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76)黒騎士の覚悟

 ソーニャの後悔を聞いたマリアベルは、彼女を安心させる為、離れて作業していたレナンを呼んだ。呼ばれたレナンはマリアベル達に問い掛ける。


 「皆、勢揃(せいぞろ)いでどうかした? ……アレ、ソーニャ泣いてるの!? もしかしてマリアベルに怒られたのか?」


 「いや、それは違うぞ……。それよりお前に聞きたい事が有るんだが……。お前は私に首輪を付けられ王都に無理やり連れて来られた。お前の大切な婚約者と別れさせてまでしてな……。さぞ、私や……陛下に恨みが有るだろう?」


 「……どうして急に……って、そうか……それでソーニャが……」


 突然核心を付いた質問をしたマリアベルにレナンは不思議に思ったが、目を赤くしたソーニャを見て、何となく彼女の気持ちを察した。


 そして妹の不安を取り除こうと自分にマリアベルが質問した事も、聡明なレナンは理解した。



 ――だからこそ……レナンはマリアベルに真摯に自らの本心を伝えたのであった。



 「……まぁ、最初は憎かったし、悲しかったけど……。アルフレド殿下や、君の忙しく動く耳を見てたらね……ちょっとは気が紛れるというか……何と言うか……。

 君達が僕との約束を守ってティアとアルテリアの皆を助けるのならば、僕も誓いを守ってこのロデリア王国の為に尽力する。何よりロデリア王国を守る事はアルテリアの皆を守る事と同じ事だ」


 レナンの返答を聞いたマリアベルは笑いながらソーニャの肩を叩き(ささや)いた。


 「……そう言う事だ、ソーニャ……。白き勇者殿は、とんでもない怪物だが……同時に中身は清い少年のままだ。ソーニャ……お前と同じ様にな。故に何も心配は要らん」


 「……何か……暗に馬鹿にされている様な気がするけど……? 僕は向こうで積み込み手伝って来るから戻るね」


 「ああ、スマンな。撤収作業手伝ってくれて助かる」


 マリアベルがソーニャを励ましている中、レナンは自分が子ども扱いされた気がしてジト目でマリアベルに文句を言いながら、討伐隊撤収作業の手伝いに戻った。


 マリアベルはそんなレナンを労いながら見送った。



 レナンとマリアベルのやり取りを見ながらもソーニャはまだ暗い顏をしたままで呟く。


 「……励まして下さって有難う御座います、マリアベルお姉さま。確かに今のレナンお兄様の御心ならば……何ら問題は無いでしょう。

 ……ですが……人の心は移ろい易く……変わるモノです……。あのティアの様に……」


 ソーニャがそう呟くには理由が有った。ソーニャ自身、ティアを(そそのか)してレナンとティアの婚約破棄させたのだ。


 ティアだけでは無くソーニャは数多くの人間達を謀略により操って来た。


 その全てが他でも無くマリアベルの為だった。そんなソーニャだからこそ分っていた。人の心はその時の気分や状況によって簡単に変わる事を。


 その為、今はマリアベルに心を許すレナンが何かの切っ掛けで心変わりし、牙を向ける事も十分考えられた。



 そして、その時……誰一人としてレナンを止める事が出来ないのだ。



 その事実に愚かにも今頃気付いたソーニャは、自分が何より大切に想っているマリアベルに対し、自らの手で危機に(さら)した事に気が付いてしまった。




 マリアベルの慰めにも関わらず、更に落ち込むソーニャ。


 ソーニャに取って唯一無二の家族であるマリアベルを失う事は堪えがたい事で、その危機を招いた事に小さい子供の様に取り乱した。




 対してマリアベルはそんなソーニャを慰める為にも、以前から考えていた“有る事”を決意しながら、傍らに居たルディナに問うた。


 「……ルディナ……お前は私に忠告してくれたな……? “女は男を手玉に取れる程に余裕を持つべきと……。そして女は男を包み込む存在で在るべき”とな。私はお前に言われた後、実はその事をずっと考えていたんだ」


 「……出過ぎた真似を致しました……」


 マリアベルの言葉にルディナは微笑んで頭を下げた。


 「いや……(むし)ろ礼を言いたい。お前のお蔭で私は改めて覚悟を決めた。そして……私の覚悟でソーニャの不安も取り除けそうだ」


 「え? お姉さま……、それは一体どういう意味……ですか……?」


 マリアベルの唐突な言葉にソーニャは意味が分からず問い直した。この話の流れで、自分の事が出てくる事が不自然だった為だ。


 対してマリアベルは突然、兜を脱ぎ始めた。驚いたオリビアやソーニャ達は驚いて制止する。


 「! マリアベル様、一体何を!?」

 「お、お姉さま! 今は人目が!」


 ソーニャ達の制止を無視して、兜を脱ぎだすマリアベル。オリビアやソーニャ以外のベリンダやレニータ達も驚愕した顔を浮かべる。


 だが何故かルディナだけはマリアベルの真意が分かっている様で微笑んでいた。


 兜を脱いだマリアベルは相変わらず美しいチェリーレッドの髪をかき上げ、整ったその顔に悪戯っぽい顔を浮かべながらソーニャに話す。


 「……ソーニャ……お前は私に言ったな……“人の心は移ろい易い”と……。確かに私もそう思う」


 「は、はい……で、ですが……その事と、マリアベルお姉さまがお顔をお見せした事」と……どう、繋がるのですか?」


 「……まぁ、見ていてくれ」


 マリアベルはそう呟いて、レナンの下に歩き出した。マリアベルは今からレナンに“行う事”を考えると不安と期待で足が震えてしまう。


 彼女は歩きながらレナンを大声で呼ぶ。


 「レナン! 話がある!」


 「え? ま、また…… うん? あ! ちょ、ちょっと! マリアベル! か、兜!?」


 マリアベルに呼ばれたレナンは“またか”とばかり不満を口に彼女を見て、驚愕した。


 あろうことか兜を外し、秘密な筈の素顔を(あら)わにしているのだ。



 レナンが大きな声を出した為、一緒に作業していた討伐隊達が、普段絶対見せた事が無い黒騎士マリアベルの素顔を見て驚いた声を上げる。


 「お、おい! 見てみろよ!? 黒騎士が顔を見せてるぜ! 女だったのか!?」


 「ああ、それも無茶苦茶いい女じゃねぇか!」


 「だけど……あの耳……変わった耳ね? 黒騎士殿は亜人族だったの?」


 「王国の英雄たる黒騎士殿が、亜人で女だったって事か! こいつは驚きだ……」



 マリアベルの素顔を見た討伐隊達は驚いた声を上げる。その様子にレナンは慌てて彼女の下に駆け寄り小声で問い詰める。


 「ど、どういう心算、 マリアベル? 素顔は秘密じゃ無かったのか!?」


 「ああ、今まではな……。だが、もう隠す必要も無いかと思ったんだ。敢えて見せて回る心算もないが」


 驚いて詰め寄るレナンを見ながらマリアベルは笑いながら答える。そして突然、レナンを抱き締めた。


 「!? い、いきなり……何?」


 「フフフ……お前に逃げられると困るのでな……。ソーニャ! お前の言う通り、人の心は移ろい変わる! 確かに私もその一人だった様だ! だがな! だからこそ、手に入れた想いもある!」


 マリアベルはレナンを抱き締めながら、後ろのソーニャの方を向いて叫んだ。対するソーニャはマリアベルの真意が分からず呟く。


 「……お姉さま……一体何を……」


 ソーニャに抱き締められているレナンも意味が分からず問い返す。


 「……マリアベル……どういう……」


 レナンはそこまで言い掛けてマリアベルの瞳を見て言葉を失った。


 いつもなら自信に満ち溢れた青い瞳は不安と熱情の為か、揺れて濡れている。よく見れば肩も震え、彼女がとても小さく見えてしまったのだ。


 そんな余裕の無いマリアベルの様子に驚いて固まるが、その彼女から問われる。


 「……レナン……お前の心には……今だ故郷のティアが居るのだろう……?」


 「そ、それは……そうだ……。僕はずっとティアと一緒に居たんだ。忘れる事なんて出来ないよ」


 「……そうか……そうだろうな……。お前とクマリとの戦いの際に、お前はティアの名を出されて激高しただろう? あの時……私はな……、とても……悔しかったのだ……。

 お前の心の中に彼女が居る事が。だが、私はもう負けん。私は彼女にお前を渡す気等無い……お前の心に居るティアを、この私が……私の全てを使って……追い出してやる……!」


 マリアベルはそう言い切った後、突然レナンの唇を奪ったのだった……。



一部直しました。

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