38)王都に向けて
オリビア達が準備した“鏡鳴”は王都に居るソーニャと繋がった様だ。マリアベルが彼女に説明した。
「……という訳で、レナンの確保は成功した。そっちはどうだ?」
“こちらも既に準備完了ですわ……後は役者が揃うだけ……所でお姉さま、そこに白き勇者が居るのならご挨拶がしたいのですが?”
ソーニャにそう言われたレナンは、マリアベルに促されて簡易テーブルの上に置かれた銀皿の前に座った。
皿の水面にはブロンドをワンカールした非常に可愛らしい顔の少女が映っている。その少女が微笑んで話し掛けてきた。
“初めまして……白き勇者のレナン殿……貴方を追い掛けて、約一年……漸くお会い出来ました……私はソーニャ、そこに居られる黒騎士マリアベルの妹に当たります。
さて……貴方が気にされているティアさんですが……フフフ……現在の所、脳内絶賛お花畑中です……。
騙されて慰み者になるとも知れず……喜喜として愚かな男の元に向かおうとしている最中ですが……助けて欲しいですか?“
水鏡に映る可憐な少女は花の様な笑顔で、レナンを脅迫してくる。対して彼は憮然として答えた。
「……当たり前だ……僕が忠誠を誓う代わりに必ず守ると言う約束だけど?」
“確かに貴方がその様に誓ったとは聞いています……ですが私は心配性でして……もう一度確認させて頂きたいのです”
そう言って迫るソーニャに対し、レナンは不快感を露わにして問い返した。
「何故君に? 僕は黒騎士さんと約束を交わしたが?」
“フフフ……舞台を作った者としては、その仕上がりを確認したいのです”
「……このやり方……君の策か?」
“それで……再確認ですが……お約束頂けますか? 黒騎士マリアベルの所有物となり、忠誠を誓うと……そして身も心も捧げ生涯を共に過ごす事を”
「……諄な……さっきも言った通りだ。ティアとアルテリアの皆を守ると約束するならば、そう誓おう」
きっぱりと言い切ったレナンを見て、ソーニャは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに続けた。
“そうですか……オリビア……例の物を“
「はい、ソーニャ様」
レナンの言葉を受けたソーニャは、控えていた白騎士オリビアに声を掛けた。
彼女は意図を分っていた様で、小箱から何かを取り出した。それは毒々しい程真っ赤な首輪だった。
“なれば、この誓いの首輪を……この魔道具は私達に貴方の声やと居場所そして周囲の状況を教えてくれます。
この首輪は有る呪文でしか外れません。無理やり外しても直ぐに私達に伝わりますわ。この首輪を付け、黒騎士マリアベルの所有物であるという誓いを示して下さい……”
そう言ったソーニャに合わせる様にオリビエは赤い首輪を差し出す。対してレナンは下らなそうに呟く。
「悪趣味だね……」
レナンはそう吐き捨てて迷わず赤い首輪をはめた。すると首輪は一瞬白く光り輝いた。その様子を見たソーニャはニコニコしながら伝える。
“確かに……此れで貴方は私達の家族です。ティア嬢の事はお任せ下さい。彼女とは良き友人で……義理の姉に成る訳ですから“
「え? どういう……?」
“それでは失礼します。マリアベルお姉さま、ご婚約おめでとう御座います! レナンお兄様、これから宜しくお願いします”
「は? な、何て今、言った……」
そう言って唐突に消えた通信魔法。対するレナンは意味が分らない。
レナンはマリアベルがオッサンだと信じ切っている。それはそうだろう。以前襲われた時の筋肉全開の戦いを見れば、恐ろしい鎧の下はむさ苦しい男だと誰もが信じるに違いない。
そんな中、ソーニャが最後に言った“お姉さま”発言と“レナンお兄様”という不穏な言葉。以前バルドが言っていた事を思い出す。
(……そう言えばバルドが言ってたな……男でも女の人の言葉をしゃべるオネェなる人達が居るって……。ぞれじゃ黒騎士さんがオネェなる人なのか……? でも婚約って一体どういう事? まさか相手は……僕か!?)
レナンは一体どういう事なのか考えて、恐ろしい仮説に思い当たる。そこに横からマリアベルが止めを刺す。
「そう言う事だ……お前と私は夫婦となり、生涯を共に過ごす事になろう。そう言えばお前はまだ成人していないから、暫くは婚約と言う形になろうが……宜しく頼む、レナン」
「……いや、男同志は結婚出来ないよ!?」
マリアベルの夫婦宣言で、目が点になりながらも反論するレナン。その様子を見たマリアベルとオリビアやレニータ達は意地悪い笑いを浮かべて笑い出す。
「ハハハ、これは王都に着いた後が楽しみだな!」
そう笑うマリアベルの様子を見て呟くレナン。
「……王都では……男同志でも結婚出来るのか……ハァァ……帰りたいよ……僕……」
がっくりと半泣きで項垂れるレナンを見て、笑うマリアベル達であった。
暫く笑い合った三人だったが、ここでマリアベルが真面目な顔でレナンに話す。
「……お前にこれを渡したい……お前の父、トルスティン殿からだ……」
そう言ってマリアベルは宝剣マフティルをレナンに渡す。
「……これは……父上が持っていた……」
「その剣は宝剣マフティル。持つ者の命を吸う代償に恐るべき力を発すると言う剣だ。
その剣は異界から落ちて来たと伝えられている。真の強者にしか扱えぬと言われるが、トルスティン殿はお前になら使い熟せると思った様だ」
マリアベルは静かに語るが、レナンはそっと宝剣を抱き締めて、涙を溢し呟く。
「……父上……」
「大切にすると良い……」
静かに涙するレナンの様子を見てマリアベルは一言だけ声を掛けて窓を見つめた。馬車の中は静かで切ない空気に包まれたのだった……。
◇ ◇ ◇
一方、王都の学園にて……唆され、熱に浮かれてクズ男の毒牙に自ら向かおうとしているティアを何とか救おうと活動中のリナが、ティアに直接説得に行ったジョゼにその結果について問い掛けていた。
「どうだったジョゼ? ティアの奴……何か言ってたか!?」
「ううん、ダメ……会ってもくれないし……渡した手紙も読んでないみたい……私じゃダメかと思って、別な友達にも話して貰ったんだけど……聞く耳を持たなかったみたいなの……」
聞いてきたリナに対し、ジョゼは落ち込みながら呟く。その様子にリナも右手を額において呻く。
「……そうか……ティアの馬鹿野郎……仕方ない、後はミミリって子だな。冒険者ギルドには言伝を頼んである。その子が尋ねたら伝わるだろう。今日にでも行ってみようか」
「うん……そうだね……」
リナの言葉にジョゼは力なく答えた。
◇ ◇ ◇
所変わって、王都の冒険者ギルド。二人の若い冒険者が歴史ある重厚なギルドの門を前にして盛大に溜息を付きながら呟く。
「……広い……広すぎる……ギルド探すだけでも……こんなに疲れるとは……」
「そうだね……アルトからここに来るのに大分掛かったし、余計にそう感じるね」
バルドの呟きに、ミミリが相槌を打つ。対してバルドは真剣な顔をしてミミリに答える。
「……だけどよ……収穫は有ったぜ」
「うん……王都の関所で止められていた私達の手紙……そして其れを指示したマリアベル フォーセルって人とか……色々分ったね」
二人はレナンに頼まれてレナンやミミルの手紙が、どうなっているのか関所で調べて貰った。関所では手紙を始めとする運搬物資の仕分けが行なわれる。
関所で手紙がどうなったか調べた結果、レナンとミミリ……それとティアの手紙は王都に居るマリアベル フォーセルという貴族の命令で止められていた。
その事実が分るまでに時間が掛かってしまったのだ。
「……これをティアちゃんに早く見せないと……」
ミミリはそう呟いて関所で回収した手紙の束を握り締める。
対してバルドは関所に居る派遣ギルド職員に言付けされた事を思い出しながら話す。
「ああ……それとリナって子か……このギルドに寄らないとダメなんだっけ……」
「うん……ティアちゃんの友達だね……言付けされたって事は何か有ったのかな?」
リナは王都ギルドで、アルテリアに居る筈のミミリに連絡を依頼した。
大至急対応指示だった為、魔鳥を使ってその日中にアルテリアのギルドに連絡を取って貰ったが、既にミミリ達は王都に向け出た後だった為、アルテリアのギルドは又、魔鳥を使って王都ギルドと関所に其々連絡を入れた次第だった。
「……とにかく……リナって子に会わないとな……ギルドの中で待っているらしいから、中に入ろうぜ」
「う、うん!」
そんな事を言いながら、王都の冒険者ギルドの中に入る二人。するとギルドの待合室に置かれたダイニングテーブルに、待ち疲れた様子で座る二人の少女と目があった。
「あ……もしかして」
「……ミミリさん?」
こうして、ティアを案ずる友人達は漸く出会う事が出来たのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
次話は「39)そして舞台へと演者は集う」で明日投稿予定です! 何卒よろしくお願いします!
追)一部見直しました!
追2)一部見直しました!
追3)人物名見直しました