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81)漆黒の龍-1

  血染めの少年が迫る小型艇とレギオンと呼ばれる龍に放った光魔法。


 それは(まさ)しく、レナンがジェスタ砦での攻防戦で作り出した光魔法だった。ただ、違うのはその威力だ。



 血染めの少年は差し出した右腕をレナンの様に異形の腕に変異させていなかった。


 しかし苦も無く発動した光魔法は、レナンが放つ其れより広範囲で圧倒的に強力だ。


 血染めの少年が放った光の矢は巨大で太く全長20mの小型艇を完全に貫き、一撃の下に破壊する。


 迫っていた大量のレギオンも同じだった。恐るべき再生力を持つレギオンも彼が放った光の矢に頭部から足まで貫通され一瞬で肉塊となった後、霧散し絶命した。




 血染めの少年が小型艇を破壊した事により、更に戦場は極度に緊迫する。



 巨大な空中戦艦が一隻、血染めの少年の前に前進し船首に当たるであろう前方部を少年の方に向けた。


 次いで船首から空中戦艦の主砲だろうか、眩く輝く3本の長い棘を伸ばし始めた。


 この巨艦から放たれる主砲の威力は想像を絶する破壊力を生むだろう。



 絶体絶命―― そんな状況の中、血染めの少年は両手を広げ、巨大戦艦に向かって叫ぶ。



 「フフフ……喜べ! ……お前達全員に等しく死を与え……その魂を今は亡き、我が妻……クラウディアに……捧げてくれる!!」


 血染めの少年が叫び終わるか否かのタイミングで巨大空中戦艦の主砲が発射された。


 “ドキュン!!”


 “ドガガガアアン!!!”


 巨大空中戦艦の主砲から放たれた光は長大な尾を靡かせて、刹那に要塞城の屋上に直撃し大音響と共に巨大な火球を生じた。


 “ズズズズズ!!”


 巨大な火球は不気味な音を立てながら成長し、要塞城を完全に破壊した。


 この様子では血染めの少年は一瞬で蒸発し、息絶えたであろう……とその場に居た誰もが確信した。



 しかし――



 成長を続ける巨大な火球。やがて火球は姿を変え、豪炎となって爆心地を焼いた。



 その豪炎の中心に……黒い大きな影が見られた。



 豪炎の中から、ゆっくりと現れた巨大な黒い影……。それは漆黒の龍だった。


 全高は30m近く、肩幅は広く筋肉質で頑強そうな体躯(たいく)を持つその龍は、長大で太い尾を持ち、2本足で立つ様に浮いていた。


 大きな翼を持つが不思議な事に羽ばたく事も無く、空中に浮かんでいる。まるでその翼自体が浮力を生じている様だった。


 その顔は大きな頬板を持ち、眼窩(がんか)はドクロの様に落ち込んでいる。顎は長い牙が見えており、頭部には2本の太い角が、後方に(なび)く様に生えていた。


 豪炎の中から現れた漆黒の龍は、死と破滅を予想させる悪魔の様な姿をしている。


 巨大にして凶悪……全てを破壊し、一切の生を認めない存在……そんな恐れを抱かせる魔神が……豪炎の中から現れたのだ。




  ◇   ◇   ◇




 記録映像を見つめるアニグが声を震わして呟く。


 「あ、あれが……血染めの……第三形態か!? な、何て……恐ろしい姿だ……」


 「……そうだ……我等、新生軍が奴の居城だった、クメルト城を焼き払った時……血染めは……第三形態の姿を始めて現した……。

 その時より今は更に凶悪な姿となってはいるが……アレが血染めである事は間違いない。

 ……一年前、奴が初めて第三形態の姿を我等に見せた時……奴は敗走する旧体制派の残党共を守る為、守りに徹して大した力を示さなかった。し、しかし……」


 アニグの驚いた声の後、メラフは青い顏をしながら誰に聞かせる訳でも無く呟いていた。



 だが、恐怖の為か震え出し、これ以上話を続けるのを止めた。その様子を不信がり、ゼぺドはメラフに問う。


 「……どうした、メラフ……。何を戸惑うのだ?」


 「……お、恐ろしい……余りにも、恐ろしいのだ……奴の力は……。これ以上、俺の口からは語れぬ。とにかく……続きを……」


 ゼぺドに促されたメラフは、恐怖で震えながら絞り出す様に話した。


 メラフは明日にでも血染めの少年と、戦わされる事を予想し、強く恐れていたのだ。


 震えるメラフに戸惑いながらゼぺドとアニグは記録映像の続きを見るのであった。




   ◇   ◇   ◇




 豪炎の中から現れたのは、凶悪な姿をした漆黒の龍だった。


 その黒龍は巨大な空中戦艦やジズやレギオンと言った大小様々な龍が迫る中、真っ赤な炎を背に悠然と浮かんでいた。


 対して彼の龍を滅ぼさんと空中戦艦は主砲の砲筒を長く伸ばしながら血染めの少年である黒龍に迫る。


 迫られた黒龍は自らを滅ぼさんとする万を超える軍勢に恐れる様子も見せず、静かに右手を挙げる。


 天高く上げられた黒龍の右腕。ガントレットの如く装甲板を重ねた様な形状だった。


 手の甲にはレナンと同じく宝石状の器官が光っている。その宝石状の器官は両手の甲、両足首、そして胸部に設けられていた。


 黒龍は右手の平を空に向けて広げ、右腕を天高く真っ直ぐ延ばす。



 ――すると……、瞬く間に右手の平に黒い雷が迸りながら集まり、すぐさま巨大な槍を形成した。 



 “ブウウウウウン!!”


 その長さは約100m程も有った。黒き雷の槍は双頭刃で、両端が刃状に鋭く尖っている。   


 だが、槍の表面は黒い雷が(ほとばし)り槍らしい形を見せてはいるが、黒いモヤの様に固まった形状をしていない。


 その黒き槍は、全てを破壊する強大なエネルギーの塊りだったのだ。


 漆黒の龍となった血染めの少年が瞬く間に生成した黒き雷の槍……。その槍が強大な力を持つ事は誰の目で見ても明らかであった。


 その状況を見て慌てたのか、“ジズ”と呼ばれた巨大龍やレギオン共が黒龍に一斉に襲い掛かった。


 対して黒龍は高く上げた右手を“ツイ”と前に動かし黒き稲妻の槍を投げ放った。 



 “ギュキュン!!”



 稲妻の槍は音よりも早く飛び、放たれた軸線上の全てを貫いた。


 槍は稲妻を放ちながら超高速で貫き走り、軸線上だけでなく槍の周囲にある全てを黒き稲妻が襲う。


 恐るべき黒い稲妻の槍が全てを貫いたのは正に一瞬の事。(しば)静寂(せいじゃく)が戦場を支配したが……。



 “ドガガガガガガガアアアアン!!”



 一瞬の間の後、地を震わす大音響と共に、黒き稲妻が貫き飛んだ軸線上の全ての物は、全て爆散した。


 全長500mを超える巨大空中戦艦は5隻が爆散した。飛び去った槍の周囲に浮かんでいた空中戦艦は(ほとばし)った黒き雷に触れ、砕かれて大破し、浮かぶ力を失って落下した。


 黒き雷に触れ大破して撃沈した空中戦艦の数は7隻。飛び去った槍の周囲に居た巨大龍ジズやレギオンは、全て(かすみ)の様にあっけなく消滅した。


 血染めの少年である漆黒の龍が何の苦も無く放った槍の一撃だけで新生軍の艦隊は絶大な被害を受け、戦線は崩壊寸前となった。


 無論黒き龍に取ってこの程度の事は、本気でも何でも無く、児戯(じぎ)に等しい事だった。


 通り過ぎた黒き雷の槍は軸線上とその周囲に在った全てを破壊した後、遥か遠方の弧を描いた地平に激突した。



 “ズゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオォ!!”



 激突した地平は超巨大な火球が生じ、夕闇の為に暗くなった空を明るくした。


 照らし出されたその空は不思議な格子状の紋様が広がっており、一見空全体が超巨大なガラスドームの様にも見受けられた。


 だが、この面妖な空には途切れる事が無く、何処までも彼方に格子状の紋様が映る空が広がっている。


 超巨大な火球が薄暗い夕闇を照らし出して明らかにしたのは、不可思議な空だけでは無い。


 明るく照らした夕闇の中に映し出されたのは超巨大な柱の存在だ。


 その柱は大地と天を結ぶ恐ろしく高い柱で、柱は巨大な山と山が向かい合った様な形状をしていた。


 地にも山、天にも山、その頂き同士が繋がっている様な形状だ。柱の表面は半透明の大きな結晶体で覆われている。


 黒き龍の一撃で照らされた暗闇の中、その様な柱が長大な等間隔で建っている様子が照らし出された。


 まさしく柱によって天が支えられているかの様な不可思議な世界が、そこに垣間見られたのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います!


 追)今後の展開の為一部見直しました!

 追)一部単語見直しました!

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