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60)巨獣討伐-6(巨獣接近)

 レナンが検知した振動より何かが近づいて来る事を把握したオリビアは黒騎士マリアベルに報告した。


 すぐさま、マリアベルは討伐隊の行軍を止めて、騎士隊から一人を斥候(せっこう)として確認させた所、余りにも巨大な魔獣が街道を真っ直ぐ進んでいる事を確認した。


 斥候(せっこう)の騎士は状況を確認した後、這う様に討伐隊が待機している地点まで戻り、マリアベルに状況を説明した。



 彼は興奮が抑えられない様子だった。



 「ま、魔獣確認!! 確実に此方に近付いています!」

 「魔獣の状態を説明してくれ」

 「は、はい! ぜ、全高は……し、信じられない事に10m近く有り……」


 マリアベルに促され、斥候(せっこう)した騎士は極度に緊張しながら説明する。


 騎士の話は混乱を避ける為にマリアベル以外にレナン、そして白騎士全員、並びに王城の騎士隊代表に伝えられた。



 斥候(せっこう)の騎士によると、全高10m近い魔獣、いや巨獣は8つの目を持つサンショウウオの様な頭部を持っているとの事だった。


 頭部は前に突き出ており、頭部の長さだけで5m近く有るとの事だ。巨獣は上半身が異様に肥大化しており下半身は極端に短い面妖な姿らしい。


 また、体中に半透明な目の様な器官が複数付いており、更には背には無数の棘が有るとの事だった。


 歩行は大型の猿の様に手を付いて歩き、その巨大な腕を地に付けた時、地響きが伝わる様だ。




 「……そ、その姿は猿と言うか……大猩猩(しょうじょう)(ゴリラの事)とトカゲを掛け合わせた様な魔獣で……あ、あんな魔獣が居るなんて……信じられない想いです……」


 「「「「…………」」」」


 斥候(せっこう)の騎士は酷く憔悴(しょうすい)した様子で自らが見た状況を何とか言葉で説明した。


 対して聞いていた白騎士達は驚きの余り絶句していたが、マリアベルが斥候(せっこう)の騎士に声を掛けた。


 「……ご苦労だった……最後に教えてくれ。奴と接触は間も無くか?」

 「は、はい……かの魔獣の動きは鈍重ですが……真っ直ぐ街道を進んでおり接敵までの猶予は無いものと……」


 「分った……。ご苦労だったな、下がって良いぞ」

 「は、はい……」


 マリアベルは斥候(せっこう)を務めた騎士を労い下がらせた。次いで立ち上がり、ソーニャ達白騎士とレナンに声を掛けた。


 「討伐隊を集めろ! 此処で魔獣、いや巨獣を迎え打つ!!」

 「「「「ハッ!!」」」」

 「分った」


 マリアベルの言葉に白騎士隊とレナンは力強く頷いた。早速マリアベル達は、討伐隊全員にこの場所で巨獣討伐を行う事を伝えた。


 「各位、聞いてくれ! 件の魔獣は予想より進行が早く間もなく接触する。此処で奴を迎え討つ!!」


 一行に走る緊張感。そんな彼らに対しマリアベルは落ち着いて指示を出す。


 「総員、手筈通り牽制(けんせい)部隊と近接攻撃部隊に別れ、迎撃態勢に移れ! 決して焦らず己が責務を果たせ! 諸君らの検討を祈る!」


 マリアベルの号令の後、討伐隊は幾つかの班に分かれ行動を開始した。


 白騎士や王城の騎士が班長となり別れた部隊は、事前に決められていた通り整然と持ち場に着いた。



 マリアベルの指示により討伐隊は魔法と弓による牽制(けんせい)部隊と直接攻撃を行う近接攻撃部隊に分けた。


 この班分けは各自の能力を行軍中に選別し決められていた。牽制(けんせい)部隊は街道の左右に分かれて広がり、左右から巨獣を攻撃し怯んだ所に近接攻撃部隊が近接攻撃で叩く考えだった。


 しかし巨獣は予想より大きく牽制部隊の攻撃で怯まない可能性も有った為、牽制(けんせい)部隊にはレナンも参加する事となった。


 ジェスタ砦での魔獣ロックリノを殲滅(せんめつ)したレナンであれば巨獣を怯ませる事等、問題無いと判断した為だ。


 牽制(けんせい)部隊には魔法や弓を得意とする騎士や冒険者が集められ、白騎士のソーニャとナタリーが参加していた。


 ナタリーはレッドアッシュの髪を前が揃ったボブカットにした女性であり、冷静で理知的な性格をしていた。


 なお、牽制(けんせい)部隊の攻撃開始指示は白騎士のソーニャが指示する事になっていた。




 “ドシン…… ドシン……”




 巨獣が近づいて来ている為か、もう地面に耳を付けなくても巨獣が歩く音が聞こえる。


 レナンがそっと音のする方を見れば、遠くに白い巨体が見える。アレが(くだん)の巨獣だろう。


 レナンとソーニャ達白騎士隊は街道の右側の班に配置されていた。近付く巨獣の足音を気にしてか、ソーニャがレナンに小さく(たず)ねた。


 「……レナンお兄様……お兄様がアルテリアで龍を倒した魔法なら……あの巨獣……何とかなりそうですか……?」


 ソーニャの問いに横に居たナタリーが驚いて大声で問うた。


 「あの街道を抉った技ですか!? レナン君、貴方はアレを再現出来るの!?」


 ソーニャとナタリーに一度に問われたレナンは真剣な顔で答える。


 「ナタリーさん、落ち着いて下さい……。まず、ソーニャの質問に答えるけど……多分……倒せる。そして次にナタリーさんの質問だけど……僕は“アレ”を再現できるけど……此処では使えない」


 「……どうして?」


 「今の僕では、あの力を制御できない。龍の時も無我夢中で放ったんだ。そしたら……あの惨状だ」


 「確かに封鎖しているとは言え街道で、あの破壊は拙いわね……。封鎖を掻い潜って抜けて来る旅人もいるでしょうし。更に、此処には多くの味方が展開している。この場で、あの大破壊が生み出されれば、壊滅的な被害になりかねないか……」



 問うたナタリーにレナンが答えると、ソーニャも納得して返す。


 

 アルテリアの森で見た、あの痕跡から予想するに、人が往来する可能性のある、この街道で大破壊を起こした力は使えないとソーニャは理解したのだ。


 「「…………」」


 改めてレナンの強大な力を思い知ったナタリーとソーニャが沈黙する中、レナンは有る事に気付き二人に声を掛ける。



 「……二人共そろそろ頃合いだよ」


 レナンは、巨獣が作戦準備範囲に近づいた事を報せた。


 彼に促されたソーニャ達が巨獣を見ると、作戦準備範囲、つまり300mまで近づいた所だった。


 魔法や弓はもっと巨獣が近づかないと効果が無い。巨獣が70m付近まで来た時、牽制部隊は一斉に攻撃を仕掛けるのだ。



 ソーニャとナタリーは十分目視できる所まで近づいた巨獣を見て、驚愕し言葉を失った。


 「「!!…………」」


 巨獣の圧倒的な存在感は斥候(せっこう)の騎士から聞いたのと、実際目にするのでは全く印象が異なった。


 巨獣の全高は約10m。斥候(せっこう)の騎士が伝えた通り、大猩猩(しょうじょう)(ゴリラの事)とトカゲを掛け合わせた様な怪物だ。


 しかしその頭部は、うろこ等無く、サンショウウオに似た形状だ。そして、目と思しき赤く光る器官は正面に8個放射状に並んでいる。


 頭部は長く突き出ており、大きく裂けた口内には無数の牙が見え、口内部からは時折白い光が明滅していた。


 報告通り、上半身の胸部と腕が極端に肥大化しており、上腕の太さは3mは有るだろう。両腕は異様に長く、尖った爪が地面を()る程だ。


 不自然に成長した上半身に対し、足は太いが短い。歩く時は手の甲を地面に付けて前に進む。さながら猿の様だ。


 また、報告に合った半透明な目の様な器官はカエルの卵の様で首や肩、両腕、背中、至る所に付いていた。


 そして背中に生える不可解な無数の棘。ぬめっとした白っぽい筋肉質に相反するかのように甲殻類を思わせる鋭角な棘が生え揃っていた。



 自然界には絶対に存在しえない、全く奇怪な巨大生物が其処に居た。



 ソーニャはその異形の巨大生物を見て、不安と恐怖が押し寄せてきた。



 “本当にこんな怪物と戦えるのか?”



 ソーニャの不安と恐怖は、その一点から生まれていた。牽制(けんせい)部隊の攻撃開始指示を出すタイミングが近づいている……。


 しかしソーニャの内心では“本当にあの怪物と戦えるのか? 戦わず、撤退した方が良いのでは?”という恐怖と不安から来る疑念が渦巻いていた。


 判断に悩み、焦燥(しょうそう)がにじみ出た顔で目の前のレナンをチラ見すると……。


 彼は平常時と全く変わらず、不思議そうな顔で首を傾げて“どうかした?”と目で訴えていた。


 ソーニャはそんなレナンの顔を見て、肩の力が抜け焦燥(しょうそう)に駆られた自分が恥ずかしくなった。


 (……そうよ……こっちにはもっと凄い怪物が居たわ……。だから、恐れる事なんて何も無い!)


 巨獣を前にして、何の気負いも恐れも抱いていないレナンを見てソーニャは自身の不安と恐怖が消えた事を感じ、牽制(けんせい)部隊全員に声を大にして指示を出した。


 「牽制(けんせい)部隊! 総員、攻撃開始!!」


 こうして巨獣討伐作戦が始まった……。


内容一部見直しました

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