジェクト『桃太郎』が停止することはありませんでした。

 (豪鬼)の実験記録No.は、そのまま自らの戦闘記録数です。つまり(豪鬼)に辿り着く前に、約数十万の『桃太郎』が破壊されています。(豪鬼)の脳に埋め込まれてたチップは、規定外の行動をとることを許しません。

 つまり、何度でも生成される『桃太郎』の試作機は何度でも(豪鬼)に破壊されることになり、闘う毎に際限無く成長する不死身の生物兵器『豪鬼』は何度でも『桃太郎』を破壊することになったのです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 さて、実は彼らの預かり知れないところで、この無限地獄に終わりが見え始めていました。

 この恒星系の寿命です。あと一万年もすれば、彼らの住むこの岩石型惑星は、完全に崩壊しすることでしょう。そうすることでやっと彼らの魂は、殺し合いの宿命から解き放たれるのです。

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