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50)友人達

 家族達に見送られティアは王都へ向かう馬車の中に居た。その馬車の中には……。


 「……ティアちゃん、もう大丈夫? どこか辛い所無い?」


 「ミミリ……お前、ティアに其れ聞くの馬車乗ってから4回目だぞ?」


 湖畔の別荘での事件の後、やたらティアに対して過保護になったミミリに対し、バルドが釘を刺す。


 ミミリとバルドは現在3級の冒険者でティアとレナンの共通の友人だ。彼らがティアと共に王都に向かっているのには理由が有る。


 元領主トルスティンから二人に対して、王都学園寮に住む事になるティアの護衛と、並びに王都に居るレナンの情報取集、そして友人として相談役になる事を正式に依頼されたのだ。


 また、ティアと仲の良い二人が同じ馬車に乗る事で、ティアの気が紛れるという親心もあった。


 トルスティンの予想通り、馬車の中は静かになる事は無く、大いにティアは助かった。静かになるとレナンの事を考えてしまうからだ。




 馬車の中でミミリに過保護に心配されたり、バルドに軽く扱われたりしていたティアだったが……。


 「……有難う、ミミリ……私はもう大丈夫よ! だけど……バルド……もう少し気にしてくれても良いんじゃないかしら? これでもちょっと前はベッドから出られなかったのよ?」


 「何言ってやがる、ティア御嬢さんよ! 聞いたぜ? アンタ、あの性悪女のソーニャって奴を相手に掴み合いの大ゲンカしたらしいな! それ聞いて胸がスーッとしたぞ!」


 不満を言ったティアに対しバルドは笑いながら答えた。そこにミミリが割り込む。


 「わ、笑いごとじゃないよ!? バル君! 女の子の顔に傷でも付いたらどうするのよ!」


 「大丈夫! アイツの顔にも2、3発良いの食らわしてやったから!」


 「ティアちゃん!」


 「アハハハ!!」


 ミミリの気遣いを余所に胸を張って答えるティア。対してミミリは声を大にして注意し、横に居たバルドは大声で笑った。 



 一頻(ひとしき)り笑った3人だったが、ここでバルドがティアに問う。


 「……所で、ティア御嬢さんよ……レナン、取り戻すって言ってたが……具体的にどうする心算だ? 何て言っても、レナンを連れ去った相手は国王だぜ? まさか国王相手に取っ組み合いのケンカする訳にはいかねーぞ?」


 「……分ってるわよ! 本当は思いっ切りぶん殴ってやりたいけど……、それやったらアルテリアを守ろうとしているレナンの努力が無駄になる……。

 そこで考えたの。どうして国王はレナンを連れ去ったんだろうって。きっとそれは……国王が、レナンの強い力を当てにしているから、だと思うの。

 だから、私は強い冒険者になって……レナンより、マリアベルって奴より絶対強くなって見せる! そうすれば彼らはレナンに(こだわ)らない筈よ」


 バルドの問いに答えたティアに対し、ミミリが(たず)ねる。


 「冒険者? でもティアちゃん……騎士にもなりたいって言ってなかった?」


 「確かに最初はね……。だけど……今の私にとって騎士は……もう遠い存在だわ。私はレナンを国王や黒騎士マリアベルから取り戻そうとしている……そんな私にとって忠誠が求められる騎士は重荷よ。

 それに改めて調べたんだけど……騎士になるには時間が掛かる。侍従(側仕え)した後、就任試験を経て叙勲(じょくん)でしょ? 今から其れを始めたら騎士になるまで時間が掛かり過ぎる。冒険者なら学生と併用でも出来るしね。今の私には待っている時間なんか無いわ!」


 ミミリの問いに対しきっぱりと言い切ったティア。横に居たバルドが心配そうに話す。


 「と言う事は、俺らと同業者になる訳か? だけど……本気で危ないぜ、この業界。俺もレナンに何度も命を助けて貰ってたし……」


 「……危険は承知よ。だけどじっとしてなんてしてられない。国王やマリアベルからレナンを取り戻す為には……それ位しないとダメだと思う。

 それに危険なのは私だけじゃない。最前線で戦わされるレナンの方がずっと危険だわ……。そう考えるとノンビリなんてする余裕はないよ」


 「「…………」」


 バルドの心配を受けてティアは真面目な顔をして答える。ティアの真剣な言葉は、バルドやミミリの心に響いた様だ。


 彼らは意外な思いと感心した様子で、黙ってティアの言葉を聞いていた。ティアの言葉は彼女なりに良く考えた上での発言だ。



 いつもの直感で動き考えのない行動を取るティアとは別人の様だ。彼女の中で何かが大きく変わったのだろう。



 そんな様子のティアを見ていたバルドが彼女に力強く話す。


 「いいぜ! 俺も当然協力する! レナンの奴には数えきれない位の恩が有るんだ! 今回の件だってそうだ。アイツは俺ら領民を守る為……たった一人で……。俺もレナンの為なら何だってやるぜ?」


 「わ、私も! レナン君の為に出来るだけの事をするよ!」


 ティアの宣言を聞いたバルドとミミリが其々力強く決意を露わにするのであった。


 こうしてティアはバルド達と共に冒険者になる事を決めた。


 もっともこの事は幼少の時から憧れていた夢の為等では無く、レナンを取り返す事が大前提であり、ティアは冒険者になる事に全く浮かれていなかった。


 彼女の中では一刻も早くレナンを取り戻す事しか眼中になかったのだ。


 一行が向かう王都へはかなりの距離が有り、道中に村や関所の宿などで宿泊した。ティア達には複数の護衛騎士が付けられライラもその中に居た。


 ライラはトルスティンの(めい)を受けティアの身辺警護とアルトとの連絡役を仰せつかった。


 従って護衛騎士ライラはバルド達と同様にティアと一緒に王都に留まり、ティア達と行動を共にする事になる。



 こうして、即席では有ったがティアを中心とした冒険者のパーティ“紅き豪炎”が誕生する事となった……。




  ◇    ◇    ◇




 アルテリアの都市、アルトから出立し3日目の午前、ティア達はロデリア王国の王都に辿り着いた。


 自分達を護衛してくれたアルトの騎士達を共に食事をしながら労い、彼等とは別れた。


 その後ティア達は先ずはギルドでライラとティアの冒険者登録と、バルド達の移転登録を行った。



 ギルドで必要な手続きを行った後、バルドはティアに問い掛ける。



 「……さて、面倒な手続き全部終わったし……これからどうすんだ? 武器屋で装備とか整えるか?」


 「その前に……私は謝らなくちゃいけない人達がいる……。もう会ってもくれないかも知れないけど……、それでも会わなくちゃ」


 バルドの問いにティアは(うつむ)きがちで答えた。


 彼女が言うのはティアの学友であるリナとジョゼの事だ。ソーニャに踊らされてる時、ティアはリナ達に酷い態度を取ってしまった。


 レナンを失って自らの愚かさを思い知ったティアはリナ達に直接会って何とか謝罪したかったのだ。リナ達はティアと同じで今頃は実家から学園寮に戻って来ている筈だった。


 その為、ティアは学園寮で彼女達の元に向かいたかったのだ。



 ティアの言葉で、其れを察したバルドは気を遣って答えた。


 「……そうか、ちゃんと怒られて来いよ? あの子らはお前の事、凄く心配してたからな。それじゃ、俺は武器屋に行こうと思うが……ミミリ、お前はティアに一緒に居るか?」


 「う、うん! ティアちゃん……もし、良かったら私も一緒に行って良い?」


 気を遣ったバルドに促されたミミリは願っても無い彼の提案に、喜んでティアに確認を取った。対してティアは涙を浮かべながら答えた。


 「……あ、有難う……二人とも……」


 そんな3人の様子を見ていたライラは朗らかに答えた。


 「私も、護衛の立場でティアお嬢様から離れる訳に参りませんので、お邪魔でしょうが御一緒致します」


 「ライラも有難う……」


 こうしてティア達3人はリナ達が居る学園寮に向かうのだった。




   ◇    ◇    ◇




 学園寮に向かったティア達は入寮手続きを経て真っ直ぐリナ達の元に向かった。


 幸い探し人達は食堂のカフェスペースで直ぐに見つかった。ティアが彼女達を見た瞬間、涙が止まらなくなったが、何とか泣き崩れずにお詫びしようと近づいたが……


 “ガバ!”


 逆に泣いているティアの姿を見つけたリナとジョゼが二人してティアに抱き着いて、その頭を優しく撫でるのであった……。



 追)一部見直しました!

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