73)巨獣討伐-19(総力戦)
「行くぞ! 恐れず切り崩せ!!」
巨獣の前に立ち、大剣を掲げてマリアベルは号令を出す。そんな彼女に従い討伐隊の面々は先程と同じ様に剣や魔法で巨獣を攻撃した。
“ザギン! ガギン!” “ビシュ!”
“ビガガアン! バガアアァ!”
「ゴウアアアアア!!」
剣の斬撃、矢や魔法は悉く巨獣に命中し、彼の巨獣は叫び声を上げる。
しかし巨獣には痛撃を与えられず、攻撃によって与えられた傷もあっという間に修復された。
それでも巨獣は苛立ちを感じた様で、攻撃を仕掛けたマリアベル達討伐隊の方に向き直る。
そして目が八つある頭部を彼らに向け巨大な口を大きく開ける。
“ガパン!”
大きく開けた口の中には鋭い牙が生え揃っているが、巨獣はその口内の奥から真白い光を放ち出した。
“ヒイイイイン!!”
その様子に嫌な予感がしたマリアベルは討伐隊の面々に向かって叫ぶ。
「皆! 巨獣の攻撃が来るぞ! 後方に下がって……」
マリアベルが慌てて指示を出している最中に、巨獣の口から発する眩く輝く光は、一際輝いたかと思うと真白い光線をマリアベル達に向かって撃ち放つ。
“キュド!!”
巨獣の咢から放たれた光線は太く、背中の半透明の器官から放たれた光線よりも強く輝いていた。
恐らくはその威力も比較にならないのだろう。
放たれた光線に対しマリアベル達討伐隊は逃げる事も敵わない。放たれた強力な光線は刹那にマリアベル達に迫り、彼らは成す術も無く焼かれるのみかと思われたが……。
“キイイイン!!”
レナンがマリアベル達討伐隊の前に躍り出て白く輝く異形の右手を光線に向けて差出して、これを弾き返した。
異形の右手による特異な能力で巨獣の光線は霧散し、レナンの前方に飛び散る。
四方八方に飛び散った光線はその軸線上に在ったモノを焼き焦がして、真っ赤な焼け跡を刻む。
放たれた光線を前に、顔を覆って蹲るしか動きが取れなかった討伐隊の面々は、恐る恐る顔を上げると、自分を焼く筈だった光線がレナンにより防がれた事を知った。
彼らは白き勇者レナンに歓声を上げる。
「「「「ウオオオオオ!!」」」」
レナンはそんな彼らに答えず、隊長であるマリアベルに指示を出す。
「マリアベル! 奴に近付いてはダメだ! 奴にはどんな攻撃も効かず、あっという間に再生する!」
レナンの言葉にマリアベルが反論する。
「我等は! お前一人で戦わせない!」
マリアベルの心根を知っているレナンは、内心歯噛みしながら彼女に言い返す。
「ならば! 君達は分散して攻撃をしてくれ! 奴が攻撃するタイミングで、僕は奴の出鼻を挫く!」
レナンとしてはマリアベル達に撤退して、自分一人で戦わせて貰いたかった。
しかし、其れを良しとしないマリアベルの心情も分っていたので、“撤退”という言葉は発しなかった。
代わりに巨獣がマリアベル達を殲滅する様な攻撃をする前に自分が未然に防ごうと考えたのだ。
「心得た! お前達、分散して巨獣を取囲み攻撃を行なうぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
マリアベルの指示を受け、討伐隊の面々は巨獣の左右に取囲む為に散らばった。
その様子を見ていたレナンは小さく呟く。
「……巨獣は鈍重だけど……不特定多数の敵に対し攻撃する技を持っている……。だからこのままでは、彼等は虫に狩られるか、背中の目玉の光で焼かれるだけだ……。そうさせない為には……、奴にその隙を与えなければ良い!」
レナンは的確に状況整理を行い、巨獣に向かって飛び掛かった。レナンが巨獣に隙を与えなければ、マリアベル達を巨獣が攻撃する事は無いと考えたからだ。
“ダッ!!”
“ザギン!”
「ゴウエエエエエイィ!!」
レナンは地上からの攻撃はマリアベル達討伐隊に任せて、自分は巨獣の体に飛び乗って上段の攻撃を行った。
主に顔面に切り掛かり、巨獣の眼や頭部に深い傷を負わせて怯ませた。
しかし巨獣はレナンが如何に攻撃しても、ズブズブと傷をあっと言う間に修復させる。
恐らく足元の討伐隊達も傷を幾ら与えようがこの巨獣には無駄だろう。レナンは巨獣に休みなく攻撃を与えながら、脳内で状況整理を行っていた。
(……やはり……奴を倒すのは……“アレ”しかないのか……だけど……あの技は使う訳には……いかない。光の矢や蔦は効果無かったし……それより……上級魔法を重ね掛けしようか?
……そう言えばクマリさんがさっき使った上級風魔法……あの技を真似すれば……。やってみるか……。戦いながらイメージを構築して……技を創造しよう)
レナンは戦いながら、同時に巨獣を滅ぼす技の構築を始めたのであった。
◇ ◇ ◇
「天の光降立ち 閃光となりて 敵を打ち砕け 雷衝!!」
“ビカカカァ!!”
巨獣の足元に居るソーニャは中級雷撃魔法を巨獣に浴びせた。
「ハァァァ!」
「いくぞ!」
“ザギン! ザザン!”
次いで近くに居た白騎士のべリンダとレニータが巨獣の足に切り掛かる。オリビアやナタリーも剣や魔法で巨獣に攻撃している。
巨獣には彼女達の攻撃に依って焼け焦げた傷や深い切り傷が生じたが、すぐさま傷口が泡立つ様に蠢きながら修復される。
“ズズズズ!”
「クッ! こ、このままでは!」
焦るソーニャの前にマリアベルが両手で大剣を掲げ、剣自体に十分に時間を掛けて力を送り、赤黒い光を纏わせた。
その様子を見たソーニャ達白騎士は一斉にマリアベルから距離を取り離れた。マリアベルが放つ必殺技“鬼刃裂破斬”の妨げにならない為に距離を取ったのだ。
マリアベルは白騎士達の動きを見て頷きながら叫ぶ。
「喰らえ! 鬼刃裂破斬!!」
マリアベルはそう叫んで赤黒く光る剣を振り降ろした。
“ガガガガガガン!!”
マリアベルが大剣を振り降ろすと赤黒い光がほとばしり、剣の軸線上の大地を切り崩しながら巨獣の太く短い足に命中した。
“ドガガガア!!”
「ゴギャアアアア!!」
“ズズン!!”
マリアベルの必殺技である鬼刃裂破斬により巨獣の足は深く大きな傷が生じ、彼の怪物は絶叫を上げて膝を付いた。
その様子を見たマリアベルは叫んで討伐隊の面々に追撃を促す。
「今だ! 一斉に攻撃しろ!」
「「「応!!」」」
マリアベルの声で白騎士を始めとする討伐隊の面々は巨獣への攻撃を増す。
叫んだマリアベル自身も赤黒い光を纏って鬼化したまま、巨獣に追撃しようと単独で突進したが、巨大な腕が彼女を掴まんと振り降ろされる。
マリアベルが気付いた時は、巨大な腕は回避出来ない距離まで近づいており、避けられないか、と思ったが……。
その時、叫び声が響いた。
「マリちゃん! 危ない!」
そんなクマリの叫び声と共に放たれた魔法は、マリアベルを掴まんとしていた腕に命中した。
“バシュン!”
「グオオオオ!!」
クマリの放った魔法はマリアベルに迫った巨獣の腕に命中し、その手を弾いた。巨獣は怒りにより大きな声で叫んだのだった。
一部直しました。