343)艦上にて
フワンから存在するする全てのリベリオン達が、黒騎士レナンと通じ合っていると聞かされたクマリ。
たった今リベリオンの背に乗って、空に浮かぶ船ラダ・マリーへと侵入する事がレナンに筒抜けだと知ったクマリはフワンに詰め寄るが、彼女は最初から承知の上と答える。
「お前、分ってて、この龍を頼ったのか! それで良いとは、どう言う意味だ……!?」
「もし、本当に敵意を持って船の中に不法侵入しようとしたら……リベちゃんもオニルちゃんも全力で阻止してきます~。その場合、絶対に侵入は不可能ですよ~。
だけど、先輩はそうじゃないでしょ。だって先輩は……黒ちゃんの、お姉さんの御師匠様ですから~。だからこそ、黒ちゃんは先輩を無下に出来ないんです~」
「!? お、お前……ティアの事まで知っていたのか!?」
そんなフワンにクマリは怒って詰め寄ったが、彼女はニコニコしながら答える。
しかし、フワンが答えた中で、ティアの事まで彼女が知っていた事に……クマリは驚いて叫んだ。
「現地情報把握は冒険者の基本ですよ~。そんな事より、もうすぐ白い船の上に到着します~。先輩、全てを知る覚悟は出来ていますか?」
「……当然だ……」
「一応、忠告させて頂きます……。此処まで来たら、きっと黒ちゃんは先輩を船の中に招き入れ……真実を語るでしょう。
でも、その真実は……先輩や、特に……黒ちゃんのお姉さんに取って良い事とは限らないと思います。それでも……先輩は真実を知りたいと望むのですか?」
「ククク……此処まで乗せておいて良く言うな……。私の答えは変わらない。私は黒騎士の、レナン君の真実を知る必要が有る。この場に居ない馬鹿弟子も絶対そう言うだろう」
真剣な口調で覚悟を問うフワンに、クマリは再度明確に言い切った。
「……分りました、ならば先輩……リベちゃんに船の真上で待機して貰いますから、飛び乗って下さい……!」
「ああ、若干利用された感がするが……フワン、お前には礼を言うぞ」
「リベちゃん、此処で待機して~! 先輩、今です!」
「応……!!」
ラダ・マリーの真上にリベリオンを誘導したフワンは、クマリに船上へと乗り移る様に指示した。
クマリはフワンの掛け声に合わせて、リベリオンからラダ・マリーに飛び移るのだった。
クマリを降ろしたリベリオンは、そのままラダ・マリーから飛び去る。その背に乗っているフワンは、溜息交じりに呟いた。
「はぁ~全く手間が掛かりますね~。先輩も黒ちゃんも、コレは一つ貸しですよ~。さぁ、リベちゃん! 追加で焼肉あげるから、お城に運んでね~」
「アギャ!」
疲れ気味で溜息を付いて呟いた後にフワンは、明るくリベリオンに声を掛けると……リベリオンは元気よく答えるのだった。
◇ ◇ ◇
「……何とか辿り着いたな……。それにしても……何てデカさだよ……。王都を襲撃した黒い船よりデカいぞ……!」
リベリオンから白き戦艦ラダ・マリーの上に飛び乗ったクマリ。彼女は周りを見渡して呟いた。
「ノンビリしてたら夜が明けちまう……。どこからか、中に入る場所を探さないと……」
余りに巨大な空中戦艦ラダ・マリーの大きさに、暫く驚いてたクマリだったが……気を取り直して、内部への侵入場所を探す為に行動を開始する。
しかし、真白く美しい戦艦ラダ・マリーは内部に侵入出来そうな開口部など無く、元より継ぎ目も隙間も無い構造だった。
クマリが、取敢えず船首の方に向かい進み出した所……。
“ヴヴン!”
低い音と共に、クマリの周囲に光が立ち上る。その光の中から現れたのは……丸っこい形状をした、AIオニルが操るドローンだ。
ドローンは丸々としたタツノオトシゴの様な形状で、銀色のボディには幾つもの光が走る。
足は無いが、フヨフヨと宙に浮き……丸いボディの左右には手らしき小さな羽が付いていた。
大きなレンズ体が付いた頭部が、ボディの上でクルクルと忙しく回っている。
この奇怪な丸っこいドローンは、戦艦ラダ・マリー内部に無数に配置されている警戒用ドロイドだろう。
現れたドローンの数は6体。その内、クマリの正面に現れたドローンが女性型アバターの姿を投影してクマリに言い放つ。
「……面会時間は終わったと伝えた筈ですが……? この時間のアポイントメントは受け付けておりません。どうか、お引き取りを」
「……綺麗な姉ちゃん姿の本性は、奇妙な機械って訳かい。折角のご忠告だが……私の話は何にも終わって無いんでね……。中に入らせて貰うよ?」
「このドローンは私本体では無く、コミュニケーターとして量産型警戒用ドロイドをアバターとして利用しているだけです。
それより、特級冒険者クマリ様……。マスターに御縁が有る貴女様でも、本艦への無断搭乗は許可出来ません。
再度、申し上げます……即刻、本艦より立ち退いて下さい。警告を無視した場合、物理的に無力化の上……送還させて頂きます」
「ククク……段々、言い方が物騒になってきたな? 悪いが聞けないね」
機械的に即刻退去を命じたオニルに、クマリは明確に断った。
「……警告無視の上、抵抗の意志を確認……これより対象の無力化を行います」
オニルの警告を無視して、あくまで艦内に入ろうとするクマリに……オニルは攻撃体勢に移る。
クマリの周囲に居る6体のドローンの内、5体がクマリを取囲み、羽の様な手を前に向けた。そして……。
“バシュン!!”
取囲んだドローンの羽の様な手より、音と共にワイヤーが射出された。そのワイヤーでクマリを拘束する心算だろう。
対するクマリは、ワイヤーの射出と同時に……高く飛び上がり、ドローンの包囲から逃れた。
「力ある風よ、集いて我が敵を切り刻め 風牙!」
“ズガアァ!!”
包囲を飛び越えたクマリは、ドローンの背後から風魔法を喰らわした。
魔法に長けた長耳族であるクマリの風魔法は……十分にエーテルが練られ、初級魔法とは言え強力だ。
しかし、風魔法をまともに喰らったドローンは吹き飛ばされて散り散りになったが、全くダメージを受けていない様だ。
「ちぃ! 魔獣の様にはいかないか! だが、隙は出来た!」
ドローンを風魔法で吹き飛ばしたクマリは、そのまま船首の方へ駆け出す。
吹き飛ばされて、クマリを取り逃がした5体のドローンは、すかさず駆け出したクマリを追った。
追うドローンの移動速度は速かったが、駆けるクマリは風魔法を身体に付与している為、到底追い付け無かった。
このまま、クマリは逃げ切れると思ったが……。
“ヴヴヴヴヴヴン!”
クマリの周囲から量産型警戒用ドロイドが、大量に転移されたのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は5/22(日)投稿予定です、宜しくお願いします!