369)艦内にて②
ギナル皇国へ向かう戦艦ラダ・マリーの中で……ソーニャはエリザベートを前に己が罪を告白した。
そんな中、ソーニャの罪をエリザベートと共に聞いていたフワンが沈黙を破り、陽気な彼女とは思えない程に冷たい言葉を投げ掛けた。
「なるほどですね~、それは中々の大罪人です~。確かに王都がメチャクチャにした偽神も怒る筈ですね~」
「フワン殿!?」「フワン!!」
ソーニャに対し突然、批判の言葉を投げたフワンに横に居たネビルとエリザベートが共に声を上げる。
「……さっき、ソーちゃんが言ってた“赤い首輪”の話だけど~。私、優秀な冒険者だから~情報色々集めてて~どうやら真実なんだよ~?
ソーちゃんが黒ちゃんに巻かせた首輪で~それを知った白い偽神が“誇り高きヴリトが家畜に!?”ってブチ切れて~皇都を破壊したんだって~。
だから……ソーちゃんが黒ちゃんに首輪なんてさせなかったら~白い偽神はロデリア王都を狙わずに~王都は、あんな事になって無かったかも~」
「あ……あ……」
「フワン!! 根拠の無い事を言うのは止めなさい!!」
フワンはニコニコと笑いながら、ソーニャの事を“ソーちゃん”と言いながらも、淡々と刃の様に鋭い言葉を吐き捨てる。
それを聞いたソーニャは震えながら声を漏らす。そんなソーニャを見てエリザベートは大声でフワンに叱責した。
「……根拠が無い事じゃ無いよ、ジル姉~。ソーちゃんは崩壊する王都で~白い偽神に会ったでしょ~? その時、奴等は黒ちゃんの巻かれた首輪を見て~なんて言ったかな~? 勘だけど~“不遜にも程がある!!”とか叫んでなかったっけ~? それで……その直後……誰が、どうなった?」
「うっううう……!!」
エリザベートの叱責にも関わらず、フワンは止まらず事実を冷酷に突き付けた。
思い出したくない事実を突き付けられたソーニャは、マリアベルの最期を思い出させられた。
フワンの言う通り、レナンの首に巻かれた首輪を見た、白き偽神のゼペドは激高し……その直後にマリアベルの体を引き裂いたのだ。
フワンの言った事が……何も間違って無い事を改めて思い知ったソーニャは、その場で蹲り頭を抱えて嘔吐した。
「うぐぅ!」
「……あ~あ、ばっちぃな~ソーちゃん。汚くて可哀そうね~。でも、貴女に被害者ぶってる権利は有るの~?」
「フワン!! いい加減になさい!! 何故、こんな酷い事を!?」
蹲り嘔吐したソーニャに向け、フワンは可愛らしい笑顔を向けながら、辛辣な言葉を叩き付ける。
そんなフワンにエリザベートは激怒して叫ぶが、彼女は止らない。
「だって~、こんな可愛い顏して~この子、最悪な事仕出かしたんですよ~? 黒ちゃんも~ティアちゃんも~、この子が弄した策で人生振り回されて~。調子に乗った結果……最悪な偽神を怒らせて~マリアベル姫殿下も死んじゃって~。でも、誰もこの子の事を責めないじゃないですか~。可哀そう可哀そうって……そう言うの……虫唾が走るんです~」
「…………」
「フワン!!」「フワン殿! 余りな言葉です!!」
尚も残酷な言葉を吐き捨てるフワンに、ソーニャは何も言えず蹲ったままだ。
暴言を吐き続けるフワンにエリザベートとネビルは詰め寄って怒る。
そんな中……静かな声が響く。
「……そこまでにして貰おう」
声を発したのはレナンだ。彼はいつの間にかリビングルームへと転移した様だ。
レナンは、漆黒の鎧を纏ってはいるが恐ろしげな兜は外し、素顔を見せている。
彼は素早くソーニャの元へ駆け寄り、彼女を抱きかかえた。
「どう言うつもりだ、フワン殿? 俺の妹に害成すと言うなら……今すぐ、この艦から降りて貰うぞ?」
ソーニャを抱きかかえながら、レナンはフワンに向け問う。
彼の声は静かな声であるが、強い怒りを含んでいて……その怒りを感じたエリザベートやネビルは真っ青な顔を浮かべる。
しかし、彼を怒らせたフワンは全く動じず……笑顔で返す。
「え~高度8000mから放り捨てるのは~あんまりよ~。でも……黒ちゃん。その手に抱えてるソーちゃんを妹って言ったけど~その子は貴方に取って害でしか無いんじゃないかしら~? いくらなんでも気前良すぎじゃ無い~?」
「……貴女に言われる覚えはない。誰が何と言おうと、ソーニャは俺の妹だ。ソーニャを傷付けると言うなら……唯では済まさない」
怒りを含んで恫喝する黒騎士レナン。あくまで自分の事を“妹”と言い切ったレナンの言葉を聞いてソーニャはビクリと体を震わせる。
「何より……王都を破壊したのはゼペド等だ。奴らはベルゥの指示でこの世界を侵略した。ロデリア王都が破壊されたのは早いか遅いかだけの違いに過ぎない。
だからマリアベルが死んだのはソーニャとは無関係だ。それに……ソーニャがティアを騙したのも、俺に従属を迫ったのも……王命を受けたマリアベルを想っての事。だから……ソーニャは何も悪くない」
「……そんな事言って……また庇うのね~。だけど……その子の策でティアちゃんと黒ちゃんは深く傷付き、貴方達の人生は大きく狂わされたのよ~?」
「確かにそうかも知れない……。だが、お蔭で俺はマリアベルと出会えた。その事が俺に取って全てだ」
「……レ……レナン……」
「「「…………」」」
笑顔で静かに問うフワンに、レナンは何処までも迷いなく言い切る。彼の中では本気でそう思っている様だ。
レナンの迷いない思いを知って、ソーニャは思わず顔を上げて彼の名を呼び……他の者達は言葉無く黙り込む。
「……はぁ……ホント、そ…ね……」
そんな中、フワンは呆れた様に盛大に溜息を付いて、何かを呟くが……その声は小さく誰にも聞き取れなかった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/11(日)投稿予定です、宜しくお願いします!