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95)戦いの始まり

 クマリから“アクラスの秘石”を渡されたティア。


 その後、彼女はクマリに連れられて屋根伝いにライラ達が居る“木洩れ日亭”に来た。


 木漏れ日亭に到着した後、クマリはティアに真剣な顔で話した。


 「……私は、此処で別れるよ……。“秘石”についてはさっき何度も言った通りだが……念の為、此れを渡して置こう……。此れは元将校が、秘石に付いて書き記したモノだ。

 それと……これもさっき言ったが“秘石”を取り込む際……死ぬほどの激痛が襲うらしい……。

 秘石を託した元将校が言うには、実際にその激痛で死んだ女も多かったって話だ。……お前がその痛みに堪えられなければ……渡した短剣で、右腕を切り飛ばせ。

 だが……お前が死の痛みに耐え抜き……秘石を取り込んだなら……あの別邸に来い。

 そこでお前を徹底的に鍛えてやる……。秘石の力で早死にしない為にもな」


 「……何から何まで有難う御座います、師匠。……大丈夫です、絶対……私は死んだりしません! だから此れからも宜しくお願いします!」



 クマリの忠告を受けたティアは明るく彼女に答えた。対してクマリは静かに返事する。


 「分った……また会える事を祈っているぞ、ティア……」


 そう別れの挨拶を言った後、クマリは風魔法で空高く舞い上がり、屋根伝いに飛びながらあっと言う間に去って行った。


 ティアはクマリから授かった“秘石”を持っていた学生鞄にしっかりと入れ、木漏れ日亭に入った。



 すると……。



 「ティア様! 御無事でしたか!」


 「ティア!」

 「ティアちゃん!」


 木漏れ日亭に入ったティアの姿を見た途端、ライラとリナとジョゼが叫びながら駆け寄って来た。


 「……ほら、見なさい。クマリって子は悪い子じゃ無いって言ったでしょ?」


 ティアの前に集まるライラ達に向け、木漏れ日亭の女将が声を掛けた。


 「女将はそう言うが、そのクマリって女は私を騙し、ティア様に修行と言う名目で酷い怪我を……。うん? ティア様、お怪我をされたと聞きましたが?」


 女将の言葉にライラがティアを見ながら反論していたが、ティアの体にリナ達から聞いていた傷が無い事を不思議に思い、彼女に聞いた。



 「アハハ……皆、心配掛けてホント御免ね……傷はクマリさん、いや……師匠に治して貰ったんだ」


 「「「師匠!?」」」


 心配するライラ達に向け事情を説明した際、クマリの事を師匠と呼んだ際に、ライラ達全員は驚いて叫んだ。



 対してティアはクマリの弟子になった経緯を説明した。



 「……と言う訳で……レナンを取り戻す為に師匠……つまりクマリさんの弟子になる事になったの……」


 「ティア様! 私という者が在りながら……そのクマリ等と言う女と!」


 「ライラさん……その発言……凄く誤解を招くよ……?」


 事情を説明したティアに対し彼女に剣を教えているライラは激しく抗議したが、その言葉が“浮気夫を責める新妻の其れ”にしか聞こえなかった為、リナが冷静に突っ込んだ。


 対してティアは苦笑しながらライラを宥めた。


 「もちろん、今まで通り剣に関してはライラに教えて貰うよ? でも……師匠は最高ランクの冒険者……。学べる事は余りにも多い……。

 そんな彼女に弟子にして貰えるなんて、凄い事だと思う……。だから、私は師匠の弟子になる。……全てはレナンを取り戻す為に」


 「「「…………」」」


 ティアの真剣な言葉を受け、ライラ達は沈黙したが、ティアを信じるリナがティアに声を掛けた。


 「……まぁ、お前がそれで良い、って言うなら私はティアの意志を尊重するよ。但し! あのクマリって女が……ちゃんとお前に師匠らしい事するか、私が監視するから!」


 「私もよ、ティアちゃん!」


 リナの言葉に、横に居たジョゼも同調した。


 対してライラは苦虫を噛み潰した様な顔でティアに話す。


 「……納得は出来かねませんが……ティア様がそうされたい、と仰られるなら私は従います……。 しかし! そのクマリと言う人物は信用出来ません! リナ殿が言う通り、私も修行の様子を見させて頂きます!」


 興奮するライラ達の声を聞いてティアは苦笑しながら呟いた。


 「コレ……皆来る心算だろうけど……師匠なんて言うかな……」



 ティアはクマリがキャンキャン怒る姿を思い起こしながら、自分を心配するライラ達に深く感謝するのであった。



 「さぁさ! せっかくティアちゃんが、此処に来たんだ! 皆、晩御飯食べていきな!  シア、手伝っておくれ!」


 「はーい、お母さん!」


 ティア達の様子を見て、夕飯へと誘った木漏れ日亭の女将が娘のシアを呼び準備に取り掛かる。


 こうして騒がしい夜は過ぎて行った……。




  ◇   ◇   ◇




 「それじゃ、リナ、ジョゼ、二人共お休み! 今日は本当に有難う!」


 「気にすんな! お休み、ティア」

 「お休み、ティアちゃん……。あんまり気にしちゃダメよ」


 木漏れ日亭で夕飯を食べた3人は学園の寮に戻ってきた。



 遅い戻りに寮長から苦言を言われた後、其々の部屋に向かうのであった。


 なお、寮は二人一部屋でティアと同室のルームメイトが以前は居たが、フレディの事件後、そのルームメイトはティアとの同室を拒絶し別室に移動してしまった。


 その為、ティアはこの部屋を一人で使っていた。



 その事にティアは悲しくて落ち込んだが……今日だけは有り難かった……。



 何故なら、“アクラスの秘石”の取り込みを誰にも知られず行えるからだ。



 「……さぁ……始めよう……」


 机の前に座ったティアはクマリが分れる際に渡した書置きを見ながら、彼女から貰った口に咥える為の丸い木片と、切れ味が鋭そうなナイフを脇に置いた。


 イザとなれば右腕を切り落とす為だ。



 そして机の上に“アクラスの秘石”を置く。



 もっとも“秘石”と呼ばれるのは淡く光る宝石部分であり、揺らめく光を放つ銀色の立方体は台座とクマリは言っていた。


 この魔道具は金属の塊りなのに、持つと驚く程軽い。


 不思議な揺らめく光を放つ辺りから、台座を構成している金属はティアが知らない未知の金属だろう。


 立方体の台座には前後に楕円形の穴が開いている。楕円形の穴は片側は細くて幅の広い楕円の穴と、反対側は円に近い楕円形の穴が開いていた。


 クマリが渡した書置きには、この円に近い穴から手を差し込むと有る。



 しかしその穴は、丁度手首位の穴だが、手の平が入るとは思えない。


 「……コレで……合ってるのかな……? どう見たって入りそうに無いけど……。! うわっ!」


  “グググ”


 ティアが戸惑いながら書置きの通り円に近い方の穴に指を近づけると、台座の穴が独りでに大きさを変え、丁度手が入る位の大きさに広がった。



 「……何かコレ……ホント、とんでもない代物みたいだ……」


 独りでに広がった台座の穴を見て、ティアは思わず呟いた。



 ギナル皇国を支配すると言う“白き神”がもたらしたと言う、この“秘石”……。



 模造品との事だが、この秘石を取り込むと強大な力と引き換えに命を削ると言う。


 また、取り込む際に死ぬほどの痛みが襲うとも聞いた。


 改めてそれを思い起こすと、ティアの中に恐怖が芽生えた。



 しかし……、それも一瞬の事だった。



 「……此処で何もしなければ……何も状況は変わらない! 私はもう一度レナンを取り戻すって決めた! その為に! 私は生まれ変わるんだ!!」


 ティアは自分の決意を口に出して叫んだ。


 そして一気に、事を構えて待っている様な台座の穴に、自分の右手を差し込んだ。


 すると台座は、自動的にティアの手の大きさに対し穴の大きさを合せ、隙間なく包み込んだ。



 次いで……台座の表面に淡く光っていた菱形の宝石が突如輝き出す。


 ”キイイイイン!”


 「……光が急に……、 !! あ、あぐぅ!! ああああ!!」


 菱形の宝石が、いや……アクラスの秘石が輝き出した瞬間……、ティアの右腕は急激に痛みを発し、彼女は大きな叫び声を上げたのだった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 漸く長い出張から帰って来れました! 


 

 追)一部見直しました。

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