↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素直がいちばん  作者: 恵梨奈孝彦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

中編

│ 今日は隼人がカウンターに一人で座っていた。 │

│ マスターが秀明に聞いた。 │

│「萌佳さんとはうまくいってるのか」 │

│「まあ…、どうなんでしょうね」 │

│「なんだ、あやふやだな」 │

│「なんというか…、理不尽だと思うことがあります。女三人よれば姦しいっていいま│

│すけどね。あいつは一人で三人以上です…。この間も、どう考えてもぼくのせいじゃ│

│ないのに、怒鳴られました」 │

│「秋山くん、ちょっと立ちなさい…」 │

│ 隼人が立つと、いきなりマスターは彼の頬を張り飛ばした。 │

│「『どう考えてもぼくのせいじゃない』だと! それがクズの思考なんだ!」 │

│「どうして…」 │

│「おまえ、幾つだ」 │

│「二十八です」 │

│「完全な戦後世代だな。おれもそうだ。しかしおれたちに罪はないのか!」 │

│「言っている意味がわかりません」 │

│「おれたちの両親の世代はみんな、戦争に協力した。あの戦争で日本人がやったこと│

│は何だ? アジアを解放したとか、昭和前期の亡霊みたいなことをぬかす奴がいまネ│

│ットで増えているが、当時の記録を調べればそんなものじゃない。結局は殺人とレイ│

│プだよ。ネトウヨはスマホばっかりいじっているくせに、自分の見たいものしか見よ│

│うとしない」 │

│「それがぼくと何の関係が…」 │

│「おまえも生まれてすぐに月給取りになったわけじゃない。親に育ててもらったはず│

│だ」 │

│「むろん親には感謝しています。しかし萌佳には…」 │

│「その親が戦争をしていた。殺人とレイプだ。おまえが今まで食べてきたもの、おま│

│えが今まで着たもの、おまえが今まで身につけた教養や知識でさえも、親が与えてく│

│れたものだ。つまりおれもおまえも、罪でできているわけだ。だからおれたちも、ア│

│ジアの被害者と同じ目にあわなけりゃいけないはずなんだ」 │

│「飛躍でしょう、それは…」 │

│「罪っていうのはそういうものなんだ。わからないのはおまえが不勉強だからだ。ア│

│ジアの人々が日本人にどんな目にあわされてきたかを知っていれば、そんなことは言│

│えないはずだ」 │

│「しかし…」 │

│ マスターがもう一度隼人を張り飛ばした。 │

│「まだ言うか! 親世代の罪はおれたちは背負わなけりゃならないんだ…、ずっと │

│な!」 │

│「はい…、わかりました」 │



│かしましい │

│【囂しい・姦しい】 やかましい。かまびすしい。落窪物語(3)「あな-・し。…な│

│言ひそ」。「女三人寄れば‐・い」           │

│                              「広辞苑」より │



「それで、どう責任をとってくれるわけ?」

「はい…。すみませんでし」

「謝ったりしたら、通報してやる!」 

いつもの「レッド・ワン」で、いつもとおなじような光景が見られる。しかしいつもとは違うところもあった。

 なにしろ隼人の顔が真っ青なのだ。それに対して萌佳には、怒っているようではあるが、隼人のような焦燥感や顔色の悪さは見られない。

 お昼どきだからなのか、それとも外の猛暑のためなのか、いつになく店に客が多い。

「わかってるの…? あたしがあんたに何をされたか!」

「はい…」

「わかってるならここでゆうべ、あたしに何をしたか、言ってみなさい!」

「………」

 この二人のほか、声を立てる者はだれもいない。テーブルを埋めた客たちのほか、マスターさえも聞き耳を立てている。むろん、ミズキも例外ではない。

「レイプ…、レイプしたよね、夕べ…」

 針が落ちた音さえも聞こえそうな静寂のなか、萌佳の小さいがよく通る声が、衝撃的な内容を載せて響いた。

「いや、あれは…」

「言い訳をするんじゃない!」

そう言ったのは萌佳ではない。隼人がカウンター側に振り向いた。マスターもまたよく通る声で続けた。

「この間の話は何だったんだ? 自分のせいじゃないとかいうのはただの言い訳だと、まだわからないのか?」

 隼人が萌佳に向き直った。顔つきに悲壮さが見える。

「わかりました…。どんなことでもしましょう。何をすればいいのでしょうか」

 萌佳がそっぽを向いたまま言った。

「お嫁さん…」

「え?」

「あたしはあんたの、お嫁さんになりたいっ!」

「…そんなんでいいのか?」

「そんなのって何よ! あたしの、ずっと前からの夢なの!」

「わかった…、結婚しよう」

「そんな言い方じゃだめね。自分が昨日何をしたか…」

「結婚してください!」

「まだダメ」

 隼人が椅子から立ち上がって、土間に正座した。土下座しながら言った。

「結婚してください!!」

 萌佳も立ち上がった。そして隼人の対面に正座して三つ指をついた。

「一生あなたにつくします。一生ついていきます。どうか、かわいがってやって下さい」

 深々と頭を下げた。

 いつの間にか拍手が起きていた。拍手は店全体に広がり、スタンディングオベーションまでしている客がいる。

 二人は驚いたようだった。そして顔を見合わせて、照れたように笑った。

 ミズキは、こんなに幸せそうな笑顔を今までに一度も見たことがなかった。



│ レイプ  【rape】  強姦 │

│                            「広辞苑」より │


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。