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気になる彼は『中二病』らしいです。

 ところどころ跳ねた黒髪。

 長い前髪に、左目を隠す眼帯。

 包帯の巻かれた両手と、耳たぶにはピアス。


 立石神夜(たていしかみや)くん、16歳。高校2年生。


 私の気になる彼は、



「はっ、余裕ぶってられるのも今のうちだけだ……すぐに闇の組織、暗黒の……」

「立石! 授業中にうるさいぞお前!」


 中二病?男子です。






 私が1年生の頃から気になっている彼――立石くん。


 入学式の時から立石くんは(色々な意味で)とても目立っていて、自然と目で追っている間に気になる存在へ変化していた。


 友達いわく「黙っていればかっこいい」らしい。

 なんでも、彼は『中二病』と言う病を患っているそうで……!



「だから、眼帯と包帯してるんだね……大変だなあ、立石くん……」



 私がそうこぼすと友達はみんな口を揃えて、



「いや、そうじゃないから」



 と、つっこんできた。


 じゃあどういうことだろうと首を傾げれば、「まあ、いいや。うん。ちさとは知らないままでいて……」と、呆れたように言う。



「?」



 教えてくれなきゃわからないのに。


 唇を尖らせ、いちご牛乳を吸い込んだ昼下がり。





 放課後。

 特に用があったわけではないけれど、なんとなく屋上へ向かった。


 階段を上って冷たい鉄の扉を押し開けば、心地よい春の風が頬を撫でる。

 太陽の眩しさに目を細めると、



「……嫌な風だ」



 どこからか聞こえてきた、聞き覚えのある声。



「……面倒事をつれて来そうだな」



 そのテノールをたぐりよせ、行き着いたのはタンクの裏。


 そっと覗いてみると、包帯の巻かれた左手を恨めしそうに睨む立石くんがいた。



「……まったく、面倒だ」

「?」



 誰と話しているのかな?


 目を配らせてみたけれど、他に人は見当たらない。

 不思議に思っていれば、立石くんは突然弾かれたように顔を上げてこちらを見た。



「誰だ!!」

「あ、雨月です!」



 バレてしまったなら仕方がない……そもそも覗き見はよくなかったよね。

 観念して隠していた身を出し、綺麗に敬礼をする。


 すると立石くんは、驚いたように目を丸めた。



「あ、あま、つ、き……さん」

「はい、雨月です」



 笑顔を向け、立石くんの隣に腰をおろす。


 彼はしばらく顔に戸惑いの色を浮かべたあと、



「……ふっ……いたのは最初からわかっていた」



 ぷいと顔を背け、ぶっきらぼうに呟いた。

 私はと言えば、その言葉に面食らう。


 まさか、立石くんって……!



「エスパー!?」

「はあ?」



 何を言っているんだとでも言いたげな表情。

 海の色を映したような青色が、私を見た。


 あ、綺麗。



「立石くん……綺麗な目だね」

「なっ……!」



 そういえば1年生の時、立石くんはハーフだって聞いたことがある。

 お母さんが、ロシア人……だったっけ。


 眼帯に隠れていない、青い隻眼。

 ……綺麗。


 食い入るように見つめれば、彼は目線をあちこちに泳がせた。



「ふ……ふんっ。この呪われた目がきっ、綺麗、などと……奇特な奴だ」

「だって……本当に、綺麗だよ」



 男の子が『綺麗』と言われても嬉しくないかもしれないけれど、何回も言ってしまうほどそう思う。


 もっと見ていたかったけれど、立石くんに、



「あまり、見るんじゃない……お前も呪われたいのか」



 と言われてしまったから、慌てて目線を別に移した。


 頭上を見上げれば、赤に染まり始めた空が広がっている。

 風に舞い上がる桜の花びらと合わさって、まるで一枚の絵のよう。



「……この風は、好きだ」



 不意にそうこぼした立石くん。

 その横顔をちらりと見てみれば、春みたいにやわらかく微笑んでいた。



(……すごく、優しい顔)



 初めて目にしたそれに、鼓動が高鳴る。



「……な、なんだ……?」



 私が再び見つめていることに気づくと、微笑みは消えてしまった。


 なんでもない、とかぶりを振ってから「でも、」と続ける。



「やっぱり……立石くんは、綺麗だなと思って」

「なっ、何を、わけのわからない、ことを!」



 取り乱す立石くん。


 褒めたつもりだったのだけれど、失礼なことを言っちゃったのかなと少し落ち込んでうつ向いた。



「……まったく、本当に物好きだな……雨月……さん、は」



 取って付けたような敬称に、思わず笑ってしまう。


 呼び捨てでいいのに。雨月、って。



「……だが、」

「!」



 優しく頭を撫でる手。

 それはたしかに、立石くんのもの。


 包帯の巻かれた……男の子の、少し大きな手。


 心臓が、大きく音を立てた。



「……嫌いじゃない」



 今は、私だけに向けられている微笑み。

 緩やかに弧の字を描く青い目は、やっぱり綺麗。


 赤い背景に溶け込む“それ”から、目が離せなくなる。



「……たて、いし……くん」

「……っ! わ、悪かった! ただ、ゴミが、ついていたからだな、」



 慌てて引っ込めようとしていた立石くんの手を、そっと捕まえた。


 驚く彼に笑顔を向け、一言。



「ありがとう」



 それから、



「もうちょっと、撫でてもらいたいかもしれません」



 照れ隠しに、わざとらしい敬語で飾り付ける。


 特に、深い意味はなくて。

 ただ素直にそう思ったから、伝えただけだった。


 少しの間を置いて、立石くんはふっと息を吐くように笑う。



「闇の組織、暗黒の猟犬(ダークハウンドドッグ)よりもタチが悪い」

「……? それって、ワンちゃんの組織?」

「い、いや……」



 だって、ドッグって犬だよね?

 ダークなドッグって……黒いワンちゃん?


 首をひねれば、立石くんは短くため息をついた。

 ゆっくりと立ち上がり、言い残した言葉は、



「俺のことは……堕天使と呼べ」



 それだけ。


 去っていく後ろ姿に、ただただ疑問だけが浮かび続けた。



「もう『タテイシ』くんって呼んでるよね……?」

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