70)巨獣討伐‐16(クマリとの戦い①)
いつも読んで頂き有難う御座います!
お知らせですが、私の仕事の関係により7月より出張が多い立場となりまして、現在の(火、木、日)の週3日間投稿が困難になりますので、大変恐れ入りますが(水、日)の週2日投稿とさせて頂きます。
現状、これ以上は投稿間隔は変えない心算ですので、ご迷惑をお掛けしますが何卒よろしくお願いします。なお、同時連載している「隻眼」の方は今まで通りの投稿日とさせて頂きます。
以上、ご連絡申し上げます。今後とも何卒よろしくお願いします。
クマリによって強引に始められてしまったレナンとクマリの模擬戦。
もっともクマリの中では単なる模擬戦では無く、命のやり取りを掛けた死闘を行う心算だった。その為、彼女はレナンに向けて叫ぶ。
「レナン君! 徐々に上げていくからー! しっかり付いてきて!」
そう叫んだクマリは両手の銀爪による攻撃の手を更に早めていく。
“ギン! キン! ギキン!”
対してレナンはクマリの斬撃を余裕で受けながら彼女に言う。
「……皆を待たしています。だから僕も呑気に構える心算は有りません」
そう言いながらレナンも返す宝剣による斬撃の速度を上げていく。彼の体は強化魔法の重ね掛けにより白く輝いているが異形の右手は元に戻っていた。
“ギン! ギキン! ガキン!”
2人の剣戟は激しさを増し、とても周りから割って入る様な隙は無い。そんな二人の戦いを見てソーニャやオリビアが呟く。
「す、凄い……何て……切り返しの速さなの!?」
「ええ、ソーニャ様……。レナンは当然としても、あのクマリ……口惜しいが流石に特級冒険者だけの事は在って強い……!」
二人の呟きが聞こえた為か、クマリは銀爪で切り結びながらレナンに問う。
「ねぇ、レナン君! 君、そんなに強いのに、どうしてジャガイモちゃん達に従ってるの? どう考えたって、君はジャガイモちゃんどころか、マリちゃんや私より強い……それなのに、何でそんな首輪して……彼女達に、従属するの?」
「……理由は……大切な人と……故郷を守る為だけ……だったんだけど……」
「ふーん……よっと! こ、故郷ってアルテリアだったっけ……?」
「……そう」
クマリに問われたレナンはまるで思い出すかの様にポツポツと答えた。
剣戟に余裕の無いクマリに比べ、レナンは機械の様に淡々と切り返す。彼は全く本気では無い様だ。
“ギキン! キン! キキン!”
剣戟を繰り返しながら、クマリは内心焦りを感じていた。クマリは両手の銀爪でレナンを攻めるが、対して彼は左手に持つ宝剣だけで受けている。
彼女は剣戟を交わしながら、戦況を冷静に検証する。
(……確か、レナン君はさっき巨獣と戦っていた時……この左手の剣と……右手の棘みたいなので戦っていた筈……。私には両手は不要って事だね……。本気を出す迄も無いって事か……。確かに余裕そうだけど……舐められたもんだよ。だけど攻め方は色々有るんだ、レナン君!)
クマリは脳内で素早く状況を整理し、レナンが全く本気では無い事を理解していた。
このままではクマリがレナンに手加減されたままで、押し負ける事も容易に想像できた。
その為、正攻法では無いが心理的に動揺を誘い、隙を作らせて攻める戦法に切り替える。
「いやー、流石に強いね! レナン君! こんな強いレナン君の大切な人って凄く、強いんだろうね! えーっと私の調べでは……そう、ティアちゃんって言ったよね! アルテリアに行って、そのティアちゃんに“挨拶”して来ようかなー?」
クマリはレナンについて興味を持ち始めた時点で彼の情報はある程度調べていた。
何せ王国中にレナンとティアの婚約した姿絵がトルスティンの策によって配られたのだ。
その為、クマリはレナンの大切な人と言うのが、アルテリアに居るティアと言う少女で有る事は予想が付いた。
だから、軽くレナンを脅して動揺を誘い、有効策を取ろうと画策した訳だが……。
「……今、何て言った?」
「え? うわ! だ、だから、アルテリアに行って……やべ! きゅ、急に早く……! そ、それにこの感じ……きょ、強烈な……敵意!? フフフ……長く生きてきた、この私が恐怖を感じるなんて!」
“キイイイイン!!”
クマリの脅しに対し、レナンは急に声を低くして静かに彼女に問うた。同時に彼の右手が激しく光り出し、異形の姿へと変貌する。
次いで異形の腕に生える棘が白く光る。クマリはその様子を見て、先程までとは全く違う気持ちを抱いた。
ついさっきもレナンは異形の右腕を表しており、クマリはその腕に威圧感を感じていた。
しかし……今はまるで違うのだ。
この瞬間もレナンから向けられる圧倒的な威圧感、具体的にはその右腕から溢れる絶対的強者としてのプレッシャーに晒されていた。
そう……レナンにとって先程までの敵は巨獣だったが、今の彼が敵と認識しているのは他でも無いクマリだった。
クマリはレナンが放つ威圧感と敵意に恐怖しながらも同時に歓喜する。
特級冒険者として活躍して長いクマリに、恐怖を抱かせる者など久しい存在だったからだ。
「フフフ……アハハハハ!! 凄い、凄いよ! レナン君! この私に恐怖を抱かせるなんて! やっぱり君は最高よ! さぁ! 次は何を見せてくれるの!?」
クマリは銀爪を掲げながら喜び叫んだ。
対してレナンは左手に宝剣、右手は異形の腕から生える棘を其々輝かせながら、突っ立っていたが突如その姿が揺らめき……消えた。
「え!?」
“ガキン!!”
クマリは突如消えたレナンに驚く間もなく眼前に現れたレナンに無我夢中で銀爪にて防御した。
“カラン、カン!、コン!”
しかし防御した筈の銀爪は両腕共に地面に甲高い音を立てて落下した。レナンの棘により切り落とされた様だ。
クマリは何事が起ったか分からず戸惑った刹那に、彼女の首元にレナンの宝剣マフティルを向けられた。
明確なチェックメイトだった。レナンは静かだが低い口調でクマリに迫る。
「……僕の勝ちですね……。クマリさん……今ここで約束して下さい……。アルテリアのティアを襲わないと。そうでなければ……僕は迷い無く……今、貴方を切ります……」
「お、おい! レナン、落ち着け!!」
レナンの静かな恫喝に戦いを見守っていたマリアベルが驚き、彼を制止する。
対してクマリは彼の恫喝が本気で有る事を感じ強い恐怖を感じながら、それを表に出さない様におどけた調子で答えた。
「や、やだなー、レナン君! ティアちゃんを襲う訳無いよー! 私が言ったのは普通の挨拶だよ! アハハハ……」
「……それならば……良いのです……。模擬戦は僕の勝ちでいいですか?」
レナンはクマリの答えを聞いて、スッと左手の宝剣マフティルを引き、異形の右腕を元に戻した。
ティアに対し危険で無いならば彼にとってクマリは敵では無い為だ。レナンはこの模擬戦自体も結果など、どうでも良くクマリの返事を待たず彼女に背を向ける。
対してクマリはレナンが激しい感情を示したティアという少女に強い興味を持ってしまった。
このレナンとクマリとの戦いが無ければティアの生き方は違ったモノになっただろう。ティアにとってクマリは良くも悪くも強烈な存在となるのだ。
しかし、クマリにとって今はレナンとの戦闘中だ。彼女はティアに強い興味を抱いてしまったが、その事を今は脳裏の隅に置いた。
クマリは戦いが終わったと勝手に判断して自分に背を向けたレナンに強い憤りを感じたが、声に出さず彼の度肝を抜いてやろうと決意する。
彼女の銀爪は全てレナンに切断されたが、懐にはナイフを潜ませていた。クマリは時間差攻撃でレナンに取って置きの“挨拶”をする事を決めた。
彼女は俯き誰にも聞こえない様に小さな声で魔法の詠唱を始める。
「……大地渡る風よ 我が前に集いて敵を引き裂く刃と化せ 風破斬」
クマリは小さな声で中級風魔法を唱えた。その魔法は風に寄る鋭い刃を多数発生させ、広範囲の敵を切り刻む魔法だ。
クマリは不意打ちで中級風魔法をレナンに向け放ったのであった……。
一部直しました。




