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 桃太郎さんが山を歩いていると、高い高い空の上から、山のようなナパーム弾が降り注いできました。

 KABOOOOOOM!!何者かによるアンブッシュだ!!

 地上が灼熱地獄めいて業火の海と化す。上空で複数の黒い影が連なって旋回し、マンダラめいた不気味な幾何学模様を描いている。鬼ヶ島ファクトリが開発した総合群状航空兵器、フェザントだ!!本体と見分けの付かぬ無人量産型僚機を大量に帯同しており、その内一つが群れを離れ、業火の水面を舐めるように飛び始める。高温状況下では動的生体レーダーが正常に機能しないため、可能な限り接近し五感で探知する必要があるからだ。人工地獄の水底、桃太郎のいた辺りに、滑らかな半球状の物体が鎮座していた。

 不審なるドームを注意深く観察していると、全く別な方向から危険なアトモスフィアが爆発的に膨れ上がる!!


「「イヤーッ!!!!」」


 二つの裂帛の気合いが空中でぶつかり、弾け、両者共地面に弾き飛ばされる。二つの着地点を起点に、不自然な速度で地獄が鎮火していく。片方は大量の不燃性冷却気体を物質化し、もう片方は、僚機の人工局所豪雨により力付くで消火しているからだ。


「ドーモ、モモタロ=サン。フェザント=デス」

「ドーモ、フェザント=サン。モモタロ=デス。貴様が『雉』か」


 鎮火して尚熱の残る着地点で、お互い睨みあいながら厳かに挨拶が行われる。挨拶の前のアンブッシュなど卑怯ではない。このネオ・オニガシマ=ロードでは、アンブッシュ程度も凌げない弱者は挨拶する権利すらないのだ!!


「そうだ、犬など我らが四天王にて最弱。あんな三下を一太刀で葬ったからと粋がるなよ若造が」

「遺言はそれで終いか?」


 両者の間での緊張が爆発的に高まる。善良な市民がその場に居合わせればR(リアル)M(モモタロ)S(ショック)により失禁、脱糞、卒倒は免れられないであろう。


「「イヤーーーッ!!」」


 桃太郎の体に鞭めいて巻き付けられた腕が爆発的に解き放たれ、大量のクナイや手裏剣が散弾めいて投擲される。雉は大きく広げた翼を羽ばたかせ、大量の混轟羽礫で応射する。放たれた全ての凶器は、両者の中間地点で衝突し対消滅していく。


「「イヤーーッ!!」」

 射出!!応射!!

「「イヤーッ!!」」

 射出!!応射!!

「「イヤーッ!!」」

 射出!!応射!!射出!!応射!!


 幾百幾千凶器の応酬が交わされる。じりじりと衝突地点が雉側に傾き、雉は一歩、また一歩と後ろに下がっていく。

 一見ジリ貧に見える状況だが、雉には勝算があった。


 吉備団子などの物質化兵器全般は、物質化の為のエネルギーを空間の余剰から捻出している。通常使用時の空間補給は安全なペースに制限されているが、安全装置が外れた場合の緊急補給は使用者の体を消滅させるほど空間を削りとる。雉の使う吉備団子は物質化ではなく、武器倉庫からの相転移タイプに改造することでオーバーヒートまでの時間はかなり余裕をもたせてあるが、桃太郎のモノが空間を削って物質化するタイプなのは調査済みであった。


 つまり雉は時間稼ぎのために安全圏を探りながら応射の度に一歩づつ後退していたのだ!!コウカツ!!


 対消滅による金属混じりの粉塵が視界をイカスミめいて塞いでいく。応射。下がる。応射。下がる。

 応射。

 下がる。

 応射。

 下がる。


 雉は次第に焦り始めていた。想定より射出の応酬が長いのだ。


(何故だ!?こいつの吉備団子はver.0.03と犬との一戦で確認済み、このバージョンでの耐熱容量は完全に把握している!!物質化出来る冷却機での連続使用延長を見積もっても、長すぎる!!)


 思考が逸れた雉の視界を、弾幕をすり抜けた小さな影が横切る。理解を越えたその光景に、反応が一瞬遅れてしまう。


 投げ込まれたのは、真っ赤に赤熱した吉備団子ver2.04だった。排熱性能が劣悪すぎる為に実用化には至らなかった、いわゆる失敗作だった。


  KLAAAAASH!!!


 太陽めいて白熱する球体は、空間を巻き込みながら自壊していく。


「グワァァァッッッ!!!」


 透明の巨人の剛力めいた圧力に片翼を引きちぎりながらも全速で離脱する。弾幕を突き抜けて飛来する手裏剣を避けながら心の中で毒づく。

(クソッ、こいつ()()()()()()()()()()()()()()しやがったのか!!)

 敵の戦術を見落とすとは、ベーシックなミステイクであった。ウカツ!!

 インプラントされた電脳通信子に、上空の僚機から破損アラートが届く。状況を直感し、残った自翼をアンブレラ状に広げる。


「WASSHOI!!!!!!」


 上空からメテオの如き衝撃が襲い掛かる!!僚機を足場に地面に跳躍した桃太郎の飛び蹴りが、雉のディフェンス・アンブレラ=ウィングに突き刺さったのだ!!

 雉は予定を繰り上げ翼を切り離し、地中に潜航し体を再構築していく。


  KABOOOOOOM!!!!!!!!


 地上から、更なる破壊音が降り注ぐ!!

 桃太郎のしめ縄めいて膨張した脚部による震透勁が炸裂し、翼でできた伽藍の堂を粉々に破壊したのだ!!。


(ブッダファック!!地中遊泳なんかはお互い様だから予想出来るにしても、突破力高すぎる!!予定の前倒しじゃねぇか!!!)


 雉は突如予定を変更、進行方向を上方に向ける。破壊点からは距離を取り地上に飛び出し、そのまま空に舞い上がる。全僚機に再び地上を焼き払うよう伝達しながら桃太郎を視認する。

 視線がぶつかった。

 桃太郎は一見すると腹痛であるかのように、右肩を左の腰に付かんばかりに身体を丸め、敵に背中が見える奇妙な構えを見せていた。しかし隙だらけだからと油断してはいけない!!賢明な読者諸氏はお気付きであろうが、この構えは数100年前にかの大剣豪により葬られたはずの、ヘル・イアイドーの構えなのだ!!

 しかし彼我の距離約100メートル、全くイアイドーを使う距離ではないはずだった。雉の視線の先、桃太郎の上半身が怪しくぶれる。悪寒が襲いくるその前に、雉の本体は瞬く間も無く粉砕された。


「クソッ、一番性能の良い本体が真っ先に落としやがって!」


 僚機の一つで意識の緊急避難・再構築を終えながら毒づく。だがちょうど良い。イアイドーはその性質上、連発はできない大変オクノテの筈だ。

 新たな身体に乗り移った雉の眼球センサが再度桃太郎を捉える。桃太郎はイアイドーの構えを崩していなかった。


「ナゼ......」


 混乱する雉の視界の先、再度桃太郎の上体がぶれる。緊急避難をギリギリまで引き延ばし、その瞬間が来た時、雉はまたも自らの失態に気付いたのだった。


(クソッ、こんなのはイアイドーじゃねぇ!!ヤロウ、左右の腰に何本も指したカタナを直接投げてやがる!!)


 なんと!!ヘル・イアイドーの所作と歴史を軽視する、なんと悪魔的所業か!!

 しかしその破壊力は実際抜群だった。音速の数十倍で飛来する不撓性剛剣に、僚機達は縁日に供されるシューティング・ゲームの的めいて撃ち落とされていく。


「クソッ、こんなところで全機壊されるなんて、そんなはず......」


   KABOOOOM!!!!!!


上空を旋回する最後の機影が撃ち落とされる。一本も外すことなく刀を投擲し終えた桃太郎は、残心をしながらゆっくりと身体を起こしていきます。




 しかし黒い影が頭上から降り注ぐ!!


「WASSHOI!!!!!!」


 小型のバンカーバスターめいた衝撃を伴いアンブッシュを仕掛けた黒い影が、足の下に組伏せられた桃太郎に慇懃にお辞儀をする。


「ドーモ、モモタロ=サン。バカめ、ワタシこそが『雉』本体なのだ。残念だったな」


 なんと!!これまで戦っていた航空兵器達は、全てこの特線鳥人兵器『雉』の子機でしかなかったというのか!?




「ドーモ、『雉』=サン、モモタロ=デス。遺言はそれで終いか?」


 しかし、地獄めいた挨拶が、足元から返ってくるではないか!!雉は反射的に、踏みつけている桃太郎に震透勁を放つ。


 KLAAAASH!!!!


 雉の足元で、桃太郎の体が爆発的に砕け散る。しかし地中から亡者めいて延びてきた別の手が、雉の足を鬼神めいた力で握りしめた!!


「貴様がダミーを用意できるなら、こちらも用意出来るのが道理!!そして今、貴様はダミーも子機も使い果たしたがな!!」

「クッ......!!」


 雉は超プラズマジェットバックパックを最大出力で点火、桃太郎ごと空高く舞い上がる。


「お腰に付けた吉備団子、も一つ貴様にくれてやろう!!」


 桃太郎は握った足を中心に力任せに体勢を立て直し、雉の腹部に拳を突き刺す!!その拳には、真っ赤に赤熱した吉備団子ver2.04が握られていた!!


「サ ヨ ナ ラ !!!!」


 雉は自壊する吉備団子に全身を削り取られながら絶叫、爆発、四散、その爆炎すらも虚空へと飲み込まれていきます。

 雉を蹴り跳ばして山に向けて落下する桃太郎は、無感情な目でその光景を見つめていました。いつまでも、いつまでも、見つめていました。

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