364)皇女乱入
いつも読んで頂き有難う御座います! 諸事情により暫く週二日の投稿を暫く週一日とさせて頂きます。ご迷惑をお掛けしますが、何卒お願いします。
黒騎士に会わせろ、と詰め寄るティアとそれを拒絶するソーニャ。互いに一歩も引かない中……。
「てめぇら、いい加減しろや!!」
「「「「「!?」」」」」
可憐で美しいエリザベート皇女殿下より、想像すら付かないドスの利いた怒鳴り声が発せられ……その場にいた全員が言葉を失い固まった。
「余所のシマって事で黙って見てたが、もう我慢ならねェ! そもそも、アタシ等のシマ荒らしたのは、あの黒騎士野郎だしなぁ?」
「そ、そうです、エリザベート様!」
「は、ははは……ど、どうか……御自重を殿下……」
「「「「「…………」」」」」
エリザベートは短いプラチナブロンドと美しいドレスの皇女としての姿で、彼女が長らく演じていた厨房の女ジル・リードの口調で傍らに居た女性騎士ネビルに問う。
問われたネビルは上ずった声で嬉しそうに答えるが、暴れ出した皇女を止める為に駆け寄ってきた将軍のラザレは、エリザベートに自重する様に懇願する。
そんな皇女達の様子を、ティアとソーニャを含むロデリアの者達は……只々驚いたまま絶句していた。
「さすがジル姉~!! 超カッコイイ~!!」
「……おい、フワン……あの子、皇女殿下で良いんだよ……?」
お淑やかな皇女から、きっぷの良い厨房の女ジルへと一瞬で変貌したエリザベートにフワンが喜びの声を上げると、近くに居たクマリが大いに戸惑いながら彼女に問うた。
クマリは度々フワンが皇女エリザベートの事をジルと呼んでいた事は知っているが、あだ名程度の認識だった。
それがこうも全く別人の口調になった事に、困惑したのだ。
クマリだけ無く困惑するロデリアの者達に構わず、エリザベートはティアとソーニャの方を向いて低い声を掛ける。
「おい、てめぇら……。キャンキャンとうるせぇぞ、その喧嘩、一旦アタシが預かる」
ティアは両手を腰に当て睨むエリザベートに、恐る恐る声を掛ける。
「……えーっと……一応、聞くけど……エリザベート皇女殿下よね……? 一瞬で別人に入れ替わったってオチじゃ無く……」
「どっからどう見ても皇女だろうがよ!? ふざけてんのか、あぁ!?」
「ひぃ! その通りです!」
「だいたい、皇女のアタシを差し置いて大立ち回りしたのは、どこのどいつだぁ!? 全部てめぇだろうが!」
「も、申し訳ありません! 全て私が悪う御座いましたぁ!!」
声を低くして凄むエリザベートの迫力に腰砕け、ティアは土下座する勢いで謝った。
そんなティアと対照的に、ソーニャは驚きながらも感心しながら呟く。
「……エリザベート皇女殿下……なるほど、それが……貴女様が演じてきたジル・リードと言う女性の姿ですか……」
「ふん、お前はアタシの事を黒騎士野郎に聞いたのか? 言っておくが、今のアタシに取って……ジルはもう一人のアタシだよ。そんな事より今はお前らの喧嘩だ。お前ら……互いに共通する大事な人を無くしたんだろ? マリアベルって人を」
問われたエリザベートはジルの口調で答えながら、ティア達を睨む。
「そんなお前等がいがみ合ってんのを……その人はどう思うよ?」
「「…………」」
エリザベートに問われたソーニャとティアは黙り込む。しかしソーニャは黙ってはいるが、エリザベートに向け反攻的な目を向けた。
ソーニャは幾ら皇女殿下とは言え、事情を知らない他人がマリアベルについて語って欲しくなかったのだ。
そんなソーニャの視線を受け、エリザベートは彼女の言いたい事が分った様で静かに話す。
「余計な世話は百も承知だ。だけどな……マリアベルって人は大切な人を守る為に命を賭けたんだろ? そのお蔭で、このロデリアは救われたって聞いてる。ホント、凄い人だと思うぜ。アタシなんかじゃ、到底敵わねェ」
エリザベートはティア達に話した後、上空に浮かぶ白き戦艦ラダ・マリーを見上げる。
エリザベートはロデリアに何度も来る様になってから、黒騎士レナンと共に居る時間が増えた。
レナンに祖国と共に命を助けられたエリザベートは、素顔のレナンに淡い恋心を持つ様になる。
黒騎士レナンへ淡い恋心を持ち始めたエリザベートだったが、彼がマリアベルと言う女性をどれほど深く愛していたかを思い知ったのだ。
そしてロデリアでマリアベルの話を王都に住まう皆から聞けば聞く程、彼女が素晴らしい女性だと理解した。
叶いそうもない自分の初恋に、エリザベートは上空に浮かぶラダ・マリーを見て溜息を付いたのだ。
溜息を付いた後、気持ちを切り替え、再びエリザベートはジルの口調でティア達に話し掛ける。
「こんなアタシにも昔、そんな奴が居た……そいつはアタシを助ける為に……身代わりとなって死んだ。アタシが生きてるのは、そいつのお蔭だ。だからこそ……そいつに背中を向ける生き方は出来ねェ」
「……エリザベート様……その人は……?」
ジルの口調で遠い目をしながら話すエリザベートに、ティアが問うた。
ティアの問いに、エリザベートは息を吸って……今度は口調を変えて元の穏やかな声で答える。
「……その人の名はジル・リード……。私のメイドだった少女です。彼女は貴女方が慕う英雄騎士マリアベル様の様な、素晴らしい人でした。
ジルは美しい少女でしたが男勝りな性格で、口調も乱暴で……。しかし弱い者を助け、強う者にでも構わず立ち向かっていくジルの姿は、私にとって憧れそのものです。ジルと私は歳近い事も有り、二人きりの時は姉妹の様に過ごしました。
そんな彼女だからこそ、私に危機が迫った時……迷わず身代わりとなって私を救ってくれた……。ジルに救われた私は……それまでの自分を捨て去り……彼女を騙り生きる事となりました。田舎から上京してきた厨房で働くジルとして……」
「「「「「…………」」」」」
元の物静かな口調となったエリザベートから語られる彼女の壮絶な過去に、その場に居た者達は誰しも沈痛な顔で押し黙る。
彼女が度々演じるジル・リードは架空の人物ではなく、実在の少女だった。
それも姉妹の様に仲睦まじく共に過ごした大切な存在だった様だ。
エリザベートはジルとしての演技を止め、素の穏やかな口調で語り掛ける。
「この私が、生きているのは……身代わりとなって生かせてくれたジルのお蔭です。だからこそ、ジルの生き様を裏切る訳にはいかない。
弱い私が強いジルを演じるのは、その決意表明として自分を奮い立たせているだけ。
“ジルだったら多分こうする筈”と彼女の生き方を思い出しながら……たった今、貴女方に示せて見せた様に。だからジルを演じている時は、実は自分自身精一杯で余裕なんて無いんですよ?
長くジルをなぞって生きて来た私は、マリアベルと言う御方のお気持ちが何となく分ります。
大切な人を守る為に生きたマリアベル様は……貴女達が争い合うのを見れば、きっと悲しむ筈です。そうは思いませんか?」
エリザベートは男勝りのジルの口調から、打って変ってどこまでも優しい口調でティアとソーニャを諭すのだった。
前書きに書かせて頂いた通り 暫く週一投稿とさせて頂きます。 次話は8/7(日)投稿予定です、宜しくお願いします!