368)艦内にて①
ティアがギナル皇国へ仲間達と向かうと決めた頃……黒騎士レナンは戦艦ラダ・マリーに乗っていた。
ラダ・マリーにはレナンの他、ソーニャと亜人の国アメントスへの同行を強制したフワン、そしてエリザベート皇女殿下とその一行が搭乗している。
エリザベート一行は、アメントスへ向かう途中にギナル皇国で降ろしてもらう予定だ。
エリザベート達はラダ・マリーの広いリビングルームの一室に居る。ちなみにレナンは居らずコックピットに居る。
リビングルームは複数有り、エリザベートを守護する護衛騎士達はラザレと共に別室に控えていた。
この場に居るのはソーニャ、それとエリザベートと彼女を護衛する女性騎士ネビルとフワン、そしてサポートの為AIのオニルが居る。
リビングルームは、白を基調とした空間だが奇妙な形をした椅子が大きなテーブルを挟んで円形に並べてある。
この部屋には窓は無いが、代わりに巨大なスクリーンが展開され、外の風景が見れる様になっていた。
「ふわ~! 島があんなに小さい~! 凄いですね~」
「……現在、この艦は上空8000mの高度で飛行中です。眼下の景色が遠く見えるのは当然の事でしょう」
「は、8000m!? よ、良く分らないけど、とても高いって事ですね!」
フワンやネビルは外の様子を見て興奮して叫ぶ中、オニルが淡々と彼女達に説明している。ちなみに他の者達は椅子に座していた。
最初、エリザベートはラザレと同じリビングルームに居たが、ソーニャに用事が有る様で彼女が居る部屋にネビル達を伴い、この部屋に来た。
現在、戦艦ラダ・マリーはギナル皇国に向け自動航行中だ。
転移すれば直ぐに到着するが今回はギナルに立ち寄った後に亜人の国アメントスへ向かう為、敢えてギナル皇国へは転移せずに向かっていた。
重ねての転移による消費エネルギーを抑える為の処置だ。
リビングルームの中で、外の景色を見て興奮するフワン達と違い、エリザベートは落ち着き無い様子でそわそわしている。
どうやら彼女はソーニャに声を掛けたい様だが、戸惑っている様だ。
マリアベルの死後、絶望の余り暫く臥せっていたソーニャだったが、立ち直ってからは
レナンの傍に控え彼のサポートに務めていた。
そのソーニャが、そわそわしているエリザベートを見て微笑みながら自分から声を掛けた。
彼女が何を言いたいかソーニャには予想出来たからだ。エリザベートが知りたい事と言えばレナンの事に違いないと、ソーニャは分っていた。
「……皇女殿下が居られるにも関わらず、義兄であるレナンが、この場に不在で申し訳ありません」
「い、いえ! お、お気遣いなく! く、黒騎士様はとてもお忙しい方ですから!」
「……ええ、私の方から休めと言っても……レナン……いえ、今は黒騎士様ですね。私が言っても、あの御方は休もうとはしないので……」
「……そ、そうですか……」
ソーニャの言葉にエリザベートは俯いて小さく答える。
「……ソーニャ様、く、黒騎士様はどちらに居られますか? 御会いしてお話したいのですが……」
「黒騎士様は、今は操舵室に居るかと……。皇女様、あの御方にお話とは?」
戸惑いながら問うたエリザベートに、ソーニャは若干警戒しながら尋ねる。
「い、いえ……! ちょっと、お話を伺えたら、と思っただけで……」
「……もしかして、今日の出来事に関してですか? 王城前広場に押しかけて来たティアの事なら、黒騎士様は何も語りませんよ?」
「そ、そう言うつもりでは……」
「皇女殿下には感謝しております。ティアに黒騎士様の真実を伏せて頂いて……。今のレナンの姿は、ティアに取って辛いでしょうから。悲しむティアをレナン、いえ黒騎士様も見たくないと思いますので……。どうか黒騎士様の成される事は見守って頂きたく思います」
レナンに会いたい、と言うエリザベートに対し、ソーニャは礼を言いながら制した。
ソーニャは、マリアベルの為に一人戦おうとするレナンの負担を、少しでも減らしたいと考えている様だ。
そんなソーニャの態度に、エリザベートは……。
「ふふ……。ソーニャ様は、お兄様である黒騎士様の事を……本当にお慕いしていれるのですね」
「……ち、違います……! し、慕うなど……。私のは……そういうのでは無く……贖罪なのです。私は、あの御方……彼から全てを奪った……。いいえ、それどころか……もしかしたら、あの恐ろしい偽神を呼び寄せたのも……首輪を施した、私の所為なのかも……」
ソーニャがレナンの妻マリアベルの妹である事を、聞いていたエリザベートは彼女を冷やかすが、対してソーニャは暗い目をして震えながら呟く。
エリザベートはそんなソーニャに寄り添い、そっと背中を撫でると、彼女は……自分が犯した罪を語り始める。
「……そんな訳で、私は王命を受けたマリアベルお姉様の為……策を施し……ティアの親友を演じて彼女を騙してレナンとの婚約破棄に至らせ……対してレナンには、ティアの安全を盾に赤い首輪を巻かせて、隷属を促したのです……。
しかし、今思えば……その傲慢さが、恐ろしい偽神を呼び寄せ……マリアベルお姉様を死に至らせた……。そんな風に思えてならないんです。
だから……私がレナンの為に働くのは、自分自身への罪滅ぼしに過ぎません。今の私にはそれしか出来ませんから……」
「ソーニャ様……」
ソーニャは青い顏を浮かべ、己が罪を独白する。そんな彼女にエリザベートは肩に手を置き優しく声を掛けた。
彼女の周りにはエリザベートだけでなく、外の様子を見ていたフワンやネビルも集まってソーニャの話を聞いていた。
「なるほどですね~、それは中々の大罪人です~。確かに王都がメチャクチャにした偽神も怒る筈ですね~」
ソーニャの独白に、フワンはニコニコしながら氷の様な冷たい言葉を投げ掛けるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/4(日)投稿予定です、宜しくお願いします!