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彼と一緒に下校です。

 いつも通りに授業を終え、部活動のある美幸ちゃんとは別れて、1人で昇降口へ。


 私も何か部活に入ってみようかな……なんてことを思いながら、下駄箱で靴を履き替える。



(何がいいかな……)



 ぽけーっと考えを巡らせつつ、校門を出ようとした。

 ――……その時、



「雨月」



 背後から名前を呼ばれて立ち止まる。


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには立石くんが立っていた。



「立石くん……! どうしたの?」



 声をかけてもらえたことに喜びつつ、ひょこりと首を傾げる。


 立石くんは一度、何か言いたげに口を開いたけれど……結局、黙って目線を足元に落としてしまった。



「……?」



 どうしたのかな? と、私も同じ場所を見てみる。


 なんのへんてつもない、砂の広がるベージュの地面。

 あ、アリ発見!



「……誰に、」



 立石くんはやっと唇を持ち上げて、



「い、いつ、誰に狙われているかわからない。その、背後に注意することを忘れるな、天照」



 なぜか、ややうろたえつつそう言った。


 久しぶりの“天照”呼びに少し笑って、



(心配してくれてるんだ)



 気遣ってくれた立石くんに、



「ありがとう、気をつけて帰るね!」



 そう言葉を返し、笑顔を向ける。


 けれど立石くんは、罰が悪そうな顔でがしがしと自分の後頭部を掻いて、



「あー、いや、そうじゃない……! 違うんだ。その、だから、」



 と、言葉を濁した。


 さらに首を傾げていると、立石くんは泳がせていた目線を私に向け、



「い、一緒に……だな、」

「一緒に……?」

「……一緒に、帰ろう」



 少し朱に染まった顔でまた、私が嬉しくなるような魔法の言葉を浴びせてくるのだ。



「はいっ! 是非!」





 赤く色づきはじめた空を、立石くんの隣で仰ぎ見る。



「……」



 先ほどから何も喋らない彼は、ただまっすぐ目線を進行方向に向けていて。


 そんな横顔を、私は黙って盗み見る。



(かっこいいなあ)



 赤を弾く黒髪は吹く風にのってさらりと揺れ、夕陽の混じる青色がとても綺麗だ。



(背、高いなあ)



 こうして真隣に並んでみると、さらにそれを実感する。



(身長、なんセンチなのかな)



 ちょっとだけ、気になって。

 思いきって静寂を切り裂いた。



「立石くんって、身長どれくらいなの?」



 私は153センチだよ。


 そう続けてからりと笑えば、空気をたどるように移動した目線が私に向けられる。



「……この姿の時は、177センチほどだ」

「わー! 大きいね!」



 お互いの身長差を計算しつつ、羨ましいなと呟いた。


 立石くんはその言葉を拾い上げ、



「雨月は、今のままでいい。そのままで、十分……可愛い」

「へっ!?」



 簡単に、魔法をかけてしまう。


 思わず漏れた素っ頓狂な声。恥ずかしさで慌てて自分の口を片手で塞ぐ。

 その様子を、



「……ほら、な」



 彼はただ優しい目で眺めて、ぽんと頭を撫でた。



「……っ、」



 高鳴る心臓と、急激に上がる体温。


 空の色を飲み込んで、私の頬はきっと赤くなっているのだろう。



「……立石くんは、」

「ん?」



 立石くんはやっぱり……私にとって、



「魔法使いみたい」



 ちょっとした言葉や仕草、表情で、私の心をいっぱいにしてしまう彼は……私にとって、魔法使いみたいだ。



「俺は魔法使いではなく、神の遣いだ」



 あ、そういえば前に言ってたっけ。

 元は、神様に仕えてたって。



「……もし俺が魔法使いなら、」



 ちょうど私の家の屋根が見えてきて、もうお別れかあ……もっと一緒にいたかったな、と肩を落とした。


 そんな時、彼が落としたのは、



「魔法が使えたら、今すぐに時間を止めて……雨月を、帰したりしない」

「〜〜っ!? えっあ、」



 まさか私と同じことを考えてくれていたなんて思わなくて、豆鉄砲を食らう。



「わわっ、わたっ、私っ、」



 挙動不審に目をざばざば泳がせると、立石くんはくすりと笑った。


 そして、



「雨月、」



 包むように名前を呼んで、私の片手を取り指を絡める。


 覆い被さった彼の影が太陽を隠して、



「ひゃっ、」



 頬に、キスをされた。



「たたたっ、立石く、」



 ショート寸前の思考回路。顔が熱くて仕方がない。


 そんな私の頭を触れるように撫でて、



「じゃあ……また、明日」



 立石くんは(きびす)を返し、去っていった。


 1人残された私は、まだどきどきと高鳴る胸に手を置いてぽつりと呟く。



「明日は……学校、お休みだよ。立石くん」

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