名を失った女王
「おい、そこの民」
「へい、なんでしょう?」
「私の名前を言えるか?」
「へ、名前?そりゃあ、アイリーシュ様じゃないですかい」
「アイリーシュ……うーん、何か違う気がするんだが……」
顎に手を当て、深く考える。うーん、うーん……。
「……アイリーシュじゃ、ない気がするぞ」
違う気がする。だから、私は民を撃ち殺した。
民の顔面をぶち抜いたものだから、私の方にも返り血が襲い掛かった。
「ああ、血だらけになってしまったではないか!おい、そこらへんの民!私についたこの血を拭き取れ!」
「ア、アイリーシュ様、ご乱心なさりましたか……!?」
「アイリーシュじゃないと言っただろ!」
無礼な民を、私は再び撃ち殺した。今度は少し距離が離れていたから、民の腹に弾は当たった。
「ひぃ!」
「キャーーー!」
「ど、どうなっている!?」
私が民を二人撃ち殺した程度で、他の民たちは騒ぎ始めた。なんとも民度の低いものだ。
「おい、民どもよ!早く私のこの血をどうにかしろ!」
私がそういっても、誰も血を拭き取りに来ようとしない。仕方がないから私は一番近くにいた民を撃ち殺し、再び催促した。
それでも来ないものだから、仕方なく、私の方から向かってやった。
「おい、お前に決まりだ」
「は、はいぃ……!」
「拭け、私の顔についた血を」
「か、かしこまりました……」
民はポケットから薄い布を取り出し、それで私の顔を拭いた。何故誰もこんなに簡単なことをしようとしなかったのか。
そうだ、こんなに近くに民がいるのだから、この民にも聞いておこう。
「おい、私の名前を言ってみろ」
「は、はい……」
民はそう答えると、しばらく黙った。じっとその民を観察してみると、物凄い量の汗をかいていた。何をそんなに緊張しているのか。私の顔が近くにあるから緊張しているのか?
試しに、私は民にキスをした。
「な、アイリーシュ様!?」
「やはり、お前も知らないのか」
民を思いっきり蹴飛ばし、それから、その民の頭を撃ち抜いた。
今度は少し離れていたから、返り血は浴びずに済んだ。