79)ギナルの傀儡(かいらい)皇帝
ギムル皇国の玉座の間で、レナンと巨獣、いやゴリアテとの戦いを記録映像で見ていたゼペド達だったが……。
レナンの首に巻かれた赤い首輪を見て激高したゼペドは右手から光球を撃ち、大破壊を起こした。
ゼペドが放った光球はレナンが腐肉の龍を滅ぼした際に使った“アレ”……つまりゼペド達が語るヴリルという力だ。
ゼペドのヴリルにより玉座の間は大穴が空き遥か彼方まで直線状に大破壊の跡が刻まれる。
ヴリルが命中した遠方の畑は、非常に広大だったが巨大な火球が形成された後、豪炎が立ち上っていた。そこには……とんでもない大破壊が一瞬で形成された。
ゼペドが起こした大破壊に気づいた為か、玉座の間に慌ただしく入って来た者達が居た。皇帝ユリオネスと近衛兵達だった。
「わ、我が神!? な、何事ですか!?」
ユリオネスはでっぷりと肥えた腹を揺らしながら恐怖で顔を引き付けらせて叫ぶ。
この男は前皇帝がゼペド達に殺された際、皇家の血を引く者の中で小物故に御しやすいという理由で、皇帝にゼペド達から選ばれただけの無能かつ小物だった。
その顔は小物らしいチョビ髭を生やし、卑屈な目をしている。現れたユリオネスを見たゼペドは……。
“キュン!”
“ググゥ!”
ユリオネスの顔が気に入らなかったのか、一瞬で彼の元に移動しその顔を掴んで持ち上げる。
「グヒィ! わわわ、我がきゃ、きゃみ……な、何卒……お慈悲を!」
「家畜如きが……醜い姿を……我が目に晒すな……」
ゼペドは泣き喚いて慈悲を乞うユリオネスに気分を害し殺そうと吊し上げるが、横に居た近衛兵が必死に制止する。
「白き神よ! 何卒、ユリオネス様をお助け下さい!」
「どうか、どうかお許しを!」
ユリオネスと違い、近衛兵は精悍な顔つきと真っ直ぐな瞳を持っていた。優秀な兵達なのだろう。
そんな近衛兵の背後から、小馬鹿にした様な声が響く。
「……ふーん? なら、君達が代わりに死になよ?」
“ズキュ!! ザシュ!”
近衛兵の背後から現れたアニグが片方の近衛兵の胸を左手で貫き、もう一人の近衛兵は右の手刀で首を刎ねた。
「あ…あぐぅ……」
“ズルゥ! ドサ!”
アニグに殺された近衛兵達は周囲に血を撒き散らせながら力無く崩れ落ちた。アニグはニコニコ笑いながら、ゼペドに話す。
「……ゼペド、此処は彼らの忠臣に免じてその豚、許してやんなよ? その豚に彼らが命を懸ける価値が有ったかは知んないけど。
その豚の兄弟だったっけ……、前代の皇帝を君が殺しちゃった際に、代わりの傀儡としてその豚……用意したの僕だし。もう一回探すのは面倒だ」
「……命拾いしたな……醜い家畜め……」
“ヒュン!”
“ドガァ!”
「うぎゃ! うぐぅ あ、あ有難き……幸せ……」
アニグの言葉を受け、ゼペドは皇帝ユリオネスを放り捨てた。壁にぶつかり痛みを堪えながら礼を言うユリオネスに対し、アニグは笑いながら話す。
「……良かったね。殺されなくて……。そんな君にお願いが有るんだけど?」
「は、はあいいぃ! 我が神、何なりと!」
アニグに対し涙を流しながらら礼を言うユリオネス。対してアニグは冷たい笑みを浮かべながら彼に命ずる。
「……なら……そこに転がってる大量のゴミ……片づけといてよ……臭くて堪らないんだ。言っとくけど、君一人でやれよ? 何たって皇帝なんだ。ゴミの片づけ位一人で出来る所を国民に示すんだ……出来るよね?」
アニグは冷たい笑みを浮かべ、皇帝のユリオネスに玉座の間に転がる沢山の死体の片づけを命じた。その中には先程アニグが殺したばかりの近衛兵の死体も含まれていた。
命じられた皇帝ユリオネスは……。
「……し、しかし……わ、私は皇帝……そ、その様な……ざ、雑務は……」
「え? まさか僕に逆らうの? 神たる僕に? お前も……ゴミになる?」
「!! も、申し訳有りません!! よ、喜んでさせて頂きます! わ、我が神よ!」
アニグに凄まれた皇帝ユリオネスは、恐怖で引きつった顔で叫び許しを乞うた。そして皇帝は、アニグに命じられた通り、玉座の間に転がる死体を片付け始めた。
その様子を尻目にゼペドとアニグはダイニングテーブルの前で巨獣……いや、ゴリアテを倒したレナンについて協議していた。
「……この旧体制派の残党……画像が荒いから、断言出来ないけど……まだ若いんじゃない? そうだとしたら、多分だけど……幼い頃に、此処“箱庭”に落ち延び……そのまま下等動物達に飼われているんだと思う」
「お、おのれ! 家畜の分際で! 誇り高きヴリトを汚すなど!! もはや我慢ならぬ、今よりロデリアに攻め入り! この残党ごと、灰燼にしてくれる!!」
アニグの予想したレナンの境遇を聞いて、ゼペドは激高しながら立ち上がった。
今すぐにでもレナン達が居るロデリア王国に攻め込む気なのだろう。そんなゼぺドにアニグは溜息を付いて制止する。
「ちょっと待ちなよ、ゼぺド……、ベルゥ様からそんな指示は受けて無いだろ? 僕らの最優先事項は“鍵”を探す事。その他は二の次だ。ロデリアを滅ぼすには準備が居る。先ずはベルゥ様が居る墓所に申請して攻撃許可を得ないと……」
「ちぃ! 面倒だが、仕方ない! レギオンとゴリアテを増産しつつ、早急に墓所への指示を仰ぐぞ! “鍵”を探す為とでも言えば、墓所も納得する筈……」
「残念だが……それは無理だな」
アニグの言葉を受けゼぺドが苛立ちながら同意しようとした際、玉座の間の入口より声が響いた。
ゼペド達が声のした方を振り返ると、頭が切れそうな切れ目の男が立っていた。振り返ってその男を見たゼペドは問い返す。
「……どう言う意味だ、メラフ?」
ゼペドにメラフと言われたその男もゼペド達と同じく銀髪に白い肌、そして茜色の瞳を持っていた。
彼は不思議な形状のスーツを着ており、ギナルの民が来ている様な服装とは材質もデザインも異なっていた。そのメラフがゼペドに答える。
「……俺が“エゼケル”から墓所に連絡を入れている間に……、随分と燥いでいた様だな? しかし……お前達、もはや旧体制派の残党狩りや家畜共を弄り殺す間など無いぞ?」
メラフは破壊された城下町や、玉座の間に転がる沢山の死体を見て下らなそうに呟いた。
彼の中では家畜と罵るギナルの人間が幾ら死のうが全く問題は無かったが、自分が仕事をしている時に遊んでいたゼペド達に苛立ちを覚えた様だ。そんなゼペドにアニグが問い掛ける。
「どういう事……? メラフ……」
メラフの言葉にアニグが問い掛ける。対してメラフは溜息を付きながら静かに答えた。
「……貴様達が、家畜共で遊んでる間に俺は墓所を通じてベルゥ様より直接、命を受けた。
いいか……お前達……俺達はこの“箱庭”であるアストアの地より離れ……本国リネトアに戻らねば為らなくなった。それも今すぐに……」
「! それは一体どういう事!?」
メラフの言葉にアニグが驚愕して聞き返す。対してゼペドは静かに呟いた。
「……まさか、リネトア本国で……何か有ったのか?」
ゼペドの呟きにメラフは頷き、青い顔をしながら無表情で絞り出す様に返答した。
「……ああ、残念な事にな……。“血染め”だ……。ずっと拠点に籠り沈黙していた“血染め”が突如反攻に出て、我が軍は総崩れになった。配置されていた艦隊は奴一人の力によって壊滅した……」
「「…………」」
メラフは暗い瞳をしながら呟くのであった……
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)サブタイトルにミスが有ったので見直しました!
追)名称の記入ミスの為見直しします!