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36)別れの時

 レナンは震える体で宝剣を構える父の姿を見て叫ぶ。


 「父上! 此処は僕にお任せを!」


 「控えよ!! こ、此処は我が戦場! お前の出る幕では無いわ!! い、いざ勝負!」


 既に立つ事も(まま)ならない筈のトルスティンはレナンの叫びに答えず、マリアベルに切り掛かる。


 しかし先程までの勢いは何処にも無く、宝剣を持つ事すら辛そうだ。しかし彼は挫けず、宝剣をマリアベルに切り付ける。


 “キィン! ガイン! キン!”


 マリアベルはトルスティンの弱弱しい斬撃を大剣で軽く受けていたが、隙だらけだった為に前足でトルスティンを蹴り倒した。


 “ドガァ!!” 


 「うぐ!!」



 仰向けに倒れたトルスティンの喉元に大剣を突き付けるマリアベル。



 その様子を見たレナンはもはや、我慢が出来なかった。彼は異形の右手を白く光らせ、光の如く恐るべき速さで動いた。


 “キキキキキン!!”


 剣を構えていたオリビエを始めとする騎士達は、レナンの姿が白くブレたと思った途端、鳴り響いた甲高い音に辺りを見回した。


 すると……。


 “ゴトン、カン、カラン”


 オリビア達が構えていた剣が輝く程に綺麗な切り口で切断され、地面に落ちて間抜けな音を立てた。


 「ば、馬鹿な!?」


 「一体何が!?」


 オリビア達は何が起こったのか分らず口々に叫ぶ。よく見れば黒騎士マリアベルの大剣も同じだ。


 根本から輝く光沢を放つ切断面を見せ、真っ二つに切断されていた。


 そのマリアベルは強い戦慄(せんりつ)を覚えながら、同時に歓喜しながら嬉しそうに叫ぶ。


 「ハハハ!! 何という恐るべき強さ! これでこそ、我が夫だ!!」


 

 多くの騎士達の剣を瞬時に切って見せたレナンは、地面に転がされていた父を先程まで自分が居た場所に座らせた。


 そしてレナンはゆっくりと立ち上がりマリアベルに厳しい目を向け対峙(たいじ)した。


 そして彼女の叫びを聞いたレナンは(いぶか)しみながらも、怒りを(あら)わにして呟く。


 「……相変わらず、おかしな事を言う……。だけど……僕の父を愚弄(ぐろう)した事は許さない。……今度は本気で叩き潰す……」


 「よ、よせ……止めるんだ……レナン」


 マリアベルと本気で戦う為、彼女に向かってゆっくり歩き出す。


 その強い気持ちを表すが如く右手の甲にある宝石状の器官が突如激しく輝きだした。その様子に、横に居たトルスティンは彼を制止した。



 異形の右手に(まばゆ)い光を放ちながら、自分達の方に向かってくるレナンに剣を切断されたオリビエ達を始めとする騎士達は本能的に恐怖し後ずさりしたが、マリアベルは恐れず叫ぶ。



 「レナンよ! 良く聞け! お前の父は、お前を守る為に王命に(そむ)いた! 謀反(むほん)の罪は重くアルテリア伯爵家は爵位を剥奪(はくだつ)の上、御家取り(つぶ)しになろう!!」


 「な、何だって!? 父上!?」


 マリアベルの叫びを聞いて驚愕(きょうがく)したレナンは後ろを振り返って父トルスティンに問う。


 対する父は疲労の為、辛そうに大声でレナンに答える。


 「お、お前には関係の無い話だ! ハァハァ……む、息子を戦争の道具に差し出してまで……うぐ、爵位などには(こだわ)らぬ!」


 トルスティンの覚悟を聞いたマリアベルは内心、彼に敬意を払いながら妹のソーニャから(おく)られた禁断の手を使った。



 「……ほう……(いさぎよ)い覚悟だ……だが、お前の娘……ティアはどうなる?」


 「おのれ……卑怯な……!」


 ティアの名を出されたトルスティンは言葉に詰まった。横に居たレナンは、ここでティアの名が出て来る意味が分らずマリアベルに問う。


 「……どういう事だ? ティアに一体……何が有った……?」


 「……教えてやろう……レナン……お前の婚約者のティアは、愚かにも下らぬ男に(そそのか)され、熱に浮かれて自らの意志でお前との婚約を破棄した……そればかりか……今まさにティアは、その男に(なぐさ)み者にならんとしている」


 「!! な、何だって!?」



 マリアベルの言葉にレナンは驚きを隠せない。対してマリアベルはレナンの魂を縛る悪魔の言葉を彼に(ささや)く。


 「この状況を救う方法が唯一つだけ有る……そして、それはお前しか出来ない事だ」


 「聞こう」 

 

 「よせ! レナン!」


 マリアベルの(ささや)きにレナンは即答し、トルスティンは大声で制止する。


 


 黒騎士は静かに続ける。愛しい彼の魂を縛る為に。




 「王命に従い……そして我が物となると誓えば……お前の父の罪を不問とし、このアルテリアと……お前の大切なティアを守ると約束しよう」


 マリアベルの言葉を受けたレナンは頭の中で冷静に状況を整理する。


 (……王命に(そむ)いた、という事は国王より領地を預かる伯爵としては致命的な罪だ……。 

 思えば僕の髪を黒く染める事や婚約の姿絵を配った事も不自然だった。……恐らく僕は国王から召集されていて……父上は僕を守る為に偽装したのか……そしてティアとの婚約破棄も……多分国王側の手が……これは……もう……どうしようもないな……)


 自分達が置かれた状況を検証した結果、迫る危機が回避出来ない状況にあると判断したレナンは、マリアベルの(ささや)きに(いさぎよ)く答えた。


 「……誓います」


 「レ、レナン!!」


 黒騎士に誓いを立てたレナン。その様子を見たトルスティンはヨロヨロと立ち上がりレナンに(すが)って叫ぶ。


 「レ、レナン! 悪いのは全てこの私だ!お前が全てを背負う必要は無い!」


 「父上……僕を守ろうとしてくれて……有難う……だけど、今度は僕の番だ。僕に……皆とティアを守らせて欲しい……」


 そう言ってレナンは涙を流しながら、父を抱擁(ほうよう)する。


 対するトルスティンは気が抜けた様に両手を降ろしレナンに抱かれている。だがその両目からは涙が(あふ)れていた。



 まだ幼いレナンが父を思い泣く姿は、そこに居た騎士達の涙を誘ったのか、そっと目頭を押さえる騎士達も居る。あろう事か白騎士のレニータもそうだった。


 この場を支配した悲しい雰囲気のなか、レナンが父から離れ目を赤くした(まま)にマリアベルの前に立ち静かだが強い口調で話す。


 「……約束を(たが)えるな……もし一つでも(たが)えれば……全て灰塵(かいじん)と化すと知れ……」


 「ククク……お前の恐ろしさは、戦った私が一番分っているさ……改めて、お前の父も、このアルテリアも……そしてティアの純潔も必ず守ると約束しよう」


 強い口調で迫るレナンに対し、漆黒の鎧を(まと)ったマリアベルは改めて誓った。


 彼女の表情は(うかが)えないが、その言葉に嘘は含まれていない事はレナンにも伝わった。彼はマリアベルに言い放つ。


 「……さっさと僕を連れて行け」


 「レナン!」


 レナンの言葉を横で聞いて、我に返った父トルスティンは叫んで息子を制止しようとするが、宝剣により疲労困憊(ひろうこんぱい)した彼は息子の元に駆けよれない。


 そんな様子の父を見てレナンは微笑みながら悲しそうに呟いた。


 「……今まで有難う御座いました……父上、どうかお元気で……」


 そんな言葉を残して、レナンは騎士達に連れられて行ったのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は「37)マリアベルの正体」で、明日投稿予定です。何卒お願いします!



追)一部見直しました!

追2)一部見直しました!

追3)一部見直しました!

追4)人物名直しました。

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