33)踊る少女
いつも読んで頂き有難う御座います!
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リナ達と別れたティアはソーニャに連れられ旧校舎の美術室にやってきた。
此処には誰も来ず、秘密の話し合いにはぴったりな場所だった。着いた途端、怒りを抑えきれないと言った風にティアが大声で話す。
「信じられない!! リナとジョゼがフェルディの事を悪く言うなんて! 彼は素晴らしい人なのに!」
激怒しているティアにソーニャは優しく諭した。
「リナさんとジョゼさんは、きっと貴女の事を羨んでいるのよ……だって、貴女は二人の男性に愛されているから……だけど……やっぱり貴族子女としては、同時に二人の男性と付き合うのは外聞が良くないわ……。
ティア……貴女は選ばなくてはいけないの……弟で返事も寄越さない子供のレナン君か……それとも大人で包容力があり貴女だけを見てくれる素敵なフェルディ様か……そのどちらかの男性を……」
ソーニャはあくまで優しく、そして断れない雰囲気で迫った。対してティアは下を向き呟いた。
「……でも私はレナンの事を捨てるなんて出来ないわ……だって家族なんですもの……」
「流石はティアね! でも大丈夫よ。だってレナン君は貴女の弟ですもの。ティアがフェルディ様と結婚しても、レナン君とは家族だから此れからも変わらずいつも一緒だと思うの。
レナン君との婚約を解消し、フェルディ様と結婚すれば……貴女が大切に想う全てを失わないで済むと思うわ!」
ティアの両手を握り、熱く語るソーニャ。対してティアは何かを思いつき上気した顔で嬉しそうに答える。
「……そうか……そうなのね! だったら私、レナンとの婚約を解消するわ! そしてフェルディと結婚して……アルテリアで一緒に暮らすの! 彼もそうしたいって言ってくれたの!」
ティアの下した愚かな判断を聞いて、ソーニャは本当に嬉しそうに笑みを浮かべティアに問い返す。
「そう……それで本当にいいのね? 貴女がそう決めたのなら早い方が良いわ! 私、貴女が聡明な判断をするって分っていたから、こんな物を用意して来たの」
ソーニャはニコニコしながら鞄から何やら書類を一枚出して来た。その書類にはロデリア王国印が押された公的な書類で“婚約撤回証書”と書かれていた。
「この証書は公的な婚約撤回に対する書類になるわ。見ての通り、王国が正式に認めた証書でね、そこの魔法印にティアの血を一滴垂らす事でティア本人が認めた事を証明してくれるのよ。此処に王国印が有るでしょう?
これに貴女がサインさえすれば……王国が其れを認めたって事になるの! 貴女の決意を誰にも邪魔される心配が無くなるわ。
この書類にサインすればフェルディ様と結婚出来る筈よ! 今週末、彼と一緒に別荘に行くんでしょう? フェルディ様の為にも、こういう事はきっちりした方が良いと思うの」
ソーニャは満面の笑みで滑らかに説明しながらペンと、血印を押す為に細い針を取り出した。
手回しが良すぎる異常な状況だったが、唆され熱に浮かれて愚か者に成り果てた、今のティアはそんな事すら気が付かず、本気で喜びソーニャに感謝する。
「何から何まで本当に有難う、ソーニャ!」
「何言ってるの、私達ずっと友達でしょ!……貴女さえ良ければ、今此処でサインしてしまった方が良いわよ? その後は私がちゃんと後処理しておくから、ティアは何も考えずにフェルディ様と別荘に行けばいいわ! それじゃ……此処にサインと、ちょっと痛いけど針差して血付けちゃおうか?」
「うん! 分ったわ」
ティアはソーニャに促された通り、何も考えず公式な婚約撤回証書に署名をして、血印を押した。
その瞬間、証書は薄く光り魔法が発動した。
15歳を超えたティアは成人として扱われ、王国印のあるこの証書はティア本人が国王の名においてレナンとの婚約を解消した証と為る。
もはやどのような権力を持ってしてもレナンとティアの婚約破棄は覆せない事となった。
ティアの浅慮と浮ついた心により、レナンとの長い別れが決まった瞬間だった……
「それじゃ、私はフェルディのクラブ見て帰るね! さよなら、ソーニャ!」
「ええ、さようなら、ティア」
美術室から去って行ったティアを見送った後、ソーニャは美術室の内鍵を閉めた。
そして教壇の上に銀皿を置き、水を注いで“鏡鳴”で愛しき姉を呼び出した。
「マリアベルお姉さま! お喜び下さい! ティアは婚約撤回証書に署名致しました。これで正式にティアとレナンは婚約破棄となり外聞を気にせず、彼を奪いに行く事が出来ます。
もっと手間が掛かると思いましたが、ティア嬢が予想以上にお馬鹿さんで助かりましたわ」
『……そうか……王命とは言え、複雑な気分だ……ティア嬢は此れから如何なる?』
凄く嬉しそうなソーニャの報告に対し、マリアベルの声は低調だ。ティアの事を気にしているのだろう。問われたソーニャが明るく答える。
「ティア嬢はフェルディに夢中ですが、対するフェルディにとって彼女は何の価値も無い女です。フェルディがティアに近付いた目的は彼女を誑かしレナンとの婚約破棄を促す事。
それにより彼は莫大な報酬を得る、という“遊び”だったのですから……もっともコレは我々が裏から手を廻した件ですが。
いずれにしてもレナンとの婚約破棄が決まった今、フェルディはティアに本性を現すものと思います。従って今週末にフェルディが用意した別荘に招かれたティアは……そのままフェルディの慰み者になるでしょう」
『そうか……ならば、此処で黒騎士として命ずる。クズのフェルディにティアを傷付けさせるな。
愚かな娘とは言え、我々が守るべき王国民だ。純潔を奪われると分っていながら民を見捨てる訳には行かない』
淡々と事実を説明するソーニャに対しマリアベルは明言した。
もっともマリアベルとしては任務とは言え、唆された上に全てを奪われたティアがこれ以上傷付けられる事が許せなかったのだろう。
そんな姉の気概を知り尽くしているソーニャは笑顔で答える。
「ティアに対しては随分と、お優しいのですね……お姉さまがそうおっしゃる事は分っておりました。 従って既に策は打ってあります。
私個人としては、あのお馬鹿さんは嫌いですが……望まずともティア嬢とは義理の姉に為る訳ですので……。
とにかく、フェルディとティアの事後についてはお任せ下さい。……ティアで遊んでいる心算のフェルディが、実はそのティアを餌に踊らされているとは……あのお猿さんには気付かないでしょう。
そしてティアを助ける事でレナンに枷を付けますわ」
ソーニャは屈託ない笑顔で怖い事を言う。彼女の中では幾つもの策が同時並行している様だ。
『其れではソーニャ……ティアとフェルディについては任せる。特にレナンの婚約破棄の知らせは急ぎ王国内全土に知らせ、諸侯共に口を出させるな。
その間に私は王命を承って、アルテリアへ夫を迎えに上がる。済まんが後は頼む』
「はい、お任せ下さい。マリアベルお姉さま」
ソーニャはそう言って“鏡鳴”の通信を切った。そして銀皿を片付け、注意深く周囲を気にしながら美術室を出て行った。
美術室には誰も居ない。しかし……その隣の教室では、ソーニャとマリアベルのやり取りを聞く者が居た。
リナとジョゼだ。リナ達はティアがおかしくなった原因はソーニャに有ると判断し、ソーニャとティアを尾行した。
そしてソーニャ達が旧校舎の美術室に入った事を見届けて隣の部屋で聞き耳を立てていたのだ。
本日二回目の諜報活動の結果、其処で聞いてしまった内容に驚愕し二人は黙り込んでいたが、やがてリナがジョゼに声を掛ける。
「……おい……ティアの奴、とんでもない事に巻き込まれてるぞ……。全てはアイツの弟目当てか……確かレナンって言う名だったな? それにしても国王絡みとか……後、黒騎士って聞いた事が……うん? どうした?」
ティアに纏わる問題がまさかの王命絡みとは思っていなかったリナは驚愕してジョゼに話し掛けたが、そのジョゼの様子がおかしい。
「黒騎士……マリアベル……お姉ちゃんが話しているの……聞いた事が有る……お姉ちゃんは白騎士……何か……関係有るの?」
ジョゼは黒騎士マリアベルの名前を聞いて何かを思い出し、一人呟くのであった……。
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次話は「34)暗転」です。投稿日は明日の予定です。何卒よろしくお願いします!
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追)一部見直しました!
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