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365)進むべき道

 言い争うティアとソーニャに向け、エリザベートはジルの口調で啖呵を切り、自分の身代わりに亡くなったジル当人との過去を明かす。



 その後、ティアとソーニャに向け穏やかな口調で諭すエリザベート。そんな彼女に対し二人は黙るしか無かった。




 「……敵国だったギナルの、しかも皇女である私から……御二人に説教染みた事を申し上げるのは、大変に恐縮ですが……」


 「「…………」」


 「ティア様、先程の問いにお答えしましょう……。黒騎士様に関して、私達はお話する事が出来ません。ギナル皇国を救って頂いた黒騎士様への大恩に反する事は私達には出来ないのです。どうかご理解ください」


 「そっか……」



 黒騎士について何も語れないと侘びたエリザベートに、ティアは素直に従うしか無かった。


 そんな二人のやり取りを見ていたソーニャは、エリザベートとティアに声を掛ける。



 「……エリザベート皇女殿下。殿下を前にしてロデリアの醜態をお見せしてしまい、申し訳ありません。それと……ティア、皇女殿下が話された通り、私達も黒騎士様について話す事は出来ない」


 「ソーニャ……!」


 「何度迫られても同じ事よ、ティア。悪いけどアルテリアへ戻って。 ……私は黒騎士様の元へ先に向かいます。皇女殿下もお急ぎください」


 

 再度明確に黒騎士について教える事を拒絶したソーニャに、ティアは詰め寄るが、彼女は構わずリベリオンを引き連れて王城前広場から立ち去った。



 「エリザベート様、我々もそろそろ出立しましょう」


 「ええ……。ティア様、私達はギナル皇国へ戻ります。黒騎士様の事、重ねて申し訳ありません」


 「い、いえ……仕方無い……です」



 ソーニャに促された事を受け、ラザレ将軍がエリザベートに声を掛ける。


 エリザベートはそれに答えた後、ティアの方へ向き直り再度侘びた。対するティアは極めて残念そうに返す。



 黒騎士の正体を掴む為に、王都に来たが何の情報も得られなかった事にティアは深く落ち込んだのだ。

 

 

 俯いて黙り込むティアを見たエリザベートは、彼女に近付いた後、そっと抱擁し顔を寄せて誰にも聞こえない様にささやく。



 「……ティア様、私は何も教える事は出来ません。私は出来ませんが、貴女が真実を知りたいと願う事は誰にも止める権利は無いと思います。ですから、どうか貴女の御心のままに……。 

 ティア様、黒騎士様は暫くこのロデリアには戻らないと聞いています。アメントス侵攻後、地理的に大陸の中心位置に有るギナルに留まる事になると……」


 「エリザベート様……」



 顔を寄せて内緒で黒騎士の動向について教えたエリザベートに、ティアは目を向いて驚く。


 驚いて顔を上げたティアからエリザベートは抱擁を解き、彼女の手を取り明るく伝える。



 「ティア様、是非ギナルへと遊びに来て下さい。友人として歓迎させて頂きます! それでは皆さん、行きましょうか」

 


 ティアへ明るく声を掛けた後、エリザベート一行は白騎士達に先導されて王城前広場を離れた。


 黒騎士と共にラダ・マリーに乗ってギナル皇国へ戻るのだろう。




 その場に残ったのは……ティアと白騎士隊の中で一人残ったクマりだけだった。

 

 敢えてこの場に残ったクマりは、ため息をついてティアに声を掛ける。



 「……まぁそう言う事だ、馬鹿弟子。お前が黒騎士殿の事を知りたいと足掻いても無駄なんだよ。……木漏れ日亭に、お前の連れが居る。そいつら引き連れて、さっさとアルテリアに戻りな」


 「…………」



 クマリの言葉にティアは何も返事せず、俯いて黙り込む。



 「お前は……黒騎士殿が本当はレナン君じゃないかって思ってた様だが……今日、黒騎士殿と出会って、流石に違うと分っただろう?」


 「そ、それは……」


 「……私は、黒騎士殿の素顔を見た……。その上で教えてやる。彼は“あのレナン君”とは全くの別人だよ」



 クマリはティアに、黒騎士の正体を敢えて“あのレナンとは違う”と話した。


 クマリに取って新たな黒騎士となったレナンは、以前の彼とは全くの別人だったからだ。



 背丈や体格等の外見的にも別人の様に変わったが、何よりその心が前の穏やかで優しいレナンとは変わってしまった。



 新たな黒騎士となったレナンは、全て死んでしまったマリアベルの為だけに生きている。


 マリアベルへの贖罪と彼女に対する愛が、今のレナンの行動原理だ。



 そんな彼の心に、もはやティアへの想いは一片も残って無いだろう。



 ティアと故郷のアルテリアを守る為に自ら望んでロデリア国王に従属し戦った、白き勇者のレナンは……王都崩壊の際に死んでしまった。



 彼の身代わりとなったマリアベルの死と共に……。

 


 そう言う意味で、クマリはティアに黒騎士の正体が“あのレナンとは違う”と伝えたのだ。

 

 クマリとしては、自分の本心を伝えた方がティアの心に響くと思い、敢えてその様に伝えた。




 だが、そんなクマリの言葉にティアは揺るがなかった。




 「……少し前の私なら……師匠の言葉を聞いて、そのまま鵜呑みに信じていたでしょう……。でも、今の私はそうじゃ無い。マリアベルに、自分を信じろって言われから」


 「それって……お前が見た夢の話だろう? 眠ってる時に見る夢ってのは自分の都合の良い様に描かれるモンだ。そんなものに縋って何になる」


 「師匠の言う通り、それは唯の夢かも知れません。でも……私にとって、そうじゃ無い。だから、私は自分が信じた通り進むだけです」



 夢に縋ろうとする弟子を憐れみ諭すクマリだったが、ティアは変わらず言い切った。


 別人に変わってしまったレナンを追う、と言う不毛な道を突き進もうとするティアに、クマリは、真剣な表情で説得を続ける。



 「……なぁ、ティア……いつまでも過去を見ていちゃ仕方ない。レナン君の事は忘れて、新しい人生を送ったらどうだ?」


 「忘れる事なんて出来ない。黒騎士の正体を私自身の目で確かめるまでは……前になんて進めないわ」


 「師匠として忠告だ……ティア。黒騎士殿の事を知った所で何の意味も無い。無駄なことは止めておけ」


 「全てを知って……無駄かどうかを決めるのは私です、師匠」




 何を伝えても全く決心が変わる事のないティアを見て、クマリは誰にも聞こえないように小さく呟いた。



 「……本当に……お前らしいな。……だからこそ、私は此処に居る」


 「……?」


 「……ティア、今日の所は勘弁してやる。次に出会った時は、問答無用でしょっ引くから、覚悟しておけ……」



 クマりの呟きが聞こえず、不審な顔を浮かべたティアに向かって、クマリは冷たく態度を変えて吐き捨てた後、踵を返してこの場を後にした。



 「…………」



 王城前広場に一人残ったティアは、エリザベートに囁かれた内容を思い返す。



 (エリザベート様は……何も話せない、て言ったけど……黒騎士の動向については明かしてくれた……。それは、何か意味が有る筈……黒騎士の秘密に関わる何かが……。だとしたら、ギナル皇国に行かないと……!)



 黒騎士の正体を見極める為、ティアはロデリア王国からギナル皇国へ向かう事を決めたのだった。


 いつも読んで頂き有難う御座います。都合により申し訳ありませんが、暫くは週一投稿とさせて頂きます。


 次話は8/14(日)投稿予定です、宜しくお願いします!

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