88)クマリの元へ
女将から渡された紙切れを元に指定された場所へ向かう、ティアとリナとジョゼの3人。
黒いローブを羽織ったクマリと言う人物から渡された書置きでは、そこにはライラも居るらしい。
向かう道中、目的地の住所を見てリナが呟いた。
「……指定された場所は……意外に学園に近いな……」
「でも……この場所って……エバント男爵の別宅って書いてあるけど……」
リナの呟きに対しジョゼが有る事に気が付き問い直した。
「……ジョゼ……知ってる人なの?」
「ティア……お前知らないのか? お前にも関係ある話だぞ……。
知ってると思うが……フェルディの実家であるルハルト公爵家は、裏でギナル皇国と繋がりが有るって事で御家取潰しとなっただろう?
エバント男爵はルハルト公爵家と縁が深かった。つまりは……この男爵家もギナル皇国と繋がりが有ったのさ……。それがフェルディの件で明るみになり……ルハルト公爵家と同じ様に、御家取潰しになったって訳さ。だから、この別宅は今、空き家の筈なんだ」
「そう……だったんだ……」
ティアはリナの説明に他人事の様に聞いていた。確かにティアはフェルディと付き合いは有ったが、それは彼に騙されての事であった。
しかもフェルディは最低の犯罪者であり、そんな人間に浮ついてレナンとの婚約を破棄してしまった……。
それはティアとしては、自業自得とは言え一秒たりとも思い出したくない最悪の出来事だった。
そんな気持ちが出ていた為か一層暗い顏をしたティアの様子に気づいたリナが慌ててジョゼに話しを振った。
「そ、そう言えば! こ、この紙に書いてある、クマリって奴だけど……、ジョゼ、何か聞いた憶えないか?」
「うん……私も何処かで聞いた様な気がするんだよね……えーと……誰だったかな?」
リナに問われたジョゼは思い出そうと額に手を当て考えている。ティアはそんな二人を見ながら女将に言われた事を話した。
「まぁ、大丈夫じゃないかな……。女将さんも、シアちゃんも、そのクマリって人知ってるらしいし……」
「うーん……確かにそんな事言ってたな……。でも、何か引っ掛るんだよ……」
「ティアちゃん、リナちゃん、到着したみたいだよ!」
ティア達3人が話しながら歩いている内に、目的のエバント男爵別宅に到着した。
到着した別宅は、最近まで人が住んでいた為か建物は傷んではいないが、庭の手入れがされておらず雑草が生えていた。
まだ明るい昼過ぎだが、別宅は人の気配がせず少し不気味な感じが漂う。
「「「…………」」」
良く見れば正門は半開きで、まるでティア達に“入って来い”と誘っている様だった。
「……な、何か……気味悪いよな……ど、どうする?」
「ここから……お、大声で呼んで見る?」
薄気味悪い雰囲気を醸し出している別宅を見て、リナとジョゼが身震いしながら互いの意見を言った。二人共、この気味の悪い別宅には入りたくない様だ。
そんな彼女達を見て、ティアは覚悟を決めて話した。
「……リナとジョゼは此処に居て……。私が中に入って戻って来ない様だったら……女将さんに知らせて欲しいの……」
「ば、馬鹿野郎! そんな提案飲めるか! 行く時は一緒だ!」
「そうだよ、ティアちゃん。3人居れば何とかなるよ」
ティアの中では湖畔の別荘でフェルディにより薬を飲まされて、凌辱されそうになった経験より、慎重に行動する事を学んだ。
その為、不気味な別邸にティアは一人でライラを探しに行く心算だったが、全力でリナとジョゼに反対されてしまった。
ティアは仕方なく3人で別宅に入る事を決める。
「……それじゃ……3人で行こう……。何が有るか分んないから……慎重にね」
「お、おう」
「……うん」
ティア達は開いていた正門を通り、別宅の玄関ドアをノックして呼掛ける。
“コン、コン”
「…………誰も居ないのかな……? ライラー! クマリさーん!」
ティアはノックしても返事が無かった為、別宅の外から大きな声で叫んだ。
すると……。
“ガタガタ!”
ティアが叫んだ後、明らかに別宅内から物音がした。確実に誰か居る様だ。
「……二人共、今の聞こえた?」
「……ああ!」
「誰か……居るみたいね」
ティアの問いにリナもジョゼも同意した。彼女達は互いに頷き合い、別宅内に入る事を決めた。
「……失礼しまーす……、クマリさーん!ライラー!」
「…………」
ティアは玄関先で、もう一度呼び掛けたが返事も物音もしない。
別宅はそれ程大きくも無く、短い廊下の先にリビングが有る様だ。リビングのドアは開いており他の部屋のドアは全部閉まっていた。
別邸内は暗く、リビングのドアが開いている為、そこだけ窓の光が照らされ明るく映し出された様だ。
まるで此処にしか行先が無いように感じられる雰囲気で……、明らかにリビングに来る様、誘われている状況だ。
「……どう……する?」
「どう……しよう……?」
異様な様子に、リナとジョゼは顔を見合わせて呟いた。対してティアは……。
「行こう……、此処で待っていても仕方がないし……」
そう答えてティアは奥のリビングに向け歩き出した。リナとジョゼも気を引き締めなおしてティアの後に続いた。
そして3人が暗い廊下から明るく日の差すリビングに入った瞬間――
“ヒュヒュン!”
“コココン!!”
「痛ったー!」
「イテッ!」
「キャア!」
リビングに入ったティア達に何かが飛んできて彼女達の額に命中した。
結構な勢いで飛んで来た“ソレ”は固く、額に何かをぶつけられた3人は悲鳴を上げた後、痛みで蹲った。
そんな彼女達の頭上から馬鹿にした様な少女の声が響く。
「……何だよ、こんな明るい場所でゆっくり投げた木のスプーンすら避けれないなんて……本当に残念な子だなー」
痛みに蹲っていた3人だったが、気の強いリナが床に転がっていた木のスプーンを握り締めて立ち上がり、声の主に文句を言った。
「オイ! 痛いじゃないか! 何してくれるんだ!」
リナが声がした方を見ると、リビングの窓際に真黒いローブを羽織った小柄な人物が立っている。
顏は面妖な仮面を被り性別は分らないが、話した声から推察すると年若い女性の様だ。
そのローブ姿の小柄な女性がリナに言い返す。
「……“何すんだ”はコッチのセリフさ。今、此処は私の家だよ? 売りに出されてたから買い取ったんだ。それを勝手に入って来たのはどっちだい?」
「あ、あの! わ、私達は、手紙を見て……此処に来たんです!」
ローブの女性?の言葉を受けて、痛みから漸く回復したジョゼが事情を話すと……。
「ああ、それは私が出したんだ。そこに居るティアって子に興味が有ってね……、だけど、とんだ見込み違いだった様だ。
あの“レナン君”の“元”婚約者って言う位だから、凄い子なんだろうなって期待したけど……。
こんな小手調べすら避けられないなんて! これじゃあ、簡単に騙されちゃって大事な人も無くすのも納得だね」
ローブの女性? は思いっ切りティアを馬鹿にした口調で蔑んだ。
対してティアは自分が一番言われたくない事を逆撫でされて激高した。
「随分好き勝手言ってくれるわね……! 一体アンタ何様なのよ!?」
「ああ、この私? ……私は最強の特級冒険者にして……黒騎士マリちゃんとその未来の夫、レナン君をこよなく愛する……クマリだよー」
ティアの怒りを全く無視して、黒ローブの女性……いや、クマリは明るく名乗ったのだ。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)冒険者のクラス見直しました!
追) 一部見直しました!