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49)彼に会いに

 ティアが力強く立ち上がった様子を見たソーニャは部屋を出ようとしたが、途中で止まり呟いた。


 「……快気祝いよ、ティア。良い事教えて上げる。レナンお兄さまは、お姉さまの配慮で王都の学園に通われる。貴女と私が通う、あの学園にね……。

 学園でならレナンお兄さまとお会い出来るでしょう……。さぁ、ティア……貴女は彼に会われますか?」


 「……当り前よ、行くに決まってるでしょう!?」


 ソーニャに問われたティアはきっぱりと断言した。それを聞いたソーニャはニッコリ笑って彼女に話した。


 「良かったわ、ティア。それじゃ休み明けに学校でお会いしましょう」


 そう言ってソーニャは部屋を出た。すると背後からティアが大声で言い放つ。


 「……お前に会うんじゃない、レナンに会うんだ!」


 その声を聞いたソーニャは振り返らずに、小さく笑って部屋を出た。


 すると其処にはトルスティンやエミルが真摯(しんし)な顔をして彼女を見つめる。エミルの傍らに居たメリエは涙を流していた。


 彼らを代表しトルスティンがソーニャに話しかける。


 「……私は、君の事を誤解していた様だ……ソーニャ君、ティアを元気付けてくれて感謝する」


 そう言って彼はソーニャに頭を下げた。対してソーニャは不意打ちを食らった様に慌てた素振りで呟いた。


 「!……べ、別に……ティアの為にやったんじゃ有りませんわ! 私はあくまでお姉さまの為に……」


 「それでもだ、それでも礼を言わせて欲しい。有難う」


 照れるソーニャに対しトルスティンは真摯(しんし)に話す。エミルとメリエも同様に礼を言った。


 対してソーニャは真っ赤な顔をして返す。


 「……さ、流石にレナンお兄様のお父様だけあって……礼を言う所が同じ様にズレてますわ。

 と、とにかく……ティア嬢は元気になられた様子。この事をレナンお兄様に伝え、休み明けの学園で彼女と会える事が分れば、心も晴れるでしょう。

 私は役目が終わりましたので戻らせて頂きますわ。それでは失礼いたします」


 「ああ、道中気を付けて帰ってくれ。それと……居間で言った言葉は取り消すよ、いつでもこのアルテリアに来てくれ。ティア息子レナンの友人として……」


 ソーニャの言葉にトルスティンは朗らかに答えた。対してソーニャは無言で(うなず)き、更に顏を赤くして足早に部屋を後にするのであった……。




   ◇   ◇   ◇




 夏も終わりが近づき、新しい季節が巡ろうとする頃。ティアは自室で旅の支度をしていた。


 化粧台の前で髪を整え、自身の顔周りをチェックする。


 「よし! バッチリね!」


 明るく一人呟いた、エミルだったが部屋の入り口からノックされる音が聞こえる。


 振り返るとメイド長のエバンヌだった。



 ちなみにティアの自室のドアは、ソーニャが火球魔法で破壊したまま、修理されていなかった。


 エミルが早く修理するよう手配を掛けてくれたが、他ならぬティア自身が断った。


 彼女曰く“過去の自分への決別”というゲン担ぎらしい。



 メイド長のエバンヌが明るくティアに声を掛ける。


 「ティアお嬢様、出立の準備は済みましたか?」


 「ええ、ばっちりよ! 何時でも出れるわ」


 「左様ですか……、レナン様も王都に行かれ……ティアお嬢様も王都に旅立たれる……。寂しくなりますわ……」


 ティアの明るい返事を受けたエバンヌは寂しそうな顔を浮かべて呟く。対してティアは彼女を抱き締め(ささや)く。


 「私が此処まで元気になれたのは……エバンヌの看病のお陰だよ……。本当に有難う」


 「……ティアお嬢様……」


 素直に自分に礼を言ったティアに対し、エバンヌは彼女の成長と、心変わりを感じた気がした。


 その事が嬉しくそっと指で涙を(すく)いながら泣き笑って続けた。


 「……行ってらっしゃいませ、ティアお嬢様……。レナン様と共に戻られる事を、このエバンヌ……お待ちしております」


 「うん! 任しといて!」


 ティアは明るくそう言って、荷物を持って部屋を出た。母への挨拶と、約束の場所に向う為だ。



 墓地へ向かったティアは母のマリナの墓前に立った。


 すると母の墓前には摘み取られたばかりの花が捧げられている。よく見ると異界の旅人、エンリの墓前にも一凛捧げられている。


 ティアは誰が先ほどまで此処に居たのか直ぐに分かり、微笑みを浮かべる。



 “これなら、約束の場所に行けば会えそうだ”そう考えたティアは微笑みを浮かべたまま、墓前の母と異界の旅人エンリに祈りをささげる。


 (……お母さま……そしてエンリさん……本当に御免なさい……私は、物凄い遠回りをしてしまった……。その所為で……大切な人を……。

 だけど、もう一度誓うわ。私はもう二度と彼を、レナンを手放さない……。お母さま、エンリさん……どうか、私に力を貸して……お願い!!)


 一頻(ひとしき)り祈ったティアは涙で赤くなった目を真っ直ぐ前に向けて、墓前の母とエンリに別れを言った。


 「お母さま、エンリさん……私、もう行くね! また……会いに来るから……」


 そう呟いて、ティアは墓場を後にした。旅立つ前にレナンとの約束の場所で、誓いを立てる為だ。


 

 墓場からティアが向かった先はーー



 レナンと初めて出会い、そして彼を守ることを最初に誓った、“箱庭”だった……。


 “箱庭”にはティアの予想通り、先客が来ていた様だ。その先客……父、トルスティンがティアに声を掛ける。


 「……遅かったな……ティア……母さんには挨拶をして来たのか?」


 「うん、お母様だけじゃなく……エンリさんにも挨拶してきたよ……」


 「そうか……」


 ティアの返事に、ただ一言だけ呟いてトルスティンは、“箱庭”に置かれたままになっている、母マリナが遺した道具類を懐かしそうに、愛おしそうに見つめる。


 「「…………」」


 トルスティンとティアの間に沈黙が支配した。


 

 

 (しばら)く静かな時間が二人の間に流れたが、意を決してティアが話し出した。


 「お、お父様! 本当に御免なさい! 謝って済む事じゃ無い事は分ってる! 

 だけど……私は大変な事をしてしまった、そしてその所為でレナンが……。 ほ、本当に……うぐ……ぐす……うう、本当に……」


 ティアは真摯(しんし)に父に謝罪した。謝罪の途中、彼女は感極まって泣き出してしまい、最後の方は言葉にならなかった。



 そんなティアを見ていた父、トルスティンは、そっと彼女を抱き締め(ささや)く。


 「……お前は何一つ悪くない……。悪いのは全てこの私だ。私が上手く立ち回れば、レナンを連れ去られずに済んだかもしれん。しかし私がやった事は王命に(そむ)いた隠蔽工作だ……。

 結果的に領民を危機に(おとしい)れレナンに大きな負担を掛けてしまった。そして……お前にも辛い思いを……本当に済まなかった……」


 「ち、違う! お父様は、お父様は! ううう、うああああああぁ!!」


 トルスティンの謝罪に、ティアは必死で否定しようとしたが感極まって号泣してしまう。


 対してトルスティンも静かに涙を流すのであった。そんな二人の様子を“箱庭”の開かれたドアの外側から涙ながらに見つめる者達が居る。エミルとその妻メリエだ。


 (しばら)く、ティアと父の様子を見ていた二人だったが、我慢出来なくなったメリエが駆け寄り、ティアを背後から抱き締めた。


 そしてエミルも父トルスティンの肩を(さす)るのであった。

 



 一頻(ひとしき)り泣いてすっきりしたティア。泣いた後の腫れぼったい目をしながらトルスティン達に誓う。


 「……お父様、エミル兄様、メリエ姉様……。レナンが連れ去られたのは私の所為……だけどレナン自身の気持ちは、このアルテリアに有るの……。

 だから私は約束するわ! もう一度、レナンをここに連れて帰る!」


 ティアはそう言って声を出して誓う。その手にはソーニャから託されたレナンの手紙を懐から出して握り締めていた。



 こうして、自らの愚かさによりレナンを失った事で慟哭(どうこく)し嘆き苦しんだティアは、マリアベルにより奪われた彼を取り戻す為、再度立ち上がった。


 その道が長く険しい道になる事を感じながらも、彼女は絶対に諦めないと強く決意しながら……。


いつも読んで頂き有難う御座います!

 次話は「2章終了時の人物紹介」で明日投稿予定です。宜しくお願いします!


 読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

 追)一部見直しました!

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