青空に続く道
目を覚ましたタイミングから、私の人生は始まった。
どこからどこまで続くのかは分からない。限りなく続く青色に目を輝かせ、そのうちその色にすら飽きて、赤になったり黒になったり、変わり変わる景色に浮気して。
そうしていくうちに時間だけが過ぎていく。何も変わらない私だけを残して、世界はどんどん変わっていく。空の色は変わったし、海の色も変わったし。友達だってどんどん変わって。出会って別れて出会って別れて、形の変わる友達たちと、形の変わらない友情をはぐくんできた。
それでもやっぱり時間は進んで、それでも私を置いてけぼりにする。髪の毛がぼさぼさになっても、私はずっとここにいる。最初からここにいたから、私は最後までここにいる。
泣きたくても、泣く時間なんてない。私にはやらなくちゃいけないことがいっぱいあるから。友達以外をいっぱい殺して、友達が殺されないようにいっぱい守って、それでも死んで、殺されて。たくさんの涙を流す隙もなく、私はまた友達を守る。
寒い日もあった。暑い日もあった。心が苦しくて張り裂けそうでも、頭が痛くて割れそうでも、私を助けてくれる友達なんて、誰も、なんにもいなかった。私はただ守って、守られない私はどんどん傷ついて、それでもここを離れることなんて、一時もなかった。
やがて、私に似た友達が増え始めた。その友達は私を守ってくれて、そのおかげで、私もたくさん守ることができた。
なのに、その友達は、別の友達を傷つけるようになった。私はどっちを守ったらいいのかが分からない。だから、どっちも殺した。その日から、私の友達は一人もいなくなった。
だけど、私をずっと守ってくれる人はできた。その人を私は友達と呼べないし、その人も私を友達だなんて絶対に言わない。暗くて狭くてさみしい部屋で、私はずっと一人きり。その時、私は初めて泣いた。
とっても大きい声で泣くと、その人は駆けつけてくれた。私をひっぱたいて、蹴って、殴って。私の心の痛みを忘れさせてくれた。それがとても嬉しくて、だけど悲しくて。私の時間は永遠だけど、その人の時間は有限だっていう事に、私はとっくに気づいていたから。大好きだって気づいた時には、その人ももう死んでいた。
体に刻まれた数々の傷だけが、あの人についての記憶として残っている。それ以外はすべて消えた。あの人の名前も、声も、顔も、形も。何もかもは、もうどこにも残っていない。それでも、私はまだここにいる。
私は段々痛みを覚えてきた。否、痛みを知った。人が死ぬ悲しみを、心が死ぬ苦しみを。人を傷つける、人が使う、人によって作られた武器は、人を殺すのに最適化していって、たくさんの人を殺すようになっていった。その時にはもう、私に友達なんて一人もいなくて、ただただ、知らない人が死ぬ姿を見ていくだけになっていた。頑張って守ろうとしても、刀には勝てなかった。銃には勝てなくて、人に、勝てなくなっていた。
それはもう、私の知っている戦いとは、まるで違うものになっていた。戦う意味も、守るべきものも、何もかもが変わっていた。
人を殺した数で争い、人が死んだ数だけ悲しむ。私の知ってる義理も人情も、この戦いの中には何もなかった。
悪くない人が、殺されて。殺した人が殺されて。
私もその時は、たくさん撃たれた。銃で撃たれ、爆弾により肌を焼き。痛くて苦しくて、私は泣いた。もう泣くことしかできなかった。誰も守れない私に泣いた。誰も守らない人々に泣いた。
ふと、あの日の事を思い出す。海と空に囲まれて。友達ばかりの生活を、思い出した。
私はあの時、たくさんのものを守っていた。私は戦っていた。
その幸せに気づいたところで、私は初めて気が付いた。
「……おいて、いかれてる」
時間は進む。わたしは止まったままだった。
燃える火の中で、私はそう呟いた。