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71)巨獣討伐‐17(クマリとの戦い②)

 クマリより放たれた中級風魔法。レナンは彼女に背を向け歩き出しており、完全に死角からの攻撃だった。


 “ボヒュウウ!!”


 レナンの背に向けて放たれた中級風魔法に驚いたのは、近くで見ていたマリアベルやソーニャ達だ。


 「!! ひ、卑怯だぞ! クマリ!」

 「レ、レナンお兄様! 危ない!」



 叫ぶマリアベル達に対し、レナンはクマリの奇襲が初めから分かっていた様で、彼は慌てる事無く冷静に対応した。


 レナンは迫る中級風魔法に対し、すぐさま振り返り既に光り始めた右手を差し出し……呟く。


 「……風破斬」


 異形の腕に輝く宝石状の器官は、どういう理屈か彼がイメージした通りの魔法現象を生み出す。



 新たな魔法の創造や、詠唱破棄による魔法発動等を。レナンはその力でクマリと同じ中級風魔法を詠唱破棄して発動した。


 クマリが放った魔法とレナンが放った魔法はぶつかり合い大きな音を立てて相殺される。


 “バシュウウウ!!”


 その反動でぶつかり合った地点を中心に衝撃波が生じた。


 「うわああ!!」

 「きゃあ!」



 その衝撃にレナンとクマリの戦いを見ていた者達は姿勢を崩し座り込んだ。


 ちなみに巨獣はレナンの光魔法に内部から串刺しにされてから、仰向けに倒れたままピクリとも動かず、完全に絶命している様だ。



 レナンとクマリが放った中級魔法同士の相殺により生じた衝撃波で土煙が立ち込め視界が悪くなった。


 「今だよ!!」


 その刹那(せつな)クマリは次手に出た。彼女はレナンが魔法に何らかの対処を取ると最初から予想しており、(あらかじ)め次手を用意していた。


 レナンが魔法を対処した瞬間に躍り出て、潜ませていたナイフで彼を攻撃する心算だったのだ。


 いかなレナンでも、中級魔法を対処した後では絶対に隙が出来る――



 そう判断した電光石火の攻撃だった。


 「レナン君! 覚悟!」



 しかし……。


 

 立ち込める土煙に構わず叫びながら突進したクマリだったが……。


 対するレナンはクマリの予想を上回り、彼はニッコリと笑いながら右手の棘を構えて待ち構えていた。


 レナンもまた、クマリの二段攻撃を最初から読んでいたのだ。


 “キイン!”


 彼は右手の棘で難なくクマリのナイフを切断する。


 「そ、そんな! 馬鹿な!?」


 二段攻撃が読まれているとは予想しなかったクマリはあっさりと切断されたナイフを見て驚いた声を上げた。


 「……今度は僕の番です……」


 “ヒュン!!”


 “ガッ!”


 対してレナンはそんなクマリに構わず、電光の如く彼女の背後に廻り左手で首を打った。


 「う……」  


 クマリはレナンの打撃で意識を失い崩れ落ちる。


 こうして唐突(とうとつ)に始まった特級冒険者クマリとレナンとの戦いは、幕を閉じたのであった。




   ◇   ◇   ◇




 「……もはや我慢の限界です! この者は此処で縛り上げギルドに叩き付けましょう!」


 マリアベルやレナンに対する度重なる襲撃を受けてオリビアが憤慨しながらクマリに向け叫ぶ。


 ちなみにクマリは気絶したままで動かす、他の討伐隊の面々はレナンとクマリの戦いを傍観(ぼうかん)した後、レナン達を取り囲んでいる様子だった。



 オリビアの憤慨(ふんがい)にマリアベルが兜の下で苦笑しながらレナンに問い掛ける。


 「……と、オリビア嬢はご立腹だが、お前はどう思う?」


 「別に……。僕の家族や故郷に手を出す様なら本気で叩き潰すけど……。僕に対しては何の被害も受けてないから僕は放免しても良いかな」


 レナンは別に気にしていない様で、軽く答えた。


 レナンにとっては故郷のアルテリアの皆に被害が及ばない限り本気で如何でも良かったのだ。


 マリアベルはそんなレナンの様子を黙って見ながら、気絶して倒れているクマリを仰向けに寝かせる。



 彼女は仮面を(かぶ)っておりその素顔は見えない。



 マリアベルは、とある事を思い付き冗談めかした口調でレナンに話す。


 「私は散々コイツに嫌がらせを受けて来たからな……私にはコイツに仕返しする資格が有るだろう……。おい、オリビア……コイツの周りから人払いしてくれ」


 「はい、マリアベル様」


 オリビアは周囲に人が居る為、敢えてマリアベルの事を姫殿下と呼ばず、名前を呼んで答えた。


 そうしてオリビアはクマリの姿が見られない様に彼女の周囲から野次馬達を遠ざけた。その様子を見届けたマリアベルは、クマリの仮面をそっと外す。



 そして……その素顔を見たマリアベル達は……。



 「……正直……驚いた……小賢しい猿の様な小男か……もしくは年老いた女かと予想していたが……可愛らしい少女とは……」


 「そのセリフ……マリアベル、君が言う?」


 マリアベルはクマリが赤い髪をオカッパにした可愛らしい少女である事に驚き思わず呟く。


 対してレナンは自分がマリアベルの鎧姿に(だま)された事を彼女に突っ込んだ。



 クマリの素顔を見て驚いたのはマリアベルだけでは無くソーニャ達白騎士達も同じで、口々に驚いた声を出す。


 「何とも……やりにくいな……。小汚い男であれば()巻きにして川に放り投げるのに……」


 「マリアベルお姉様。この耳、クマリは希少な長耳族ですね……。道理で魔法に長けている訳ですわ……」



 オリビアの困惑した声に続き、ソーニャの驚きの声を出す。対してマリアベルはソーニャに答える。


 「……何となく……予感は有った……。この背の低さに、敏捷性……そして魔法に長けたる点……それらが長耳族の特徴に合点すると。だからこそ人払いをさせた訳だが……、よもや少女だったとは読み切れ無かった……」


 「流石、お姉さま……そう言う事でしたの……。うん? この子、目を覚ましますわ」



 マリアベルの推理に、ソーニャが素直に感嘆する。次いでソーニャがクマリを見遣ると、彼女は今、正に目を覚まそうとしていた。


 「う、ううん……ハッ!? 私は一体……。そうか……私はレナン君に負けたのか……アレ……? 顏が涼しい……? !! か、仮面が!?」


 クマリは自分の仮面が外されている事に驚愕(きょうがく)し、地面に置かれていた仮面を素早く装着すると、後方に素早く後ずさりして叫ぶ。



 「お、お前達! わ、私の顔を見たな!?」


 「ああ、散々私はお前に“挨拶”されて来たからな……。仮面越しじゃ無く、お前の素顔に“挨拶”させて貰ったよ。お前自身の秘密も知ったし……もう、これで悪さは出来ないぞ?」


 慌てて叫ぶクマリに対し、マリアベルは淡々と答えた。対してクマリは悔しそうに叫ぶ。


 「く、くそー!! 私が気絶してる隙に顔を見るなんて! ひ、卑怯だぞ!?」

 「「「「どの口が言う?」」」」


 クマリの言葉にマリアベル達は一斉に口を揃えて突っ込んだ。クマリは倒れて動かない巨獣の腹に飛び上がった上で叫ぶ。


 「おのれー! マリちゃんもレナン君も! ジャガイモちゃん達も! み、皆! お、覚えとけよ!!」


 クマリは巨獣の腹に立ちながら、マリアベル達に悪態を付いた。


 しかし可愛い素顔を見た後だった為、マリアベルやソーニャ達は、小さい子がワガママを言っているだけの様に感じてしまい、緊迫感が全く無かった。


 「オカッパクマリちゃんが吠えてるぞ?」

 「まぁ、クマリちゃんですものね」

 「赤毛でオカッパ……クマリちゃん……可愛い過ぎる……」


 キャンキャン吠えるクマリに対し、マリアベルやソーニャ達は口々にクマリの素顔を思い出し、ほっこりしている。


 レナンは彼女達の中に入らず、後ろに下がって他の討伐隊達を労い、今後の方針について話し合っていた。


 対してクマリは自分を見てほっこりしたマリアベル達の様子に激怒し、益々吠えていたが、そんな時マリアベルが何かに気付いた。


 「クマリちゃん言うな!!」

 「!? ク、クマリ! そこから離れろ!」


 吠えているクマリに対し、異常に気が付いたマリアベルが叫ぶ。しかしクマリは怒りの為に気付かず、叫び続けるが……。


 「うるさい! こう見えても私の実年齢は……! うわ!?」


 クマリが巨獣の腹の上で飛び跳ねながら吠えていると、突如クマリは浮き上がった。


 何かに背中のローブを引張り上げられたのだ。


 驚いたクマリが後ろを振り返ると、巨獣の巨大な手がクマリのローブを掴んでいたのであった……。



一部直しました。

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