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この者、戦闘民族にて【3】

装備した武器を確認する。


『灼刀リコリス』と『炎刀ラジアータ』。


リコリス・ラジアータ。


ヒガンバナの学名だと聞いたことがある。





どちらの刀も、先程まで装備していた武器とは段違いの性能を持っており、燃え続ける刀身が一層その存在感を際立たせていた。


知っている限りでは手に入れたプレイヤーのいない希少価値の高い武器だ。


アマツから手に入れることが出来るのだろうと言われていたが、確証は無かった。

しかし、武器の名前から該当する相手は『彼岸』の名前を持つアマツしか考えられなかった。

PTでの討伐やスナッチを試みるプレイヤーはこれまでにも何人も存在した。



本来であれば戦闘中の取得物は多数の魔物を相手にした際のドロップした素材や拾った石ころや鉱石などがそれに該当するが、盗賊クラスにおける『スナッチ』で盗んだアイテムもこの取得物に入るのだ。


これまでアマツへ『スナッチ』を行ったプレイヤーも数多くいたが、大抵は鎧片だったり、素材といったものがほとんどだった。

センジョー自身、この戦いの準備を始めるまでは大したものは盗めないのだろうと思っていた。

しかし、データは存在しているのに手に入れたプレイヤーがいないという都市伝説のような武器だ。


どんなものが取得条件として設定されているかなんてわかったものではない。


もし、特殊な条件を満たした上で『スナッチ』でしか手に入らない物なのだとしたら。

ゲーマーとして燃えない訳がない。


満たされたことのない条件を洗い出し、辿り着いた可能性が今回の戦いだ。


『ソロで、回復せず、部位破壊を達成し、スナッチを成功させる。』


という半ば無謀に近いものだった。


勿論、可能性の高いものを選択しただけであり、そのどれもが確定した情報でもなかった。




「―――んふッ。」


思わずニヤケてしまう。この場でガッツポーズをとってしまいたいくらいには嬉しい。

最早、つい先ほどまで焦りと苛立ちに支配されかけていたことなど忘れてしまっている。

自分の考えが正解だったこと、それを成し遂げたこと。それを実行した最初の一人ということ。



……自分の考えというよりは、山勘を張っただけ、とも言えるが。



それでも、何事も一番というのは嬉しいものであり、励みにもなる。


しかし、今はまだ浮かれてばかりもいられない。


この武器は今、取得品であり、この戦闘を終えて初めて自身の物となる。

今ここで負けてしまえば、これらの取得品は手に入らなくなり、データの海に還ることとなる。


それだけは決してあってはならない。


ここまで敵を追い詰め、自身もここまで戦って武器を失っている。


勝てば良いが、負ければただただ失うだけなのだ。


この戦いに挑む為に狩りをして素材を売ったり、使わなくなったものを大量に売り資金を作って準備してきたのだ。


このまま負けた時に無駄になる金額を考えると、正直ゾッとする。


ここまで来たならば勝たせてもらう。


否、勝たなければならない。



たった今斬り落とした腕の蛇を見れば、最初はのたうち回っていたが、次第に動かなくなり、砂のように崩れて消えていった。

恐らくもう襲ってくることはない。


残るはあと数撃で倒せるであろうアマツ本体と、それを阻もうと威嚇する足に巣食った蛇だけだ。



それに対してセンジョーは、両手の武器は新調され耐久度も最大値、ここまで使えなくなっていた双剣士のアーツも開放され、

リコリスとラジアータを装備したことによりステータスに補正が追加され、二つの剣の特殊効果により、僅かではあるがHPの継続回復効果が付与されている。


これこそ一発逆転。


勝利の為の条件は整った。


ここに来るまで数多の攻撃を避け続け、一時的にとはいえ三対一に近い状態になってもなお生き延びたのだ。

ここから先は、実はあと4体くらい蛇を体内に飼ってましたドーン!とかそういう展開にでもならない限りは負けることはない。


想像してからフラグになりそうで怖いと感じたが、アマツが足の蛇を使い攻撃してくるところから変化が無いのを見るとこれ以上は無いのだろうとホッと胸を撫で下ろす。


足の蛇の突進を避け、クールタイムの終わった『加速』を発動し、アマツへと肉薄する。


突っ込んでくるセンジョーに対して残っていた左腕で拳を振り下ろすが、最早それは悪あがきにすらならない。


大きく左足を踏み込み勢いに任せて左手に持つ灼刀リコリスを下から上に向けて弧を描くようにして振り上げる。


刀の斬撃の軌道に一瞬遅れるようにして炎が舞う。


拳と刀がぶつかり合い、火花が散る。


僅かに拳が裂け、アマツのHPは更に減少する。あと少し。


拳を受けた衝撃で一瞬こちらも動きが止まるが、相手の狙いは見えている。


此方の動きを止め、死角から蛇が突撃してくるのだろう。


案の定、背後から蛇の地面を這いずる音が聴こえる。


分かっていれば対処にも幅が出来るというもので、身体の向きを入れ替えると同時に両手の刀で蛇の牙を思いきり横から叩きつけ、牙を折ると同時に蛇を弾き飛ばす。


補正の掛かった筋力値のおかげか、思った以上に蛇が吹き飛び、それに繋がっているアマツも引っ張られるようにして体勢を崩した。


勝てる。そう確信する。


隙を逃さず、アマツの左腕を斬り飛ばし、減少していくHPを確認して止めにはあと一撃が足りないことを確認する。


自身の鼓動が脈打つのを感じる。ここで決める。あと一撃。


後方へと跳び退こうとするアマツ。


だが、二つの刀によるステータス補正は敏捷値にも及んでおり、アマツの後退よりも速くセンジョーが駆け抜けた。


「―――逃がさないィィィィッ!!!」


無意識に叫んだ言葉と共に、刀を横に一閃した。


刀が煌めき、炎が焼き尽くす。


斬られた箇所から燃えていく身体の炎を消そうと暴れようとするが、両腕も無く、炎をけすことすら出来ないアマツは遂に膝をついた。


そして、抗う力を無くしたのか、動きを止めてゆっくりと倒れていった。


HPゲージが空になり、繋がっていた蛇も大きくのた打ち回りながら苦しみ、やがてその動きを止めた。


そして、高難易度を誇るモンスターの一体は光の粒子になって弾けて消えていった。


まるで勝利を祝うかのような大量の光の粒子は、ゆっくりと空へと昇っていき、限界高度まで達すると一つずつ消えていった。




その光景を眺めていた戦いの跡に残された一人の双剣士は、静かに、けれど、力強く、握りしめた拳を掲げた――――

初っ端の戦闘はこれで終わりになります。

いきなり戦闘から始まって訳分からないんだが!?となった人もいるのではないでしょうか。


センジョーというのは主人公のゲーム内でのキャラクターの名前です。


ここから先は異世界への転移に至るまでのお話になります。

序章は異世界転移するところまでとなり、一章まではもう少し掛かりますのでお付き合いいただけると嬉しいです。


ここまでで何か感想やご意見などありましたら、一言でもいただけると嬉しいです。

評価をいただけると同じくらいうれしいです。

宜しくお願いします。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


流星群

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