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74)巨獣討伐-20(巨獣の最後)

 巨獣の手を風魔法で弾いたクマリに対してマリアベルは礼を言う。


 「助かったぞ! クマリ!」

 「……さっきのアイツに対する仕返しだよ! でもマリちゃんには貸し一つだね!」


 「ふん! 礼は言ったがお前には散々“挨拶”されて来た貸しが有る。故に私に力を貸せ!」

 「もー、強引だなー、マリちゃんは。でもマリちゃんの頼みなら仕方ないね!」


 マリアベルはクマリに言い放った後、大剣に赤黒い光を(まと)わせたまま巨獣に向かい駆け出す。膝を付いた巨獣に追撃を与える為だろう。


 クマリは溜息を付きながらマリアベルに追従する。彼女はマリアベルとレナンの事なら幾らでも尽力する心算だった。


 巨獣に追撃を与えんと迫るマリアベルとクマリ。


 そんな二人にソーニャ達白騎士も続いた。討伐隊に対する巨獣への攻撃は激しさを増し、四方八方から斬撃や魔法等が巨獣にぶつけられる。


 「グモオオオオ!!」


 巨獣は痛みを感じる為か、叫び声を上げて膝を付いた姿勢から、そのまま頭を地に付ける様に蹲った。


 そして巨体をブルブルと震わせると同時に、巨獣の体の至る所に付いているカエルの卵の様な半透明の器官が怪しげな光を放ち出す。



 ―-極めて危険な兆候だ。



 其れを感じたマリアベルが討伐隊達に向けて後退指示を出した。


 「皆! さっきの光が放たれるぞ! 奴から距離を取れ!」


 マリアベルは叫ぶが巨大な巨獣を取囲んで攻撃している討伐隊全員には、その声は届かず半透明な器官から破壊光線が放たれ様としている事に気付かないで、多くの者が半透明な器官の軸線上に居る。


 「ま、拙い! このままでは……」


 「やらせない! “光よ! 集いて敵を貫け! 穿光!!”」


 巨獣の上方に攻撃を仕掛け続けていたレナンが、巨獣から放たれようとしている全方位攻撃に気が付いて街道横の木の枝に降り立ち、大声で叫んだ。


 彼の異形の右腕は、レナンの叫びと共に手の甲の宝石の様な器官が眩ゆく輝く。


 すると、巨獣の半透明の器官を重ねる様に光の輪が現れた。


 次いで光の輪は収束し光の球となり、光の矢を形成し半透明の器官に対し刹那に放たれる。


 ”キュドド!!” 


 “ドガガアアン!!”


 「ゴギャアアア!!」


 レナンが放った矢で貫かれた半透明の器官はエネルギーを収束していた為か、一斉に小さな爆発を生じる。


 光の矢で貫かれた事と半透明の器官の爆発により、大きなダメージを受けた巨獣は苦しみの為か大きな叫び声を上げながら、(うずくま)っていた上半身を起こした。


 “ズズズズズ!”



 半身を起こした巨獣は、マリアベルの鬼刃裂破斬により生じた深い傷の為か、立ち上がる事が出来ない。


 そして至る所に付いていた半透明の器官は、全て内部から爆散した様な孔が空いており、再生にもかなり時間が掛かりそうだ。


 その為か巨獣は身を起こしたまま、静止している。


 「レナン! 良くやってくれた!! 後は我々が……」


 「まだだ、マリアベル! 奴には虫が居る!」


 レナンに助けられたマリアベルは、礼を言い追撃しようとした所で、レナンに制止された。


 彼は巨獣から距離を取り、街道横の木の上に居る。



 レナンの言葉を裏付けするかのように、半身を起こしたままじっとしていた巨獣に突如何かが外れる様な音が響き渡った。


 “バキン! ビキン! ビキイ!”


 そして次いで巨獣の背中に生えている無数の棘が(うごめ)きだした。


 「くそ! 奴め! 虫を放つ気か!?」

 「大丈夫、やらせない!!」


 焦ったマリアベルに対して、レナンは最初から巨獣の攻撃を予想していた様で、既に迎撃する準備が出来ていた。レナンは異形の右手を高く上げて叫んだ。


 「光の蔦よ! 彼の敵を全て貫き、躯と成せ!!」


 彼の叫びと共に、手の甲に有る宝石状の器官が眩しく輝き、高く上げた右手から光が長く伸びた。


 そして刹那に立ち上った光から帯状の光が分散し弧を描きながら巨獣の背中に一斉に突き刺さる。


 “キュボボボ!!”


 「ゴハァアアア!!」


 光の帯から放たれた無数の光の針が巨獣の背中に潜む棘の魔獣を皆殺しにする。攻撃を受けた巨獣は身を捩って絶叫を上げた。


 そして巨獣は叫んだ後、木の上で立っているレナンを睨んだ。


 レナンに半透明の器官を破壊され、背中の棘の魔獣を殺された彼の巨獣は、足元に散らばる討伐隊など気にも掛けず、レナン一人を睨んでいる。



 巨獣が敵として認識しているのは、この戦いではレナン一人の様だ。



 巨獣はマリアベルから受けた足の傷が、まだ再生出来ていない様で歩き出す事は出来ないみたいだが木の上に立つレナンの方に体を向け、次いで大きな口を開けた。


 “グバアァ!” 


 “ヒイイイン!”


 大きな口を開けた巨獣は口内に光を集め出す。


 ―-レナンに向け強力な光線を放つ気だ。


 刹那、巨獣の口内は眩く輝きレナンに向けて恐るべき光線が発射された。


 “キュボ!!”


 “ジュイイイン!!”


 レナンは破壊光線が発射される直前に飛び上がって地上に舞い降りた。巨獣が放った光線はレナンが立っていた木に命中し、一瞬でそれを蒸発させる。


 放たれた光線は軸線上にあらゆる物を焼き尽くし、赤黒い焼け焦げた線上の軌跡を街道横の森に刻んだ。


 巨獣の光線を難なく躱したレナンは巨獣との距離を少し取った街道の端に降り立っていた。



 巨獣はレナンが光線を躱した事を認識すると、街道の横に立っているレナンの方に向き直り、又も大きな口を開ける。


 レナンによって悉く攻撃手段を破壊された巨獣には口からの破壊光線しか、離れた位置にいるレナンを攻撃出来なかった為だ。



 そして其れこそがレナンの作戦の一つだった。



 レナンは巨獣が自分に対して光線を放とうとしている事を確認すると、マリアベルに指示を出す。


 彼の右腕は何かの技を出す為か、激しく光っている。


 「マリアベル!! 巨獣に向かって攻撃を仕掛け、一瞬、時間を稼いで! そして僕が合図したら皆、巨獣から離れてくれ!!」


 レナンの声を聞いたマリアベル討伐隊全員に向け指示を出す。


 「分った! お前達! 巨獣に対し総攻撃を掛けろ! また、白き勇者の掛け声と共に巨獣から距離を取れ!」


 「「「「了解!!」」」」


 指示を受けた討伐隊隊達は、再度攻撃を仕掛ける。巨獣には全方位に放つ光線や、棘の魔獣はもはや失われた。


 その事を目の当たりにした討伐隊の面々は今迄の鬱憤(うっぷん)を晴らすかの様に、烈火の如く攻撃を仕掛けた。


 「死ねぇ! 鬼刃裂破斬」


 「星巡る風よ 我が前に集いて大剣となり 敵を討ち滅ぼせ!” 烈風斬!!」


 マリアベルも必殺技である鬼刃裂破斬を放ち、近くに居るクマリも上級風魔法を放つ。そしてソーニャやオリビア達白騎士隊達も剣や魔法で巨獣に攻撃を掛ける。


 “ドガアアア!! ゴヒュン!! ガギン!! バガアアアン!!”


 討伐隊の総攻撃を受けた巨獣は、余りに激しい攻撃に頭を大きく上げて叫ぶ。


 「グギョオオオオオ!!!」


 巨獣は今迄聞いた事が無いような大きな苦悶の声を上げ、天を仰ぐ。


 レナンに向け光線を放つ何処ろでは無い、自らの再生能力を上回る総攻撃を受けているのだ。



 自らの前で天を仰いだ巨獣を見つめ、レナンは静かに呟く。



 「……出来た……歪な怪物よ、お前はアルテリアに害なす存在だ。悪いけど……死ぬがいい……」


 レナンは感情を込めず小さく呟くと右手を上げた。


 

 その右手は白く輝き、5本の指から長い光の爪が生えている。クマリの銀爪の様で、その実態はまるで違う恐るべきモノだった。


 

 レナンは討伐隊達に向け叫ぶ。


 「皆!! 今すぐ巨獣から離れて!! 光の刃よ! 我が敵の魂まで断絶せよ!!」


 レナンはそう叫び、長い光を生やした異形の右手を素早く振り降ろした。


 すると、その右手から音よりも早く5本の光の刃が放たれる。


 “キュキュン!!”


 恐るべき速さで放たれた光の刃は放たれた瞬間から長く伸びて大きな刃と化す。



 そしてその刃は巨獣をあっさりと貫通した。


 

 レナンは街道横から光の刃を放った為か巨獣を貫いた後、光の刃はその勢いを保ったまま、街道を横切りその背後の森を切り裂く。


 “ギュギュン!!”


 光の刃は全てを切り裂きながら最後は、遥か後方の山に激突して霧散する。


 光の刃は霧散したが、激突した山は音を立てて崩れ出してしまったのだった……。




一部見直しました。

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