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66)巨獣討伐-12(クマリの力)

  クマリが叫んで放った下級風魔法。


 その風魔法は大気を操り刃と化して攻撃する魔法だ。下級である為、攻撃範囲は複数では無く棘の魔獣単体だ。


 ちなみにクマリは強力な上級風魔法も当然使えたが、木々が乱立する森の中では効果が半減され、何より散らばって存在する討伐隊を巻き込む恐れがある為、敢えて使わなかった。



 討伐隊の面々も棘の魔獣に散々魔法を放ったが、魔法の威力や、属性にも関わらず大した効果は無い。従ってその場に居た誰もがクマリの下級風魔法は効果が無いと思われたが……。


 “ザザン!!” 

 “ギキイイイ!!”


 クマリの放った風魔法は下級にも関わらず、難なく棘の魔獣を切り刻み一発で絶命させる。



 その結果に近くに居たソーニャが驚き声を上げる。


 「ど、どういう事!? 私達の魔法はあの魔獣に効果無かったのに……」


 ソーニャの呟きを聞いたクマリは何でもない事の様に淡々と答えた。


 「そんなの簡単だよ、妹ちゃん! さっきも言ったけど僕は魔法が得意でね。 銀爪に付与する様に、魔法に“込めた”んだ!」


 「!……レナンお兄様と同じ、魔法の重ね掛け……?」


 「そうなるのかなー? 僕の村では普通に皆が出来るから良く分んない。僕達は魔法を放つ時にエーテルを強く込めるんだ。そうする事で下級魔法でも鋭く強くなる。まぁ、普通の人じゃ消耗激しいから出来ないと思うけどー? そんな訳で適当に虫の魔獣狩っとくね!」


 ソーニャの問いにクマリは何でもない事の様に軽く答えた後、銀爪を構えながら棘の魔獣に切り込んでいった。


 かの魔獣を難なく切り捨てた後、下級風魔法を続けざまに放ち、次々と棘の魔獣を倒していく。




 ソーニャ達ヒト族が放つ下級魔法では、扱えるエーテルが元より小さい為、威力は其れなりだがクマリ達、長耳族が魔法を扱うと下級でも何倍も強力になる。


 その為、クマリが放つ魔法は下級でもエーテルを強く込められている為、濃密で強力な一撃となったのであった。


 クマリの放つ魔法や彼女が振るう銀爪で次々倒されていく棘の魔獣。その様子にマリアベルが若干苛立ちを含んだ口調でソーニャ達に号令を出す。


 「奴に後れを取るな! 我等も意地を見せるぞ!!」

 「「「「ハッ!!」」」」


 マリアベルの指示により白騎士隊や討伐隊は棘の魔獣に果敢に攻撃を仕掛けるのであった。




    ◇    ◇    ◇




 クマリの参戦とマリアベル達の奮闘により棘の魔獣は確実に数を減らしていく。


 しかし棘の魔獣は数が多く、クマリやマリアベル以外は一匹倒すのも非常に苦労していた為、結果的には消耗戦となってしまった。


 「くっ!! このままでは押し戻されるぞ! 怯まず取囲んで一匹を確実に仕留めろ!」


 マリアベルは討伐隊に叫んで指示する。しかし棘の魔獣は頑丈で、並みの攻撃は受け付けず一匹を倒すのも簡単では無かった。


 “ザギン!!” 

 “ギイイイィ!!”


 そんな中、クマリは風魔法を付与した銀爪で棘の魔獣を切り捨てた後、必死な顔で奮闘する討伐隊を見遣り呆れながら呟く。


 「……これだから、ジャガイモちゃん達はダメなんだよ……。それでいて私達亜人に偉そうにするなんて、ホントにどうしようも無い連中だねー。良くマリちゃん、こんな奴らの為に頑張れるよ……。

 私一人なら、さっさとジャガイモちゃん達見捨てるんだけど、マリちゃん居るからなー。コイツ等守りながら虫と戦うのは流石にキツイね……。さて、どうしようか……うん? あの光は!?」


 クマリが一人呟いている際に天上に立ち上る光の柱と、そこから分化して飛び散る光の帯が見えた。


 すると頭上の光の帯が方向を変えてクマリ達の方に飛んで来た。



 ――レナンの光魔法が発動した様だ。



 迫る白い光の帯は先程と同じく周囲に居た棘の魔獣に突き刺さり、幾重にも分裂した光の刃が棘の魔獣の内側から串刺しにする。


 “キュド!!” 

 “ギシャアアア!!”


 レナンの魔法により、クマリ達が居るこの場の棘の魔獣は一掃された。


 恐らく他の場所でも同じ状況だろう。その様子にマリアベルは鬼化を解きながら呟く。


 「……レナン……無理をさせたな……。良し! 巨獣の元へ向かうぞ! 戦える者は再度、私と共に巨獣を討つ! 所で……クマリ……お前はどうする? 腹立たしいがお前の腕は立つ。本来なら捕縛したい所だがお前が巨獣討伐に尽力するならば、この場は目を瞑ってやるが?」


 「やだなー! マリちゃん! 僕は一度だって捕まる様な悪い事した事が無いよ! 弱っちいジャガイモちゃん達には手を出した事無いし。私が“挨拶”するのは本当の強者だけなの! マリちゃんとかレナン君とかね! だから何も問題は無いんだ!」



 マリアベルの問いに、クマリは明るい声で返答した。


 彼女が言っている事は道理も正当性も無く、クマリがマリアベルやレナンに対し過剰な“挨拶”(ナイフ投げる等々)を行っている事に対し何の弁護にも無らないが、クマリ自身は本気で悪い事を行っている心算は無い様だ。



 マリアベルとクマリは、両者とも兜や仮面を被っている為に表情は伺えないが、声の印象からするとクマリはきっと笑っているだろう。クマリの答えに傍らに居たオリビアが激怒し詰め寄る。


 「き、貴様! この国の英雄で在られるマリアベル様に何と無礼な!」


 「止せ、オリビア。今はコイツの荒唐無稽(こうとうむけい)な戯言に付き合う暇はない。虫共が死んだ今、私達は急ぎ巨獣とレナンの元に戻らねばならぬ。さて、クマリよ? お前は我らと共に戦うか?」


 「もちろん、その心算だよ! マリちゃんとレナン君と一緒に戦うんだ! あー、楽しみだね!」


 マリアベルの再三の問いに、クマリは楽しみで仕方ないと言った口調で返す。対してマリアベルはそんなクマリに釘を刺した


 「……今より向かうのは死地……遊びに行く気では、待っているのは身の破滅だぞ?」


 「忠告有難う、マリちゃん! だけど……私はとても長い間、こんな感じで生きて来たんだ……。私に取って最も大事な事は、自分が楽しめるかどうかだよ! だから全然大丈夫!」


 「フン、忠告はしたぞ? 共に戦うのならば我等に続け」

 「りょーかい!」


  マリアベルはクマリに忠告した後、その場に居た討伐隊の面々に叫ぶ。


 「皆、我等は今一度巨獣の元に向かう! 巨獣は恐ろしく強大だが、恐れる事は無い! 我等には白き勇者が居る! 白き勇者は唯一人であの巨獣に立ち向かっている! 我等と共に巨獣と戦う覚悟の有る者は我に続け!」


 マリアベルは叫んだ後、巨獣の元に再三駆け出した。討伐隊の面々とクマリもマリアベルの後に続くのであった。


語尾等直しました。

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