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67)巨獣討伐-13(レナンと巨獣)

 「しっかりして下さい!!」

 「……う……だ、大丈夫だ……」


 マリアベルがクマリと共に巨獣へ向かう中、別な戦いをしていたルディナが必死な形相で叫ぶ。


 叫ばれている相手は昨夜、レナンに戦いを挑んで敗れた2級冒険者のラジルだ。




 彼は重傷を負い、その傷をルディナが治療魔法で癒している状況だった。ルディナは焦燥した表情で心底ラジルを心配している様だ。


 ルディナが彼に対しそんな態度を見せているのには理由がある。


 レナンが放った最初の光魔法で棘の魔獣が一掃された後、ルディナはマリアベルの指示を受け、治療魔法が使える他の者達と共に、負傷した討伐隊の治療に回っていた。



 ――そんな中、又も空から棘の魔獣が一体落下して来たのだ。



 治療中であり尚且つ動けぬ者が多く居たこの場に、突如現れた一体の棘の魔獣に絶体絶命となったルディナ。 


 そこに友人の治療中の友人冒険者を付き添っていたラジルが、ルディナ達を守る為に唯一人で魔獣に立ち向かい激しく戦った。


 その結果、彼は体中に深い傷を負ってしまったのだ。



 しかしラジルが死に物狂いで、やっと一体の棘の魔獣を倒した後に、次々に別な魔獣が現れた。



 よもや全て終わりか――



 そう思い死を覚悟したルディナ達だったが、その時に再度レナンが放った光魔法が、降り注ぎ棘の魔獣は一掃される。



 辛うじて危機を脱したルディナは、自分を守ってくれたラジルを必死に治療している状況だった。


 「……お、俺の事は、もう……いい……うぐ……ほ、他の奴を見てやってくれ……」


 ルディナの回復魔法で治療したラジルだったが傷は深く重傷だ。しかし彼は自らを省みず他の仲間の事を案じている。


 そんな彼の姿にルディナは心動かされたが、表に出さず彼を叱った。


 「あ、諦めないで! 貴方の治療はまだ終わっていません……! それに他の人は別な者が看ています」


 「そ、そうか……俺はツイているな……」

 「え? こんな大怪我をしたのに……どうして?」


 「……と、遠くから眺める事しか出来なかった高嶺の貴女に……癒して貰えるとは……ハァハァ……ぐう、こ、このまま死ねば……あ、あの世で自慢……出来そうだ」


 「!!……な、何を言うの!? ば、馬鹿な事言ってないで生き残った事を考えなさい! 眺めるだけで貴方は良いの!?」


 突然のラジルの告白に戸惑いながらも満更でもない様子のルディナは顔を赤くしながら、諦め口調のラジルを叱る。


 対してラジルは自分を案じてくれているルディナに、微笑を浮かべ返答する。


 「……お、俺を案じてくれて感謝する……こ、こんな俺だが……も、もし貴女さえ良ければ……俺と……」


 「……それから先は貴方が元気になってから……貴方の口から聞かせてね?」


 神妙な顔でルディナに答えるラジルに対し彼女は彼の唇に自分の人差し指をそっと当てて、それ以上の言葉を留め悪戯っぽい笑顔を浮かべラジルに返すのであった。




  ◇   ◇   ◇




 棘の魔獣を駆逐する少し前レナンはたった一人で巨獣と戦っていた。


 「闇夜を照らす暁の火よ 顕現し撃ち滅ぼせ! 爆裂!!」


 “バガガガアアァン!! 

 “グウウォオオオオオ!!”


 レナンは上級火炎魔法を放ち、巨獣を巨大な炎で包んだ。対して魔法を喰らった怪物は苦悶の叫び声を上げる。


 やがて炎が静まると中から出てきた巨獣の皮膚は焼け焦げ、大きなダメージを与えた様にレナンは思ったが……。


 “ズズズズ!”


 巨獣の焼けた皮膚は音を立てて盛り上がり泡立つ様に新しく再生された皮膚に入れ替わった。その様子を見たレナンが呟く。


 「……やっぱり龍と同じ……普通の魔法では効果が弱いな。ならば剣で!」


 そう呟いたレナンは左手に宝剣マフティルと右手は異形の姿に変えている。左手の剣と右手の光る棘の二刀で巨獣を攻撃する心算だった。


 “ゴオオオォ!!”

 “ズドオオン!!”


 対して身を焼かれた巨獣は怒り狂い巨大な腕を振り降ろす。


 振り降ろした拳によって轟音と地響きと共に大地が陥没したが、レナンは横に飛んで(かわ)した。


 次いで巨獣は振り降ろした拳をそのまま横に薙いでレナンを打ち払おうとする。


 “ブオオン!!”


 レナンは自らに迫る横なぎの巨腕を見据えて避けようともせず剣と右手を構える。そして眼前に迫る巨椀に対し、剣と右手を一閃した。


 “ザギン! キキン!”


 レナンが二刀を振り降ろすと、巨獣の巨大な指が数本切断され、地に大きな音を立てて落ちる。


 “ボドン! ゴトン!”


 人の胴体程も有る巨大な指を切断された巨獣は痛みでのけ反り、大きな叫び声を上げた。


 “グギャアアアア!”


 「よし! 効いている! このまま腕を切り落とす……!?」


 レナンは斬撃が効いた事を見て、次の攻撃に移ろうとして驚いた。


 今さっきレナンが切り捨てた指が切断面から泡立つ様に再生され始めているからだ。



 アルテリアで討伐した腐肉の龍も驚異的な持っていたが、この巨獣に比べると再生する速さが全く違うのだ。


 「……この……巨獣はあの龍より……強力な再生力を持っているのか……。拙い……時間を掛ける程、虫の魔獣に皆が倒されてしまう……。ならば、あの魔法で!!」


 “ズズズズ”


 レナンが思案している僅かな間に巨獣は切り落とされた指の再生を終えた。


 この巨獣は龍に比べて鈍重だが、あの龍を超える、とてつもない再生力を持っている様だ。


 再生を終えた巨獣は巨大な両腕を組んでレナンに叩き付けようと振り上げる。


 まともに喰らえば大地は砕けレナンは“染み”になるだろう。対してレナンは慌てず恐れず、異形の右手を掲げ叫ぶ。


 「光よ! 集いて敵を貫け! 穿光!!」


 レナンが叫んだと同時に、右手甲に有る宝石の様な器官が眩ゆく輝いた。

 


 すると巨獣の周りに光の輪が沢山発生した。正面、側面、背面……巨獣の全身を覆うかの如く至る所に光の輪は浮かんでいる。


 光の輪は瞬く間に収束して光の球となり、矢となって一斉に巨獣を貫いた!


 “キュドドドド!!”

 “ギュオオオオ!!”


 全身の至る所から放たれた光の矢に貫かれた巨獣は大きな悲鳴を上げて、糸が千切れた操り人形の様に手足を投げ出して崩れ落ちる。


 “ドドオオン!!”


 土煙を上げて崩れ落ちた巨獣を見てレナンはチャンスとばかり叫んで右手を天に向け真っ直ぐ上げた。


 「光の蔦よ! 彼の敵を全て貫き、躯と成せ!!」


 レナンがそう叫ぶと異形の手の甲に有る宝石状の器官が急激に輝き光を放つ。レナンは立ち上った光に対し自らの意志を込め叫んだ。


 「虫だけを狙え!」


 彼の叫びを受け、長く天に向かって立ち上る光の柱から無数の光りの帯が分れ出て放射状に広がり地上に舞い降りた。


 “キュキュン!”


 そうして先程と同様、地上に居る棘の魔獣だけを貫いたのだった。レナンの放つ魔法は彼がイメージした通りに働く様だ。


 レナンは漸く棘の魔獣を殲滅する光魔法を放てた事に安堵して呟く。


 「……ふぅ……やっと支援する事が出来た……。これで討伐隊も助かっただろう。巨獣も流石に沈黙したし……、討伐戦はこれで終わりかな……?」


 レナンがそう呟き、改めて巨獣を見つめた。



 すると……。



 “ズズズズズ!”


 レナンの放った光の矢で抉られた巨獣の傷が音を立てて修復している所だった。


 “巨獣は死んではいない……“


 そう認識したレナンは溜息と同時に改めて巨獣と相対するのであった……。




語尾直しました。

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