63)巨獣討伐-9(反撃)
「信じられない!! 何だ!? あの魔法! 凄い、凄すぎるよ!!」
そう一人叫んだのは、亜人の冒険者クマリだった。彼女は、木の上で巨獣と討伐隊の戦いを魔道具による遠見で“見学”していた。
牽制部隊の攻撃の後、倒れ込む様に前屈みになった巨獣の背から放たれた棘の魔獣。
その後は討伐隊がその魔獣に蹂躙される展開となった。総崩れの様相となった討伐隊の中で棘の魔獣とまともに戦えていたのはクマリの予想通りマリアベルと、そしてレナンだけだった。
クマリはその様子を眺めながら一人興奮していた。マリアベルとレナンの活躍はクマリにとって丁度、ライブ中のアイドルが踊り歌う姿の様に映っていたのだろう。
そんな中、討伐隊壊滅を予感して焦るマリアベルがレナンの名を叫ぶ。その声を聞いたクマリはマリアベルの元に助っ人に向かおうかと、思った時だった。
離れた地で一人奮闘していたレナンがマリアベルの叫びを聞いて、突如動きを止め高く右手を挙げた。
すると天を突く眩い光が立ち上り、その光から放射状に光の帯が飛び散り地上に群がる棘の魔獣を全て貫いたのだ。
全てはあっと言う間の事。クマリがレナンの右手から立ち上った光に驚いている間に、気が付けばあれだけ居た棘の魔獣は全て動かぬ躯となっていた。
クマリはその状況に大興奮しながら叫ぶ。
「信じられない!! 何だ!? あの魔法! 凄い、凄すぎるよ!! 雷撃魔法?、いや火炎か……。5大要素の”空“? いいや、全く違うな……。まさか……未知の系統の魔法なの? やっぱりレナン君は格別だね! 全てが規格外過ぎる!! アハハハハ!!」
一人木の上で遠見の魔道具を覗きながら大笑いしたクマリは、フードを被り仮面を付けながら呟いた。
「フフフ……、これはもう……突撃参加して間近で“語らう”しか無いね! 待っててレナン君!」
そう呟いたクマリは木の上から飛び降り、駆け出した。彼女もレナンの元に向かう心算だ。
特級冒険者、クマリ。彼女の実力は王国でも指折りだ。
しかしレナンとマリアベルという“アイドル”を追っ掛ける為に活動始めた、彼女の参戦により戦場は引っ掻き廻されるのであった……。
◇ ◇ ◇
所変わってレナン達が居る森にて、レナンは棘の魔獣に襲われた討伐隊達を治療魔法で癒していた。
「大地と空より与えられし生命の光よ、彼の者を満たし救いたまえ……“癒しの光”」
レナンは木の横で横たわる討伐隊の一人に右手を向け治療する。
「う……、だ、だいぶ楽になった……。す、済まない……白き勇者殿……」
「いいえ、礼には及びません。それよりまだ動かない方が良いです。体力が回復するまで横になっていて下さい……」
礼を言った討伐隊に、レナンは静かに答えて次の怪我人の元に向かう。ちなみにソーニャやナタリー達も怪我人の治療に回っていた。
そんな彼らの前に駆け寄る集団が現れた。マリアベル達だ。レナンを前にしたマリアベルは大声で彼を労う。
「レナン、先程は見事だった!」
「……別に大した事じゃない。何よりぶっつけ本番だったから、上手くいって本当に良かった……」
マリアベルの言葉にレナンは何でも無い様子で答えた。そんな彼にマリアベルは頷きながら話を続ける。
「いいや、お前の働きで討伐隊の面々は全滅を免れた。だが、肝心の巨獣は今だ健在。奴を倒さねば王都が危険だ」
「分ってる……。アイツは危険だ。多分、アルテリアに現れた龍よりも……。次はどうすれば良い、マリアベル?」
マリアベルの言葉に同意したレナンは彼女に問う。対して彼女は力強く答える。
「我等は、今一度巨獣に戦闘を仕掛ける。レナン……。お前には私と共にその先陣を切って貰いたい」
「ああ、分った。皆の足を引っ張らない様頑張るよ」
「フフフ……、それは此方のセリフだ。とにかく奴の元へ急ぎ向かうぞ! ついて来い! お前達!!」
こうしてマリアベルはレナン達と合流し、巨獣に一斉攻撃を仕掛けるべく、駆け出した。
◇ ◇ ◇
“ドズゥン!! ドズゥン!!”
地響き音を響かせながら進む巨獣。その振動で街道横の木も揺れている。
そんな巨獣の背後にマリアベル達討伐隊は迫った。突然の棘の魔獣襲来により壊滅仕掛けた討伐隊一行だったが、レナンの新魔法により救われたお蔭か、幸いにして被害は最小限で済んだようだ。
地響きを立てながら進む巨獣を見つめながらレナンが横に居るマリアベルに問う。
「……それでどうする心算だ、マリアベル?」
「ああ、聞いてくれレナン。巨獣は攻撃を受けると背中から、あの虫の様な魔獣を放つ様だ。だから……お前の魔法で先制して背中の魔獣を倒してほしい……。どうだ、出来るか?」
「うん、出来ると思う。さっき作った魔法なら……」
逆に尋ねてきたマリアベルに対し、レナンは静かに答える。対してマリアベルは頷いて作戦の概要を彼に伝えた。
「うむ、お前が攻撃した後に我らで一斉に巨獣に攻撃する。怯んだ所で私が奴の頭に止めをくれてやる」
「……分かった……最後の攻撃……気を付けた方が良いよ? アイツはどんな力を秘めているか分からない」
マリアベルの答えにレナンは感心すると同時に懸念を覚え忠告した。レナンがマリアベルに対し感心したのは全てをレナンに押し付けない事だ。
本来ならレナンに全て一人押し付けて後方で指揮した方が彼女は安全だろう。しかし彼女はそうせず、自ら前に立ち止めを刺すという。
討伐隊を指揮する者としての責任の為だろうが、自らの危険を顧みない姿勢にレナンは好感を覚えると同時に、未知の魔獣に対する危険度を彼女に忠告したのだ。
そんなレナンにマリアベルは彼の肩を叩きながら答えた。
「案ずるな、こう見えても私は幾多の修羅場を潜っている。しかし……フフフ……まさか、お前が案じてくれるとは……。今日は良き日だな。これなら胸を張って戦えそうだ」
マリアベルは言うだけ言って後ろを振り返り討伐隊の面々に作戦を伝えた。レナンはそんなマリアベルの後ろ姿を見ながら呟く。
「……べ、別に心配した訳じゃない……」
レナンは誰に話す訳でも無く小さく呟いた。そんな彼の様子を見たソーニャは小さく笑うのであった。
画してマリアベルの作戦は開始された。彼女はレナンに先制攻撃を指示する。
「レナン! 背中の魔獣を一掃してくれ!」
「分かった!」
マリアベルの指示を受けたレナンは光り輝く右手を差し出し叫んだ。
「光の蔦よ! 彼の敵を貫き滅ぼせ!」
彼の光る右手は異形に形を変え、手の甲に有る宝石状の器官が眩しく輝いた。そして差し出した右手から光が長く伸びて、その光から帯状の光が分散し巨獣の背中に一斉に突き刺さった。
“キュボ!!”
“ゴウエエエエ!!”
レナンが放った無数の光の帯は巨獣の背中に生えている棘に一斉に突き刺さり……そして光の帯から細分化された光の針が巨獣の背中を電光の如く蹂躙した。
巨獣は堪らず大声を発し、その動きを止めた。巨獣の背中を切り裂いた光の帯は霧散し、その跡に見られたのは細切れにされた無数の棘だ。
その様子では棘の魔獣は放たれないだろう。それを見たマリアベルは叫ぶ。
「良くやったぞ! レナン! 皆、巨獣は動きを止め、虫の魔獣は全て滅んだ! 一斉攻撃を仕掛ける! さぁ、行くぞ!!」
そう叫んだマリアベルはその体から赤黒い光を纏わせた。鬼化して一気に叩く心算だろう。
マリアベルの指示を受けた白騎士隊を始めとする討伐隊の面々はある者は剣を掲げ巨獣に向い、又ある者は魔法の詠唱を始め、巨獣に一斉攻撃を行わんとするのであった……。
内容一部見直しました。