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しりとり

「しりとりの、り」


 しりとりが始まった。先手は私だ。

 しりとりにおいての先手と後手の違いというか、差は、あってないような物。しかし、内容で確かにある。このしりとりというゲーム、実は先手の方が有利なのだ。

 先手であれば、敵を十手以内に沈めることができる。もっとも、この手法が決まるのはしりとり初心者の身ではあるが。私が今対峙している相手は、生半可な暇つぶしとしてしりとりを楽しんでいるようなペーペーではない。だから、このゲームでは先手後手の差はほぼないのだ。

 しかし、それでもまだほぼの段階ではある。しかし、このしりとりは恐らく長期戦になるだろうから、この少しの有利も後から効いてくるのだ。

 先手の何が有利かというと、相手の選択肢を絞れるという事だ。私は理から始まっているのだが、相手は理から始められない。何から始めるかというと、私が答えた物のしりについてる日本語からなのだ。つまり、私は相手のペースをこの最序盤から握れているのだ。

 そして、私は今からどの言葉を使うのか。一般的なしりとりならば、りの後の最初に出てくる言葉は『りす』なのだが、私はそうしない。私の第一手は。


「りんねてんせい」


 これだ。輪廻転生。もちろん、これを選んだのにもわけがある。

 私が今回とる戦法は、一二攻めというものだ。しりとりで一番多く取れられている先方の一つとして、り攻めやず攻めというものがあるが、一二攻めというものもそれらの発展形のようなものだ。

 一二攻めというものは、つまり、あ行とか行で攻めるというものだ。一つだけで攻めるよりも効率がいいし、応用も利きやすい。自分は考えるのに時間はかからないが、相手は考えるのに時間を要す。先手はこれがすぐにとれるから有利なのだ。


「……いかり」


 なんと、相手は『いかり』を選んできた。まさか、り攻めをするつもりか?そんなものが私に効くとでも思っているのか。随分となめられたものだ。それか、相手は相当なめているのか。仕方がない、しりとりの本当の恐ろしさを教えてやろう。


「りんり」


 り攻めに対処する方法。それは一つしかない。自分もり攻めをすることだ。これは何よりも最優先すべきことでもある。自分がとっている戦法なんてこの場合は放っておいてもいい。


「りーずなぶる」


 なんと、相手はもうり攻めをやめたのか。随分と逃げ腰だ。

 相手がり攻めをやめたとき、私がとるべき次の戦法は二つだ。一つは、今までとっていた戦法に帰ること。もう一つは、このままり攻めを続けること。


「るり」


 私はり攻めを続けることにした。いや、続けるわけではない。ここで少し、相手の実力を試そうと思う。私の中でとある説が出ているのだ。

 もしかして、相手はしりとりが下手なのでは?と。もしそうなのであれば、り攻めでも簡単に落とせる。


「りんかい」

「いなり」

「りとう」

「うり」

「りんす」

「すり」

「りていく……」




「……りす」


 何十手かやってみた感想としては、相手は相当な下手くそだ。り攻めにへの対応は初心者そのもの。とりあえず知っている言葉で返しているだけで、その中に考えの一つすら見つけ出すことはできない。この勝負、もうもらったも同然だろう。

 相手は一手ごとに持ち秒ギリギリの25秒くらいで答えることもある。さっきまでもそうだった。恐らく、この一手で終わりだろう。なんともつまらない戦いであった。まさか、この場所で行うしりとりで、り攻めをするなんて思っていなかったし、まさかそれで勝つことができるなんて。


「はかり」


 相手の表情を見てみると、もう絶望の表情を浮かべている。

 そのまま、十秒、二十秒。

 ああ、これは終わった。相手も、今から突然のひらめきで答えが出るような精神状態ではないだろう。全く、何故ここまでの下手くそがここに来たのか。何かの手違いでもあったのか……。


「り」


 ……?相手は今、なんていった?

 り……、まさか、それが答えとでも。『り』?……そうか、理の事か。

 ……まずい。りから始まる言葉?早くこたえなければ。まさかここでまさかの返しが来てしまった。そうだ、確かに、りで始まってりで終わる言葉の中に、もちろんりだって入っているわけだ。

 はやく答えなければ。りから始める言葉。りから、りから……。


『ピ』


 そこで、急に、甲高い機械の音が聞こえた。一体何の音だろうか。最近聞いたような気がするが。


「……はあぁーーーー」


 相手は、息を吐いた。何をしているのだろうか。対戦中に息を吐くなどバリバリの反則で失敗になるはずだが……。


「アンタ、なめてんの?まさかここまでの下手くそと対戦するなんてびっくりよ」

「は……?」


 相手は流暢に喋っている。何故だ。今はまだ対戦中で、もう少しで私が答えようとしているのに……。


「まさか、こんな演技に騙されるなんて。しかも、り攻めをするのに『り』を消費しないの。アンタ、何年この世界にいるのよ。強い奴と戦えるって聞いて楽しみにしていたのだけど、本当に、ガッカリよ」

「ま、まさか……」


 私は、負けたのか?その事実に、今更気が付いた。


「じゃあね、下手くそ」

「ま、待って……」


 手を伸ばした。このままでは。


『ナンバー三五九一の負けです。よって、貴方の敗北となります』

「まって、まって!!!」


 待ってくれない。


『死刑』


 ピカリ、と、目の前が一瞬だけ光った。そして、そこからの記憶はない。多分、人生もないのだろう。

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