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37)マリアベルの正体

 レナンが去った後、裏庭にはトルスティンと黒騎士マリアベル、そして白騎士オリビアが残っていた。



 (しばら)く無言が続いていたが、トルスティンが重く口を開きマリアベルに呟いた。


 「よくも……やってくれたな……」


 そう呟き、漆黒の鎧を(まと)ったマリアベルに掴み掛かろうと前に出るが、白騎士オリビアに制止された。



 オリビアに(さえぎ)られながらもマリアベルを(にら)みつけるトルスティンに、彼女は本心で答えようと考えた。



 その為にマリアベルは漆黒の兜を外して、素顔をトルスティンに現した。



 野性味溢(あふ)れるが、とても美しいその素顔に特徴的な長い耳。その瞳は強い意志を(たた)え、真っ直ぐトルスティンを見つめる。


 対するトルスティンは、不気味な鎧を(まと)った黒騎士の正体が美しい女性だった事に呆気(あっけ)に取られ、一瞬言葉を失ったが静かに呟いた。



 「……その耳……亜人族……そうか、戦鬼の者か……だからこそ、あの強さと言う訳か……しかし、まさか……うら若き女性とは思わなかったよ……」


 毒気が抜けて柔らかい口調になったトルスティンに一瞬微笑んだマリアベルは、彼の目を見て呟いた。


 「トルスティン卿……王命とは言え……貴殿の息子に関しては不憫(ふびん)にも思う。だが……安心召されよ、貴殿の息子レナンを使い(つぶ)す様な事にはさせぬと誓おう」


 「……全ては陛下の采配で決まる事……そなたの一存では何も出来まい……」


 マリアベルの言葉にトルスティンは(いぶか)しんで答えた。


 「陛下とて、王国の行く末を案ずるが故に今回の沙汰となった……レナンの働きを知れば無下には為さらない筈。それに、私も長らく黒騎士として仕えている身……レナンの扱いについて私からも陛下に進言しよう」


 「……そなた等は私の娘と息子を罠にかけ……(おとしい)れた……どの様な言葉を掛けられようが虚しく響くだけ……だが……口惜しいが今の所、そなたに息子と娘の命運を託すしか無さそうだ……レナンと交わした約定……改めて守ると誓ってくれ」


 「ああ……約束しよう」


 トルスティンの問いに、マリアベルは力強く答えた。対するトルスティンは右手に持っていた宝剣を彼女に差し出し、静かに話す。


 「……この宝剣をレナンに……この剣は異界から(もたら)されたとされる業物(わざもの)……レナンの助けに為るかも知れん。彼奴(きゃつ)に渡してくれ……それと……この愚かな父を許せ、と伝えて欲しい……」


 差し出された宝剣を受け取ったマリアベルは真摯(しんし)にトルスティンに答える。


 「承知……宝剣マフティルを必ずレナンに届けよう……それでは我等は王都に向かう故、失礼する」


 「……くれぐれもレナンとティアを頼む」


 立ち去るマリアベル達に、背後から絞り出す様に子供達の事を頼むトルスティン。対してマリアベルは振り向いて力強く(うなず)くのであった。




   ◇   ◇   ◇




 「宜しいのですか!? あの様な無礼な振る舞いを許して!」


 馬車へ向かうマリアベルに対し白騎士オリビアが憤慨(ふんがい)しながら問う。


 「トルスティン卿には私の素性を明かす訳にいかん……あの場で急に(かしこ)まれても困るしな……。今回の沙汰は例え陛下の、いや叔父上の王命とて……道義的には我等が悪い」


 マリアベルは苦笑しながら、怒るオリビエを(なだ)める。


 「しかし……だからと言って王命に(そむ)いた伯爵について処置が無罪放免とは……姫殿下は余りに甘過ぎます!」


 「元より、叔父上からは伯爵の沙汰は私に一任すると言われていたのだ。私の目的はあくまでレナン……。彼の者が我が手に有れば、その他はどうでも良い事だ。

 それに……絶大な力を持つレナンが、心正しく育ったのは間違いなく伯爵の教えが正しかった為だ。その貢献を考えれば当然の処置と私は考える。お前は私の判断が不満か?」 


 「い、いえ……決してその様な……出過ぎた真似をお許しください」


 マリアベルは苦笑しながらオリビアに問うたが、対する彼女は慌てて同意した。





 白騎士オリビアがマリアベルに対して(かしこ)まる理由は、彼女の生い立ちに理由が有った。



 マリアベルは先代黒騎士を母に持ち、彼女の父は現国王の弟であるマドニス フォン ロデリアだった。つまりマリアベルは国王の姪に当たる姫殿下だった。


 マリアベルの母ゼナはロデリア王国に残留していたオーガ族の一人だったが、傭兵として活躍し、やがて先代黒騎士となった。


 そして母ゼナは王城にてマドニスの護衛騎士として長らく共に居る内に、彼と恋仲になりマリアベルを産んだ。


 しかし病弱だったマドニスは若くして逝去(せいきょ)し、残された母ゼナは亜人であった為に正室に認められず、側室としても公式に名乗る事は許されなかった。


 その為にマリアベルは王位継承権の無い庶子として扱われた。


 王族とは言え亜人の血を引く彼女の風当たりは強く、叔父の国王カリウスですら距離を置かれていた。


 もっともカリウスの場合は溺愛していた弟の死が、マリアベルの母ゼナがもたらした様に感じていた為、マリアベルの存在を容易に受け止められなかった。


 幼少期のマリアベルは孤独で、其れを(まぎら)わす為にひたすら戦いの修練に没頭した。その結果、彼女は母のゼナ同様に黒騎士として選ばれた。

 


 元来の戦士であった母ゼナは貴族の生活を望まず、黒騎士として戦い続けたが……マリアベルが幼い時にギナル皇国による侵略戦争の際、命を掛けて此れを防ぎ戦死した。


 その為、黒騎士は英雄と扱われ戦鬼の血を引くマリアベルも母ゼナの跡を継ぎ、黒騎士としてロデリア王国を守る為に戦って来た。


 その結果、マリアベルは母ゼナ以上の功績を上げ英雄として活躍する様になったのだ。




 マリアベルは(かしこ)まるオリビアに伝える。


 「……それにな……トルスティンを断罪すればレナンは決して我等に(なび)かん。ティアの事も同じ。彼の者は夫として生涯共に居るのだ、(うれ)いを取り除いてやらんとな……。

 フフフ……これから楽しみだよ……」

 

 「はい!」


 嬉しそうなマリアベルの様子を見て、彼女の苦労を知るオリビアは素直に喜ぶのであった……。




   ◇   ◇   ◇




 王都へ向けて走る馬車の中、過ぎ去る風景を窓から無言で見つめるレナン。


 「…………」


 そんなレナンを気遣ってか、馬車の中は沈黙が支配する。


 ちなみにマリアベルは皆の目が有る為か(いか)めしい黒騎士の兜を再度被っていてその顔は(うかが)い知れない。


 気まずい雰囲気の中、気の強そうな女性である白騎士のレニータが咳払いしてレナンに声を掛けた。


 「ゲホン、ゴホン……あー……えーと、その何だ、君も災難だったが……コレも王命だから……(あきら)めた方が……」


 対してレナンは気を利かした心算のレニータを厳しい目で(にら)んで呟く。


 「……良く言うね……寄って(たか)って()めた癖に……」


 「う!」


 レナンはレニータに皮肉をぶつけた所、彼女はバツが悪そうな顔をして横を向く。


 (……この人……一応、(なぐさ)めようとしてくれたみたいだな……裏庭では泣いていたし、悪い人では無いのかも……そもそも彼らは国王の指示で動いている訳だから……諸悪の根源は国王か……)


 レナンは状況を整理し自分を連れ去る騎士達についてある程度の理解を示したが、敢えて口に出さず、其れよりも気になって仕方がない事をマリアベルに問う。


 「黒騎士さん……ティアは……ティアは本当に大丈夫なんでしょうね?」


 「……流石に気になるか……いいだろう……オリビア、レニータ、鏡鳴の準備を」


 マリアベルはレナンの問いに答える為、遠隔通信魔法の準備をさせたのだった。


いつも読んで頂き有難う御座います!

次話は「38)王都に向けて」で明日投稿予定です。何卒宜しくお願いします!



追)一部見直しました!

追)一部見直しました!

追)人物名見直しました。

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