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90)ティアの覚悟

 唐突にクマリから戦いを挑まれたティア。彼女はライラを取り戻す為、手にした木剣でクマリに果敢に攻める。


 「ヤァ! ハァ!」


 「……何だよ、その大振りは……。君、ホントに箱入りだったんだねー? ハイ、反撃っと!」 


 “ドス!”


 

 ティアの猛攻をあっさり躱したクマリは、がら空きの彼女の腹に鋭い手刀を浴びせる。


 「うぐぅ! あぐ……ハァ、ハァ……まだ……やれる……!」


 クマリの一撃を受けたティアは痛みにのけ反ったが、何とか倒れずに踏み留まった。


 「……それじゃ、次行くよ!」


 クマリは、ティアが体勢を整える前に掛け出し、彼女の顔を遠慮なく殴りつけた。


 “ガン!”

 “ドサァ!”


 瞬く間に迫ったクマリの一撃を受けてティアは後ろ向きに倒れる。その様子を見たリナとジョゼが叫ぶ。

 

 「ティア!!」

 「ティアちゃん!」



 二人は大声で叫んで、ティアに駆け寄り介抱する。その様子を見たクマリはつまらなそうに呟いた。


 「……ふん……持つべき者は友達ってか? ティアちゃん、君は良いよね……。

 レナン君やソーニャちゃん……それから、そこのジャガイモちゃん達に大事にされて……。

 “あぁ! ティアちゃんが可愛そう!”って守られてね……君が自己満足で抱いた誇大妄想にも文句も言わず協力してくれるんだろ? ……全く可哀そうな友人達だな」


 クマリの言葉が我慢ならなかった為か、殴られて倒れたティアは、リナ達に支えられながら何とか立ち上がった。


 しかしその顔は鼻血が出て、足もふら付いている。しかしティアは怒りで木剣を握り締めたまま、クマリに突進した。


 「よ、よくも!」

 “ダッ!”


 対してクマリは冷静に、木剣を持つティアの手を掴み、隙が出来た彼女の胴に前蹴りを与えた。


 “ドガァ!”

 「ぐふぅ!」


 前蹴りを喰らったティアは後ろに吹き飛んだ。そんなティアを庇うべく、倒れたティアの前にリナとジョゼが立ち、クマリを睨み付ける。


 これ以上のクマリの乱暴を見過ごせなかった為だ。


 「これ以上はやらせない!」

 「わ、私だって!」


 クマリの前に立ち塞がるリナ達を見てクマリは何でも無い様に答えた。


 「……君達も私と戦う? 随分と友達思いで結構な事だけど……私、凄く強いよ?」



 そんな最中、前蹴りを受け倒れていたティアが片膝を付き、起き上がってリナ達に声を掛ける。


 「……ふ、二人共……あ、有難う……。で、でも此れは私が受けた戦いだから……」


 「……お前……」

 「ティア……ちゃん」


 ティアは立ち上りながらそう言ってリナ達を下がらせ、クマリの前に立つ。


 対してクマリはティアから奪い取った木剣をお手玉の様に、右手で放り投げて遊んでいたが、ティアが震える足で立ち上がった姿を見ると、遊んでいた木剣をティアの足元に投げて突き刺した。


 “グサ!”


 「……さぁ……続きをしよう? 最強の冒険者になるんでしょう? その決意を示して見せてよ」


 「と、当然!」


 クマリの挑発を受けてティアは木剣を手にして再度、彼女に向かって行った……。




  ◇   ◇   ◇




 クマリに向けティアは幾度と無く立ち向かったが、ティアの木剣はクマリに掠りもしない。


 逆にクマリはティアの攻撃を軽くあしらいつつ、打撃や蹴りで反撃を与え、その度にティアは派手に転がった。


 ティアの可愛らしい顏はアザができ、口からの出血だけでなく鼻血も流す等、酷い姿だった。



 しかしティアは闘志を無くしておらず、クマリを睨みながら悔しそうに呟く。


 「はぁ、はぁ……うぐ……は、早過ぎて……動きが、見えない……!」


 そんなボロボロなティアの様子を見て、リナとジョゼが大声で彼女を制止する。


 「お、おいティア! もう止めろ!」 

 「ティアちゃん、それ以上は危険よ!」


 そんな3人の様子を見たクマリは溜息を付きながら呟く。


 「……本当に……期待外れだね……これ以上は流石に危険だな……。もう終わらせるか」


 そう呟いたクマリは、電光の様に素早く動きティアの懐に入り込み、彼女の鳩尾に鋭い肘打ちを食らわした。


 “ダス!”

 「……う、うぐ!」


 クマリによって急所に鋭い一撃を受けたティアはあっさりと崩れ落ちた。


 ティアは痛すぎて意識は、はっきりしているが手足に力を入れられず動かす事が出来なかった。


 

 動きの取れないティアは這い(つくば)りながら、クマリの戦い方を思い出していた。


 (ま、まただ……凄く動きが……早くて見えない! アイツは……いや、あの人は……本当に強い! 彼女は……本物の冒険者だ! あの動き……魔法で、白くなったレナンの様だ……。

 私もアレが出来れば……。でも私が出来るのは……火炎の魔法だけ……うん? 火炎……? 

そ、そうか! な、何とか出来るかも……!)


 ティアはレナンの戦い方を思い出し、自らの得意魔法で活路を見出した。しかし彼女は先程受けた急所へのダメージで立ち上る事は出来ない。


 そんなティアを見下げながらクマリは冷たく言い捨てる。


 「……ああ、もういいよ……。勝手に期待した私が間違いだった……。マリちゃんやレナン君とは……君は違う……唯のジャガイモちゃんだもんね……。

 ティアちゃん、それから君達、脳筋騎士のライラちゃんには何もしていないよ。彼女はちょっとお出かけして貰っただけ……。

 “ティアちゃんの身柄を預かった!”って感じで手紙送ったら、脳筋らしく飛んで行ったね。

 夜には、騙された事に気が付いて宿には戻るだろうよ……。だから安心して。

 今日の事はギルドを通じて“訓練”として君らに報酬金出すから……とっとと帰ってくれていいよ。さぁ帰った、帰った」

 


 何処までも勝手なクマリの言い分に怒り心頭でリナが吐き捨てるように言った。


 「ティアにこんな事をして唯では済まさないぞ!! ギルドに言いつけてやる! か、帰るぞティア! ジョゼ!」


 「う、うん。ティアちゃん……大丈夫?」



 激高したリナはジョゼと共にティアを抱き上げ帰ろうとした。しかしティアは……。


 「リ、リナ……ジョゼ……有難う……。で、でも私は大丈夫……。私は……あの人に勝ちたいの……。だから、まだやるわ」


 リナの手を借りて立ち上がったティアは真っ直ぐな目をしてリナに語った。対してリナはティアを制止する。


 「よ、よせ! アイツは特級冒険者だぞ!? 私らが束になっても敵わない! 実際、お前だってボコボコにされたじゃないか!?」


 「だからこそよ……。わ、私は弱い……。アルテリアに居た頃はレナンに甘えていたから……何とかやって来れた……。でも、今はそのレナンを取り戻す為……強くならなくちゃいけない……。あの人より……マリアベルって騎士より……、そしてレナンよりも……」


 「「…………」」


 ティアの強い想いを知ってリナ達は思わず言葉を失った。しかしそんなティアの言葉を嘲笑うようにクマリが言い放つ。


 「身の程知らずもいい所だねー。君の実力は3級以下……。ソーニャちゃんにもまるで届かないよ? そんな君に一体何が出来る?

 ……はっきり言ってやろう。 君のしようとしている事は報われない自己満足さ」


 クマリの見下げた言葉を受けたティアは負けずに言い返した。


 「そんなの! や、やってみなくちゃ! 分らない! 貴女……も、もし……この私の攻撃が、貴女に一撃でも当たれば……私の言う事を何でも聞くって……約束しなさい!」


 「……まぁ、いいだろう……何でもやるだけやるが良いさ……。どうせ無駄だろうけど」


 ティアの叫びに、クマリは面倒臭そうに答えながら、構えを取る。対してティアはクマリの姿を見ながら脳内で策を練り始めた。


 (あの人は強い! それに比べ……私は弱い……。あの人に一本取るには……“アレ”しかない。……もしかして……死んじゃう位に危ないかも……だけど……これ位やらないとレナンには絶対! 届かない!!)


 こうしてティアはクマリに一撃を与える為、危険な賭けを行う覚悟を決めたのだった……。



 いつも読んで頂き有難う御座います!

 


 追)一部段落等見直しました!

 追)冒険者のクラス見直しました!

T追)一部見直しました!

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