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59)巨獣討伐-5(新しい獲物)

 マリアベルの八つ当たりで無理やり仕合させられた野次馬の冒険者達……。


 彼は死屍(しし)累々(るいるい)と言った状況で疲労の為、地面に寝転がっている。


 よく見れば白騎士のレニータやべリンダも疲れ切って横になったり、座り込んだりと言った状況だった。


 対してマリアベルは肩で大きく息をしているが一人立ち、疲労(ひろう)困憊(こんぱい)と言った様子の野次馬達に叫ぶ。


 「どうだ!! お、お前達如きにでは、レナンはやれん! ハハハハ!!」


 マリアベルは満足そうに叫んで大笑いする。その様子に白騎士のオリビアやルディナ達は引きつった苦笑を浮かべるしか無かった。


 横に居たソーニャは深く溜息を付きレナンにぼやく。


 「はぁぁ……全く、レナンお兄様が来てから……マリアベルお姉さまはすっかりおかしくなってしまいました……」


「それ、僕の所為じゃないよね!?」


 ソーニャの言葉にレナンは驚愕して返答すのであった……。




  ◇   ◇   ◇




 マリアベルの八つ当たりやレナンの戦いを木の上から見つめる者が居る。


 マリアベルに危険なストーカー行為を行う特級冒険者、クマリだ。


 彼の者は真黒いローブはそのままだがフードは下ろし、仮面を外している。


 その素顔は赤い髪をオカッパにしたとても可愛らしい少女だった。


 だが特徴的な耳を持っている。その耳はマリアベルの様な長い垂れた耳では無く、熱帯に住む狐の様に長く尖った耳を持っていた。その耳は彼女の赤い毛が薄く覆っている。


 クマリが仮面やフードで姿を隠すのはマリアベル同様、亜人で有る為だろう。


 マリアベルの様に背が高い訳でなくクマリは子供の様に背が低かった。それはクマリの種族は長耳族と呼ばれる、とても耳が長く背が低い種族である為だ。


 長耳族は非常に素早く動け、尚且つエーテルを扱う技術、つまり魔法操作の長けた種族だ。この世界に存在する亜人種は、人類を差すヒト族より何らかの優れた能力を持っている。




 長耳族はマリアベルの母のオーガ族と同じく、大昔の亜人族とヒト族の長い大戦で捕虜となり、労働力としてロデリア王国に連れて来られた。


 その後大戦が引き分けに終わり、亜人族の和解の条件として捕虜の解放が取り決められたが、王国の暮らしに定着していた多くの亜人はそのまま残留し王国内の自治区で暮らしていたのだ。


 クマリや、マリアベルの母ゼナもそうした自治区出身だった。


 亜人族は人族より優れた能力を持つ種族だが、何故かヒト族と比べ外観上に差異が見られる。


 身長や体格、そして耳の形状。一目見て亜人と分る容姿より、王国内では亜人は差別される対象だった。


 その為、王国に住まう多くの亜人は自治区で過ごすか、ヒト族の領域に出る場合はマリアベルやクマリの様に本当の姿を隠して行動していたのだ。




 そんな長耳族の特級冒険者クマリはマリアベルやレナンの戦いを見た後呟く。


 「……全くマリちゃん姫殿下様は、お子様だねー。嬉しいのは分るけどさー。

 だけど……確かにレナン君が相手なら仕方ないねー。あの強さ、一体どれ位の力を秘めてるのかなー? そもそも何者? 私達と同じ亜人族? 

 いや、そんな可愛いモノじゃ無いよねー! 最っ高! 私も、完全に惚れちゃったよ!! フフフ……アハハハハ!!」



 クマリは一人で呟いた後、大笑いした。



 クマリは長耳族の特徴の一つである長寿命により長い時を生きて来た。


 生きる糧を得る為に冒険者の道を選んだが、長耳族として持って生まれた高いエーテル適応能力と素早さとクマリ自身の適正により、この王国でメキメキと冒険者として頭角を現して、やがて特級冒険者まで上り詰める。


 特級冒険者になる事は自分での目標であった為、ガムシャラに挑んで来たがその目標が叶った途端、クマリを待っていたのは変化の無い日々だ。


 その後は同じ事の繰り返し……。適当な依頼を受けて淡々と処理するだけ、そんな日々が待っていた……。


 長い時を生きられるクマリに取って変化の無い退屈な日々は拷問に等しい。



 そこで、生まれ故郷である南の亜人国に戻ってみたが、彼の国は閉鎖的で変化を嫌い伝統に重きを置く風潮が有り、ロデリア王国で冒険者として自由気ままに生きて来たクマリには故郷は全く合わず彼女の居場所は無い。


 その為、世界中を廻り自分の居場所を探したが、特級冒険者となったクマリを満足させるモノは見つから無かった。



 長い放浪の末に王都に戻った所、音に聞こえる英雄の黒騎士の名声――。


 クマリはその名声を聞き、喜び勇んで黒騎士マリアベルに会いに行く。


 そして一目見て惚れ込んだのだ。 “コイツ、只者では無い!” そう直感したクマリは事ある毎にマリアベルに絡み、勝負を挑み戦い合って、その強さを実感する。


 マリアベルを追い掛けている時は退屈な時など一切感じず、今を生きている感覚を味わえた。


 そんな訳でマリアベルに対しストーカー行為を続けてきた訳だが……。



 そんな中にマリアベルを遥かに超える怪物、レナンに出会ってしまったのだ――



 彼を一目見た瞬間、脳髄を電流が貫いた。


 一瞬でレナンが只者では無い事は看破出来た。それ所か、まるで底が見えない。彼がどれ程の怪物か全く想像も出来なかった。クマリは彼との戦いを予想するだけで激しく興奮し身悶える。


 「彼だ! 彼こそ私を満足させてくれる筈! 待っていてレナン! 私は貴方に全てを掛けて挑むから!! アハハハハハ!!」


 クマリはマリアベルとは別な生きがいを見つけた事に歓喜し、一人で叫び笑う。


 こうしてレナンに迫る、極めて危険なストーカーが誕生したのであった……。




  ◇   ◇   ◇




 大騒ぎした夜が明けた早朝、討伐隊の面々は野営で使ったテント等を素早く片付け出発準備を行っていた。


 乱闘を繰り広げた冒険者達は流石に鍛えられているだけあって、昨日の馬鹿騒ぎなど全く感じさせずテキパキと作業を進める。


 出発準備を終えた討伐隊一行は、黒騎士マリアベルの号令を受けた。


 「各位、朝早くから出立準備ご苦労! 今より出立しフリント方面へ向け、この街道を直進する。事前に得られている情報では、(くだん)の魔獣は山の様に巨大であり、二本足で歩行するらしい!

 口から怪しげな光を放つとの事より、接敵の際は先ず魔法と弓による牽制攻撃の後、怯んだ所に回り込んで直接攻撃を行う! 

 なお、情報によると魔獣はフリント襲撃後、王都へ向け真っ直ぐこの街道を進んでいるとの事だ。予想では昼前に接触する見込みだ。接敵後の作戦指示は私が行なう。各位指示に従う様に! 以上だ!」


 「総員、出発!」


 マリアベルの号令後、白騎士オリビア出発の指示を出し討伐隊はフリント方向に向けて出立した。




   ◇    ◇    ◇




 野営場所から出立して数時間後、連続して走らせた馬を休ませる為に一行は街道で休憩を取っていた。


 レナンは自ら進んでマリアベルの馬車を曳く馬に水桶で水を与えた。そして馬の背を(さす)り、その疲れを癒す。


 

 そんなレナンに声を掛ける者が居た。



 「……御苦労様、レナン……」


 「いいえ、好きでやらして貰っているので気にしないで下さい、オリビアさん」


 レナンに声を掛けたのは白騎士のオリビアだった。彼女は話を続ける。


 「昨日は……災難だったな?」


 「いえ……結果的に何か大騒ぎになってしまって……ご免なさい……」


 オリビアはレナンと一緒に馬の背を摩りながら昨日の夜の騒動を振り返りレナンを労う。


 対してレナンはあのバカ騒ぎの一因(マリアベルが大暴れした)が自分に有る様に思い侘びた。


 「……君は何も悪くない……。アレは初めての自分に戸惑うマリアベル様の八つ当たりだ……。フフフ……巻き込まれた冒険者達が可愛そうだったが……」


 「マリアベルの……戸惑い?」


 微笑ながら話すオリビアの言葉に、レナンは問い直す。対してオリビアはレナンの肩を叩き朗らかに答えた。


 「君には感謝している、レナン……。君に出会ってからのマリアベル様は……本当に嬉しそうだ……。私は彼女に仕えて長いが……あんなお姿を見るのは初めてだ……」


 「そう……なんですか? まぁ……耳を見てると面白いですが……。でも……僕は……」


 「……君の気持ちは分ってる心算だ。その心に誰が居るかも……。それでも今は、マリアベル様の横に居てくれないか?」


 「今は……そうするしか無いので……」


 オリビアの願いを受け、レナンは俯きながら答えた。対してオリビアは彼の背を叩き優しく(ささや)いた。


 「……恩に着る……」


 「いいえ……うん? 何だ……この音?」


 そんな会話を続けていたオリビアとレナンだったが、彼は遠くから響く音を感じ呟いた。


 そして何気に馬の水桶を見ると、何かの振動で波紋が一定間隔で生じていた。レナンはその様子を見て、地面に耳を当てた。


 すると……。


 “ドオン……ドオン”


 一定間隔で生じる地響き音を聞き取った。しかもその音は徐々に大きくなっている。


 「何か……近付いている!?」


 レナンは確実に此方に向かってくる“何か”の存在を感じ取ったのだった……。




一部見直しました。

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