68)巨獣討伐-14(レナンの戦い)
「急ぐぞ! 白き勇者の元に!」
マリアベルは生き残った討伐隊と共に巨獣の元に駆け戻る。
巨獣の元に戻っても全身から放たれる光線や棘の魔獣により討伐隊が彼の巨獣に出来る事は少ないだろう。
しかしマリアベルとしては、たった一人で奮闘するレナンを放置は出来なかった。
焦りを感じながら駆けるマリアベルに対し途中参戦したクマリが呑気に声を掛ける。
「うーん……マリちゃん、そんな心配しなくてもレナン君なら大丈夫。案外、あのデカいのやっちゃってるかも知れないよ?」
「おい、貴様! 適当な事を言うな!」
適当な返事をしたクマリに対しオリビアが叱りつける。対してクマリは気にせず答えた。
「うるさいなー、弱いジャガイモちゃんの癖に……レナン君がどんだけ強いか知ってんでしょー?」
「それはそうだが! お前が知った様な事を語るな!」
クマリの不遜な態度が気に入らないオリビアが駆けながら彼女に噛みつくが、ここで並走するマリアベルが釘を刺した。
「落ちつけ、オリビア。それとクマリもだ。一時とは言え、我等は巨獣討伐を目的とする同志だ。巨獣を前に諍う事は止めるんだ」
「ハッ!」
「はいはいー」
マリアベルの言葉に二人は言い争いを止めた。
「レナンの事なら大丈……!? あ、あれは!?」
マリアベルがクマリとオリビアに声を掛けている最中に前方の空に向け放射された無数の光線による軌跡を見た。
巨獣の半透明な器官から放たれる光線だろう。
「お姉さま! あの光は!?」
「……戦っているのか、レナン!!」
空に向けて放たれた光線を見て白騎士のソーニャとレニータが各々叫ぶ。
その光線が放たれた事が示す事は唯一つ……レナンがたった一人で戦い続けていると言う事だ。
それを感じたマリアベルは駆けながら後続する討伐隊に向け叫ぶ。
「今この瞬間にも白き勇者は唯一人で戦い続けている! 我等も彼に続くぞ! 皆、気合いを入れろ!」
「「「「応!」」」」
放射された光線を見て、レナンが1人で戦い続けている事を強く実感させられた討伐隊の面々は強い覚悟を持って巨獣の元へ向かうのであった……。
◇ ◇ ◇
その頃、レナンは異常な再生力を持つ巨獣に対し何とか光明を見出そうと孤軍奮闘していた。
”ゴウエエエエ!!”
”ブオン!!”
巨獣は叫びながら巨大な腕を振り回す。レナンを薙ぎ払う為だ。
対してレナンは冷静に難なく振るわれた腕を後方に宙返りしながら飛んで躱す。
“ヒュン!“
対する巨獣の半透明な器官が急激に光を強めだした。
“キュド!!!”
瞬く間に巨獣の半透明の器官から、又も真白い光線が一斉に放たれる。
光線は全方位に向けられ発射されたが、油断なく警戒していたレナンは難なくこれを避けた。
放たれた光線は、軸線上に在った木や地面を貫く。
放たれた光線は狙いを付けた訳でなく無作為に全方位に放たれた為、空には白く眩い軌跡を描いていた。
光線を難なく躱したレナンは次いで異形となった右手を差し出し叫ぶ。
「光よ! 集いて敵を貫け! 穿光!!」
レナンの叫びと共に右腕に有る宝石の様な器官が眩ゆく輝く。
その結果、巨獣を覆うが如く光の輪が無数に現れ輪は収束し光の球となり、光の矢を形成し巨獣に向け一斉に放たれた。
“キュドドド!!”
“ギュオオオオ!!”
“ドオオン!!”
レナンが放った無数の矢に貫かれた巨獣は先程と同様に叫び声を上げた後、前のめりに倒れた。
巨体が倒れた事で大音響と共に、大量の土煙が立ち上った。倒れた巨獣はピクリとも動かないがレナンの顔には油断が無く、警戒を強めて巨獣を見つめている。
すると……。
“ズズズズズ!”
無数の光の矢に貫かれ絶命した様に見えた巨獣だったが、矢で生じた傷が一斉に修復され始める。
その様子にレナンは苦々しげに呟いた。
「……やっぱりか……何度やっても同じ……アイツは龍と同じでどんな攻撃を受けても直ってしまう……」
レナンは巨獣と戦い始めてから、あらゆる攻撃を試みた。
宝剣マフティルと右手による斬撃、上級魔法による攻撃……。巨獣は攻撃を受けて一瞬怯みはするが、有効では無く生じた傷はあっと言う間に完治してしまうのだ。
討伐隊に向け放たれた棘の魔獣による被害を懸念したレナンは一刻も早く、棘の魔獣を殲滅する光魔法を放とうと何とか隙を作りたかった。
その為に攻撃を斬撃や魔法と変えながら攻めていたが、並大抵の攻撃では彼の魔獣には通用しない。
そこでジェスタ砦での防衛線の折に生み出した光の矢による魔法で巨獣を貫いた。
レナンは生み出した光の矢を無数に彼の巨獣に浴びせ、結果巨獣は崩れ落ち沈黙する。
レナンはその隙に森に広がってしまった棘の魔獣に目掛け、光の魔法を放ったのだ。
結果、棘の魔獣は殲滅された。
レナンは漸く殲滅出来た事に安堵したが、それも束の間に傷をあっと言う間に再生し巨獣が動き出した、という状況だった。
それで先程、もう一度巨獣に光の矢を無数にぶち込んで見たが巨獣は崩れ落ちたものの、全ての傷を再生してしまったのだ。
「このままじゃ、同じ事の繰り返しだ……。残る技は光の蔦と……“アレ”だけ……でも、“アレ”は禁じ手……使う訳にはいかないな……それなら次は光の蔦で貫いてやる……!」
レナンは再生を繰り返す巨獣に対し歯噛みしながら呟く。レナンが言う“アレ”とは腐肉の龍を大地ごと滅ぼしたあの技の事だ。
レナンは龍を滅ぼした後日、自らが起こした破壊の痕跡を見に行った。幅数十mにわたり扇状に抉られた大地が遥か彼方まで延々と続く恐るべき破壊の痕跡を……。
その結果聡明なレナンは自らの力に溺れる事は無く、逆に強力過ぎる“アレ”に強い危機感を抱いた。
味方が点在し旅人が居る可能性が在る、この街道で……あの大破壊を起こす訳にいかない。
その為に敢えて光の矢や光の蔦の様な光魔法をイメージして右手の力により具現化して生み出したのだった。
決意を新たにしたレナンは巨獣に対し棘の魔獣を殲滅した光の蔦を放つべく慎重に、彼の怪物に立ち向かうのだった……。
◇ ◇ ◇
「見えた! 無事か!? レナン!!」
巨獣が居る開けた街道に躍り出たマリアベルは第一声にレナンを案じ叫んだ。対してレナンはと言うと……。
「オオオオ!!」
レナンは雄叫びを上げ、左手に宝剣マフティル、異形の右手は光輝く棘を輝かせながら巨獣に単身猛攻していた。
彼の体は強化魔法の重ね掛けで白く輝いている。
“グウアアアア!!”
“ブオン!”
巨獣は太さ3mはあろうかと思われる巨大な腕を振り降ろした。
“ドドドオオン!!”
巨獣の拳で力任せに打ち付けられた大地は砕かれながら大音響を響かせる。
レナンはそんな状況にも恐れる事は無く、地に振り降ろされた巨腕を駆け上がった。
腕を駆け上がったレナンは迷う事無く真っ直ぐ巨獣の頭部を目掛ける。
巨獣は慌ててもう片方の腕でレナンを掴もうとしたが、レナンは飛び上がってこれを躱し、身を捻って方向を変え巨獣の肩に舞い降りた。
そして宝剣マフティルと右手の光輝く棘に強いエーテルを込めて眩しく輝かせ、煌めく様に一閃した!
“ズパン!!”
気持ちの良い切断の音を響かせたその双剣は巨獣の巨大な頭部を開いた花の様に大きく切り開いたのだった……
一部見直しました。