359)元凶
黒騎士に会う為、王城前広場に舞い降りたティアは……新たな白騎士となったクマリに阻まれる。
その様子を見ていた皇女エリザベート達は……突然現れた赤毛の少女ティアが、フワンから黒騎士レナンの義理の姉にして元婚約者と聞かされ驚愕した。
驚くエリザベート達に構わず、フワンは話しを続ける。
「でも~勇者の力を持っていたレナン君を~ギナル皇国の脅威に備える為~無理やりロデリアのカリウス前王は奪い取って~カリウス前王の姪に当たる先代黒騎士マリアベル姫殿下と、婚約させちゃったんです~。しかも寄ってたかってティアちゃんを騙して婚約破棄させて~」
「「「「…………」」」」
「それで~此処からが複雑なんですけど、婚約破棄させられたティアちゃんは~クマリ大先輩の弟子になって~マリアベル姫殿下からレナン君を取り戻す為、命懸けで奮闘するんです~。でも……黒ちゃんことレナン君は、先代黒騎士マリアベル姫殿下の事を本気で愛してしまった……。
そして、その後……例のギナル皇国の白い偽神侵攻によってマリアベル姫殿下は黒ちゃんの盾となって亡くなり……残された黒ちゃんは、あんな仕上がりになったって訳ですよ」
「……そう、だったんですか……」
フワンよりティアと黒騎士であるレナンの複雑な事情を、聞かされたエリザベートは悲しそうな顔を浮かべて一言呟いた。
そんなエリザベートを余所に、ティアとクマリは戦いを続ける。
それを見て、エリザベートと共に話を聞いていたネビルが、クマリとティアがこの場で戦い合う理由が分らず問うた。
「ティアと言う少女の事は分りました。……でも、何で彼女達は戦い合う必要が? 黒騎士様に会わせてあげれば良いじゃないですか?」
「ティアちゃんが此処に来た目的は、死んだって聞かされているレナン君の正体が、黒ちゃんじゃないかって疑ってるんでしょう~。だからクマリ大先輩は、そんなティアちゃんを追い返そうとしてる。だって……本当の事なんて言える訳無いから」
「で、ですが……!」
「ダメだよ、ネビちゃん。ティアちゃんと黒ちゃんを引き裂く切っ掛けになった、ギナル皇国から来た私達が出来る事は無いよ~。
ロデリア前国王の指示でレナン君を奪い去った白騎士さん達も同じ。ティアちゃんと黒ちゃんは両国のイザコザに巻き込まれたんですから~」
「「「「…………」」」」
“何も出来る事は無い”と言うフワンの言葉に、エリザベート達は何も言い返せなかった。
何故なら、自分達の祖国であるギナル皇国の所為で、ティアとレナンは別れる事となったのだ。
フワンの言う通り、ティアからすれば……自分達を巻き込んだて当事者であるエリザベート達からから口を出されるのは、怒りしか感じないだろう。
フワンからティアの事情を聞かされた上で、釘を打たれたエリザベート達は……ティアとクマリの戦いを、黙って見守るしか無かった。
なお、エリザベート皇女殿下は、AIのオニルが障壁を展開し……その周りをリベリオンや護衛の者達が守っていた。
多くの者達が、遠巻きにしてティアとクマリの戦いを見守る中、当の二人はガッチリと組み合う。
“ガッ!!”
「どうして……白騎士隊に!? 騎士とか嫌いだった貴女が! そして、どうして黒騎士の傍に!?」
「お前も分ってるだろう! マリちゃんと、レナン君が死んだからさ! 二人が死んだ後、この国は強い力が必要だった! 侵略され王都を破壊された、この国にはね! だからこその黒騎士殿だ! 私が白騎士になったのもマリちゃん達に変わって、彼を支える為さ!」
「そんな似合わないセリフを、貴女が言うのですか!? 師匠!!」
組み合っていた二人だったが、ティアが大きな声で問うとクマリはもっともらしい返答を返した。
しかし、クマリの性格を良く知るティアは違和感しか感じられず、反論する。
冒険者として自由に生きて来たクマリは、しがらみに縛られる事を何より嫌っていた。
だから、そんなクマリが誰かに忠義を尽くす騎士になるなど一番在り得ない選択だ。
「お前の師匠になったのが、私に取っちゃ一番似合わねぇよ! はぁぁ!」
言われたく無い事を指摘されたクマリは、怒りを露わにし組み合っていたティアを風魔法を駆使して投げ飛ばす。
遠く投げ飛ばされたティアは、空中で身を翻して難なく着地した。
「……散々投げ飛ばしただけあって、流石に慣れてるな」
「師匠と遊んでいる暇は有りません。黒騎士とやらは何処に……」
上手く着地したティアに向けクマリが、皮肉を言うと……言われたティアは、冷静な声で問う。
そこへ……。
“ヴオン!!”
低い音と共に、光の輪が生まれそこから漆黒の鎧を纏った黒騎士が現れた。黒騎士と一緒にAIのオニル、そしてソーニャと彼女を守るリベリオンも姿を見せる。
その黒騎士が纏う鎧は、棘を生やした肩当が胸を包み、手甲も足甲も鋼鉄の固まりの様な重厚な形だ。
鎧の形状は、マリアベルが纏っていた鎧に非常に似通っていたが、その兜は野太い一本の角が天を突く様に伸び、面当ての部位は吊り上がった稲妻の様な目が赤く光っている。
その場に現れた黒騎士は死と恐怖を感じさせる凶悪な姿だった。
いきなり目の前に現れた恐ろしげな鎧を纏った黒騎士。その姿を見たティアは……。
(こいつが黒騎士……! 一目見て分った! こいつこそ! この異常な全ての元凶だ!!)
光と共に、突如現れた恐ろしい黒騎士を見たティアは、爆発する様な激情を抑え切れなかった。
ティアは、クマリと戦い合っていた事など頭から抜け落ち、剣を構えて姿を見せた黒騎士に襲い掛かったのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います。次話は7/17(日)投稿予定です、宜しくお願いします!