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5. 多帯錯綜

 魔力口。それはこの世界の人が魔力を使う際に使う目には見えない穴である。目に見えないとは言ったが、暸空魔法のコーヴィル・ヴェルクライン法というとても高度な技術を使うことによって可視化することが出来る。まあ私はもっと低ランクな、ウェール法というものを使って魔力口をぼんやりと浮かび上がらせる方法を使っている。コーヴィル・ヴェルクライン法はとても魔力を使うので、私程度だとすぐに魔力を使い果たしてしまうのだ。

 ともかくとして、私一人では対処できないので、とりあえず結界に戻ろう。そう思い、私は三人を従えて結界の内部に足を向けた。因みに、外界との情報を殆ど完全に遮断するというのに、人がこのように簡単に出入り出来るというのは矛盾している様に思えるけど、実際は、どんな人もこのタイプの結界の一部と見做されるので、人という情報は外界の情報ではないという判定になるらしい。私もどういう訳かは分からないが。情報判別理論という理論で説明されるとも授業で習った。

 ただいまと言いながら結界に入って、三人に事情を話した。すると、ジルバーンは少し手を顎に当て、ふむ、と言ってから、銀色に輝く不定形の液体のような物を手から三人の心臓あたりに放った。私が再びすぐにウェール法を使って見ると、魔力口が復活していた。これは一体――。


「魔力口が完全に破壊されていたようなので三人の精神から復元しました」


 図体から想像されるよりも甲高い声で説明する。普段無口で意外に声が高いから彼が喋る時は毎回吃驚してしまう。

 銀飄魔法。精神操作系の魔法らしいとは聞いていたけど、こんな凄いことが出来るのか、この図体の大きい銀髪は。というかそもそも精神の情報から魔力口が復元出来るのは驚きだ。舌を巻きながら、私は無帯魔法を復元された魔力口に通した。すると、目を瞑っていた三人は目を開いた。


「ここは何処……」


 皆きょとんとしながら口々にそう言う。ジルバーンが淡々と告げる。


「ここは寮のロビーです。まず、名前をお聞かせ願えますか」


 三人は少し躊躇いながらそれぞれ小声で名前を言った。急に別の場所にワープしていたら戸惑うのも無理はない。ベル、ブラーク、ヒュドリスというそうだ。この名前と声……。何処かで聞いたことあるような気がする……。


「あなた方は確か学園から退学したと言われている……」


 ジルバーンがそう言った瞬間、ゲルドスはジルバーンに対して高速で金に光る不定形の物をジルバーンの口元に放ち、ジルバーンは口を動かせなくなった。何やらもごもご言っているけど。初対面で失礼なことを申し訳無さそうにすらせず言ったのだから無理もない。ただ、確かに以前ニュトリー先生がたまたま落としていた退学者リストの中に名前があったような気がする。私は「ねぇ」とかで呼びかけてしまうので他の人の名前をあまり覚えていないのだ。


「良いんです。本当のことですし」


 フードを頭から裏返し、緑色に輝く長い髪を見せていたベルは物憂げにそういった。それを見て、赤髪のブラーク、青髪のヒュドリスもフードを上げた。全く、ほとんど初対面なのだから言い方をもう少し考えて欲しいものだ。

 退学者は基本的には非行に走ったり、授業態度が悪すぎたりしないとならないが、今まで話した感じでは彼女らがそんなことをするようには見えない。もしかして悪い先生にでも当たったのだろうか。もしそうだとするなら、学園の運営委員会に第一次休校期間が終わったら連絡しなければ。

 

「私達が悪いんです」


 三人は口を揃えて言う。本当に何があったのだろうか。さてはさっきと同様に操られていたのか。それとも、他の人を庇うために暴力行為をしたというのか。何にせよ、この人たちが善人で有りそうな予感がする。決して悪いことなんてしなさそうだ。


「魔力が少なくて……」


 ヒュドリスは掠れるような声でそういった。明らかにおかしい。魔力が少なくて落とされるというのは、明らかに学園の規定に反する退学事由である。これは確実に何かがある。

 そこで、こっそりウェール法で魔力口を観察してみた。何らかの魔力的洗脳をされているのかもしれないからだ。すると、魔力口に流れる無帯魔法の魔力が何やらおかしい。元々の三帯魔法由来の無帯魔法とは別に変な魔力が流れているのが見えた。黒色の、炎のように火花のようなものを散らす魔力だ。これは何者かよって精神操作をされているということだろうか。このことをエスティーに耳打ちで伝えると、この魔法が二帯魔法の一種であるということを言った。三帯魔法ではないのか。すると、女王と結託した人がいるということか。


「まあ、退学の件は置いておくとして、最後に覚えてることを聞かせてくれないか」


 ゲルドスは三人を真剣な眼差しで見つめて訊いた。すると、すぐさまブラークはこう答えた。


「確か時計塔奥で、魔力が増える方法を教える講義みたいなのがあるからこちらへ来ないかという誘われて……」


 魔力が少ないというコンプレックスにつけ込む邪悪な組織らしい。それで人員を集めているのだとしたら中々に厄介だ。そして、続けて、ベルは『古の再生』についてこうも言った。


「私は一応今までの記憶は断片的にうっすらあって、なんか、女王と呼ばれる人が、衆愚の広場っていうところにメンバーを集めたんですよ」


 断片的にうっすらと記憶が残ることもあるのか。そしてまた『女王』か。メンバーを集めて何か会議でもやるのだろうか。


「それで何故かよく分からないんですけど、組織の統治システムを解説しだして」


 組織の統治システムを解説をしだす……。そこにどんなメリットが有るのだろうか。統治のシステムを全メンバーに明確にするというのは、確かに団体としてはいい心がけだと思うが、そのように大々的にやる理由はあるのか。いや、魔法関連の制約というか発動条件がそこにはあるのかもしれない。またはその統治システムが虚偽で、何か重大な事に気づかせまいとしているのか。

 ベルが語るに、組織は、女王、三皇、九賢者、その他構成員という感じの序列で構成されていて、一皇毎に賢者三人がつき、一賢者毎に守護するべき「賢者の石」一つが与えられるそうだ。ということは私とエスティーが最初に目撃した団員は、賢者の可能性が高い。そして、一皇毎に一つの龍を召喚するための儀式を行う義務が課されていて、三つの龍を召喚することによって、私が夢で見て底知れぬ恐怖を覚えた古代兵器クロモノームが召喚されるようだ。

 まあ最も、三皇を倒そうとしても、女王が何らかの方法で回収して逃走することだろうから、まとめて相手にしないと彼女らは倒せないだろうし、何より、恐らくこれを機に私達から隠れて計画を進めることになるだろう。

 私達はとりあえず解散して、ゲルドスとジルバーンに分かれを告げた。ベル、ブラーク、ヒュドリスは私達の部屋で匿うことにした。また三帯魔法で洗脳されると困るからだ。もう既に二帯魔法で洗脳されてはいるようであるが。居住スペース的には、私の暸空魔法で空間を拡張すれば事足りそうだ。まあ私としてはエスティーと二人きりの方が良かったのだけれど。

 私達は私達の部屋に入り、いつもやっているように紫色の空間を継ぎ接ぎし、部屋の空間を徐々に拡張していった。例の三人は感心したのか目を見開いていた。でも、この魔法、持続しないからどうしようか。そう思っていると、あるアイデアが思い浮かんだ。不安定な空間を何かによって固定すればいい。丁度ゲルドスがジルバーンの口を固定していたあの魔法を使えば良いのだ。

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