69)巨獣討伐-15(倒れし巨獣)
レナンの宝剣マフティルと右手の光輝く棘による双剣により、巨獣は頭部を大きく切り開かれ、大量の血液を撒き散らしながら悲鳴を上げた。
“ゴギャアアアア!!!”
身の毛もよだつ様な悲鳴を上げた巨獣。
レナンは巨獣の頭部を切り裂いた後、地上に舞い降りて、彼の巨獣に対し油断なく構える。
そんな彼は巨獣が撒き散らした大量の血で赤く染まっていた。対して巨獣はレナンに与えられた傷が致命傷だったのか、悲鳴を上げた後、お辞儀をする様に頭を下げて動かなくなった。
その様子を見た討伐隊の面々は大歓声を上げる。
「「「「「ウオオオオオオオ!!!」」」」」
そんな中マリアベルが大声を上げてレナンを称賛した。
「レナン!! 良くぞ一人で持ち堪えた!」
マリアベルは称賛の後、レナンの元に駆け寄ろうとしたが、レナンは厳しい目をしたまま誰に答える訳でも無く叫んだ。
「まだ! 終わっていない! だけど、これで終わりだ!!」
レナンはそう叫び、異形となった右腕を差し出し叫ぶ。
「光の蔦よ! 彼の敵を貫き、躯と化せ!!」
レナンは右手の甲に有る宝石状器官から眩く輝く光の柱を生じさせ、有ろう事か自分が切り裂いた巨獣の大きな傷口に突き刺した。
“キュド!!”
“グギュウウウ!!”
大きく切り裂かれた頭部傷口に光を突き刺された巨獣は大きな叫び声を上げた。レナンは構わず低く呟く。
「内より切り刻め」
レナンの呟きに反応した光の柱は、一層眩く輝いた。そして――
“キュボボ!!”
光により貫かれる音と共に巨獣の体の至る所から光の刃が突き出て、彼の巨獣は光の刃による針山の様な姿となった。
レナンが巨獣頭部の傷に突き刺した光の柱から分散した光が無数の剣となり巨獣の体内を切り刻んだのだ。
“グウウウォオオ……”
巨獣は力なく声を漏らして、ゆっくりと仰向けに倒れた。
“ドズズズウウウン!!”
濛々(もうもう)とした土煙が舞う中、巨獣は腹を天に向けた状態で倒れたままピクリとも動かない。
その様子を目の当たりにした討伐隊の面々は絶句して固まっていた。
「「「「「…………」」」」」
やがて我に返ったかの様に討伐隊全員が雄叫びを上げる。
「「「「「ウオオオオ!!!」」」」」
マリアベルや白騎士達を始めとして討伐隊の面々が一斉に動かない巨獣の前に立っていたレナンを取囲み、彼を称賛する。
「レナン! まさか一人でコイツを倒すとは! 良くやったぞ!!」
「レナンお兄様!! 何て言うか……有難う御座います!」
「おい、レナン! 良くやったな!」
「信じられねェ! このデカブツを!?」
マリアベルやソーニャ達討伐隊の面々は揃ってレナンを褒め称えた。そんな中、レナン達の頭上から朗らかな声が響いた。
「……まさか本当に一人で倒しちゃうなんてね……凄いよ……凄すぎる! フフフ……アハハハ!!」
レナン達は声がした方を見ると、声の主は倒れて動かない巨獣の腹の上に立つ特級冒険者クマリだった。
マリアベルは突然笑い出したクマリを怪訝に思い声を掛ける。
「そんな所で何をしている、クマリ! 戦いは終わったのだ。さっさと降りて来い!」
「……マリちゃん……私……さっきまで凄く頑張ってたでしょ? ジャガイモちゃん達の為に虫、一杯倒したし……私が居なかったらジャガイモちゃん達沢山死んだと思うんだー! だからね……」
「クマリ……お前……さっきから何を言っている?」
クマリの言葉に怪しさを感じたマリアベルが問う。対してクマリは楽しくて仕方ないと言った様子で答えた。
「いや……だからね……頑張った報酬として……レナン君との……死闘を……所望します!!」
クマリはそう叫ぶと、両手に装備している銀の爪を交差させたまま、眼下のレナンに向け飛び掛かった。
対してレナンは何の気負いも無く宝剣マフティルでクマリの斬撃を受け止める。
“ギギン!”
その様子を見たマリアベルが大声で叫ぶ。
「大丈夫か、レナン!! おい! クマリ!! お前、今すぐ止めろ!!」
対してクマリはレナンに肉薄したまま、呑気に答えた。
「えー? こんなのまだ試合の範疇だよ。私はさっき言った通り、自分のご褒美を行使してるだけだから……マリちゃん、少し待っててよ!」
クマリは間延びした声でマリアベルに答えながら、その逆に銀爪の斬撃は激しくレナンを襲う。
“ギン! キキン! ギキン!”
「クマリ! いい加減にしろ! お前達、奴を取り押さえろ!」
「は、はい!!」
「お任せを!!」
「クマリ! 神妙にしろ!」
マリアベルの指示により騎士や白騎士が彼女に返答し、クマリの背後に迫り、取り押さえようとするが、クマリは姿勢を低くして足払いで彼らを転がした。
「キャア!」
「うわあ!」
「くっ!」
「……邪魔しないで、ジャガイモちゃん達……私は自分の権利を行使しているだけ……邪魔するなら……唯では済まさないよ?」
クマリは銀爪を見せながら転がした騎士たちに凄む。対して騎士達は激高しながら叫んで立ち上がった。
「おのれ!」
「お、大人しくしろ!」
騎士達とクマリの間に生じた緊迫した空気。そんな中レナンが待ったを掛けた。
「……ちょっと待って下さい。僕達討伐隊の任務は巨獣だった筈……。互いに戦い合う理由はありません。ですが……そこのクマリさんが、僕との模擬戦を強く望むと言うなら……僕は別に構いません」
「ちょ、ちょっと待て、レナン! お前が奴と戦う理由がない。クマリの奴が言っているのは自分勝手な言い分にすぎん。お前がそれに付き合うのは……」
レナンの言葉にマリアベルが慌てて制止したが、レナンはジト目で彼女に反論した。
「……僕も何処かの誰かさんにいきなり街道で襲われたよね……。それも結構ガチな攻撃仕掛けて来たし……」
「う!? そ、そそ其れは任務だったし……お、お前が余りに強いから……。ええぃ! か、勝手にしろ!」
レナンに詰られたマリアベルは自分がレテ市付近の街道でレナンと出会った時、襲った事を思い出す。
そして動揺した彼女は投げやりに、クマリとレナンの模擬戦を認めたのであった。
対してレナンは苦笑を浮かべながらクマリに静かに話す。
「……クマリさん……そんな訳で仕切り直しと致しましょうか?」
「流石、レナン君! ジャガイモちゃん達とは一味も二味も違うね!」
クマリはレナンを褒め称えたが、彼は答えずクマリに言う。
「……クマリさん……約束して下さい。僕が勝ったら、夜にナイフを投げる様な真似は止めて下さいね?」
「うん! 君が勝ったら夜にナイフを投げる挨拶は控えるね! フフフ……それでは改めて行かせて貰うよ!」
レナンの問いにクマリは素直に答えた後、銀爪を構え彼に突進していった。
こうしてクマリとレナンの戦闘が強引に始まってしまったーー。
一部直しました。