8. 鵺怪しう鳴き、仇敵も亦爾り
次元安定の配列記号・鵺体。それはコーヴィル先生が私に託したと思われる強い魔術具。私はその使い方を模索していた。取り敢えず、この魔術具は魔力を貯めることができることが分かった。私の魔力を、コーヴィル値が測定不能な程小さくなる程に大量に入れてもびくともしない。普通の魔術具はそんな量の魔力を入れたら物凄い勢いで粉々になるのだけど。――まあ、遊び半分で壊す危険性がある行為なのは知っていたが例の勘で何となく行ける気がした。でも、使い方に関しては、その勘でも全く分からない。
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その時は突然にやってきた。私がずっと自分の雲付きの寝床で座りながら考えていたら、例の魔術具は突然閃光を放ちだした。時計塔の方向を目がけてだ。その数秒後、大地を揺るがすようなけたたましい爆音がその方向から聞こえた。――これはどういうことなんだろう。
私達五人は寮を飛び出て学園の方の時計塔に向かって駆けていった。しかし、寮の出口付近からは時計塔が見えるけれど、時計塔には傷一つついていない。と、すると爆音の正体は一体……。それに、もう一つおかしいことがあって、周りに全く人が居ないのだ。あんな爆音鳴らされたら普通窓際に行ったり外に出て状況を確認したりするものだろうに。
私はまた例の如く紅い環を手から広げ、転移ゲートを作り全員に入るように促した。時計塔の最上部の奥の部屋――つまり『古の再生』のアジトの部屋に行った。周りを見渡すと、前に来たときと同様に少し暗く埃が舞う石造の廊下があり、古代の文字で埋め尽くされている。そして、目の前にはやはり階段があった。
階段を登り切ると、私は目の前の光景を見て言葉も出なくなった。守護者が見当たらない上、賢者の石が破壊されている。エスティーが床に目を向け、叫んだ。
「きゃあ、人が倒れているわ」
それを皆目を向けた。そこには、見覚えのある人影があった。透明な球体状の塊が付けられた杖を持つ少女――ここの守護者だ。あの魔術具の攻撃を浴びたのだろうか。まあでも幸い、命に別状はないようだ。ただ気絶してるだけだ。いくら自動で攻撃されたものとはいえ人殺しにはなりたくないから助かった。
私達は話し合って、眼の前に続く三つの階段を左から行くことにした。階段は二人で登るには狭かったので並んで登った。足を進めてみたところ、聞き馴染みのある声が聞こえる。屈強な男共、ゲルドスとジルバーンだ。登り終えると、そこにはまた粉々になった『賢者の石』があり、倒れている『賢者』がいた。
「やあ、エスティーとサヴィー。凄いね、右から順番に登って見ていったけどもう賢者の石が四つ粉々になっているし、賢者は気絶しているよ」
ゲルドスは私達を見ると目を丸くしたまま、短い金髪を掻きながら嬉々としてそう言った。
四つ……四つってもしかして先に続く階段それぞれに賢者の石があって、それぞれの石を例の魔術具が破壊したってことかな……。何なんだろうあの魔術具は……。
そういえば、『古の再生』メンバーは基本的に元の人間だったのだから、前みたいに復活させる事って出来ないのかな。
「ねえジルバーン、前みたいに人格を復活させる事って出来るかな」
「出来ますよ」
ジルバーンは了解する。私達は倒れている他の『賢者』を階段の下に下ろすことにした。私は紅色の環を広げては階段の下に送ることを三回繰り返して、四人を一箇所に集めた。前と同じ様に銀色の液体のような物を、ジルバーンは四人に向けて放った。
銀色の物が四人に当たると同時に視界を覆い尽くす程の閃光が視界を覆い尽くし、目が眩む。視界が元に戻ると、元にいた四人は虹色に光り輝く小さい石に変換された。銀飄魔法は、今までに見てきた事からすると精神操作系で、失われた魔力口を精神から復活させることができる魔法だ。そしてその二つから考えると、精神と魔力系統のシステムを互いに補完出来るような能力だと考えられる。そして、さっきの四人が虹色の石由来になったことからすると、精神がそもそもとして虹色の石由来だったということになる。精神が石由来という事例は古の魔法でしか聞いたことない。つまり有るとすれば大方三帯魔法の、ゲルドスとジルバーンが見つけていたフェンベル石だろう。だとすると、これらは純粋な三帯魔法の膨大な魔力塊であるから、私の魔術で純粋な無帯魔法の魔力にならないだろうか。私はそう思い立ち、両手をある程度離して平行に構えて、黄色に光る環を段々と形成していき、眼の前の三つの石をまとめて魔石に変換しようとした。しかし何故かそれらを魔力に変換しようとした途端に、次元安定の配列記号・鵺型が魔力を吸い取っていった。本当にこの魔術具はどうなっているのか甚だ疑問だ……。私達はその様子を見て慌てたけど、幸い魔力放出は当分無さそうだった。というのも見た目から計算されるコーヴィル値が放出時よりもとても高いからだ。